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復興に寄与する山形の文化実践――是恒さくら・高倉浩樹[編]『災害ドキュメンタリー映画の扉:東日本大震災の記憶と記録の共有をめぐって』(新泉社、2021年)評

東日本大震災の経験がそれ以前のさまざまな災害のそれと異なる点のひとつに、映像メディアとの関わりがある。10年前の当時とは、ソーシャルメディアが一部の先鋭的な人びとにひろがり始めていた時期にあたり、人びとが未曽有の体験を記録するにあたっての新たなツールとなっていったのだった。

本書は、そうしたメディア体験としても画期的であった東日本大震災をモチーフとした災害ドキュメンタリー論であり、震災映像アーカイブのさまざまな実践の記録である。編集しているのは、東北大学の災害人文学チーム(人類学、宗教学、歴史学、社会学などの専門家と芸術家からなる研究グループ)で、これまで震災映像を用いた災害研究と実践活動とにとりくんできた。

現在、映像による災害記録はごくありふれたものとなっている。東日本大震災についても膨大な映像が存在し、災害デジタルアーカイブとしてまとめられている。一方で、被災地ではこの10年、数えきれないほどのドキュメンタリー映画が撮影・製作・上映されてきた。だが、それらのアーカイブをどう構築し、今後の減災に活用していくかについての研究/実践はまだ始まったばかり。本書はそうしたとりくみの中間報告にあたる。

とはいえ本書では、何かまとまった論点や結論が示されることはない。積み重ねてきた対話や議論がインタビューやクロストークのかたちで収録され、あとはそれに、各分野の専門家たちがそれぞれに注釈めいた論考を寄せているのみ。要するに、これらを素材に一人一人がどう考えるか、それが問いかけられているのである。ドキュメンタリーの方法それ自体を再現しているとも言えようか。

本書には、被災地において移動映写実践にとりくんできた山形国際ドキュメンタリー映画祭の高橋卓也さん、震災後の列島各地における「エネルギー自治」を取材した『おだやかな革命』の監督・渡辺智史さんがキーパーソンとして登場する。そこからは、山形の文化実践がどう被災地の復興に寄与しているのかも見えてくる。本県の人びとにもぜひ手にとっていただきたい一冊だ。

※『山形新聞』2021年8月18日 掲載

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