都市イメージを疑う――「東北の春」に向けて(15)
これまでも何度か書いてきたが、この秋も地元・山形のあちこちで「まちあるき」を行った。昨年度に引き続き、そのまち/地域に詳しい歴史家や社会学者の方がたにご案内いただきながら、都市のなりたちに関わる場所をたどり歩く、というイベントを開催。毎回10名ほどの若い人たちが集まり、既知のまちの未知のレイヤーと出会っていくコミュニティ・ツーリズムの企画である。
このとりくみには、「やまがた社会貢献基金」より助成をいただき、全部で四つのコース・デザインを行った。その成果はもうすぐ『まちあるきのススメ@ヤマガタ:ヤマガタ・コミュニティツーリズム・ガイドブック 庄内・村山篇(仮)』という冊子(ぷらっとほーむ[編])にまとめる予定だ。今回はこの四つの「まちあるき」コースについてご紹介したい。
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■コース(1) 上山は、江戸の観光都市?
[上山城 → 武家屋敷 → 藩校明新館跡地 → 湯町 → → 浄光寺・月秀上人墓所 → 上山温泉源泉・鶴の休石 → → 下大湯公衆浴場 → 羽州街道]
上山は、丘の上にそびえるお城と温泉とで有名なまちです。しかもその温泉は、鶴がその傷を癒していたのが発見された発端という伝承から「鶴脛(つるはぎ)の湯」とも呼ばれます。伝承の真偽はともかく、温泉は、江戸期に上山藩を統治した能見松平氏が都市経営のコンテンツとして整備したもの。当時は、旅の文化が活発化し、各藩が交流人口の拡大をもくろんで、さまざまな「観光まちづくり」を競いあった時代でもありました。上山城下を歩くと、そうしたとりくみの痕跡をあちこちに確認することができます。
■コース(2) 酒田はかつて、山形の表玄関だった?
[日和山公園(常夜灯・方角石) → 皇大神社・金比羅宮 → → 旧小幡・酒田酒造・白ばら → 日枝神社・光丘文庫 → 相馬楼・姿見小路 → 山形地方裁判所酒田支部(旧刑場)・見返小路・新町 → 旧白崎医院]
酒田は、江戸の商人・河村瑞賢が開いた西廻海運の起点となる近世以来の湊町です。古くは「砂潟」とも書かれたこのまちは、日和山から東にのびる庄内砂丘の微高地と最上川・新井田川に囲まれた狭隘な土地に、奥州平泉に由来すると言われる商家(三十六人衆)がつくったものです。彼らは、北前船による日本海交易で財を成し、一時は「西の堺、東の酒田」と呼ばれるほどの都市自治を獲得したといわれます。日和山とその周辺には、往時の繁栄の痕跡をあちこちに見ることができるのです。
■コース(3) 酒田は実は、武家のまち?
[山居倉庫 → 酒田町奉行所跡 → 亀ヶ崎八幡神社・亀ヶ崎城土塁・森藤右衛門顕彰碑(酒田県庁跡地) → 緑道 → 袋町・観音寺・亀ヶ崎城丸之御橋跡・長泥町 → 青原寺・志村光安墓所]
酒田といえば、湊町のイメージが一般的。でも、実は酒田にはもうひとつのあまり知られていない顔があります。それは、武家がつくったまちとしての酒田というもの。観光拠点・山居倉庫から東へ新井田川をわたると、そこには庄内藩酒井氏の支配拠点・亀ヶ崎城とその武家地がひろがっています。もとは最上義光が築城し、明治期には酒田県庁として用いられ、ワッパ騒動(庄内版・自由民権運動)の際には蜂起した農民たちの目的地となりました。この「もうひとつの酒田」を、歩いて体験してみましょう。
■コース(4) 山形は、〈東京〉に飼いならされたまち?
[JR山形駅 → 駅前通り → 羽州街道・十日町 → 紅の蔵 → 小姓町 → 羽州街道・七日町 → 文翔館(旧・山形県庁) → 三島通り → シネマ通り]
山形は、①戦国大名・最上義光が基盤をつくった城下町、②明治期はじめに県知事・三島通庸が拡大した植民地都市、そして、③明治末の霞城連隊ならびに鉄道開通・大正期の山形高等学校(現・山形大学)が需要を喚起した消費都市、という三つの層をもつ都市です。近世には最上川水運・出羽三山参詣と結びついて発達した山形のまちは、近代になると〈東京〉(=首都・国家)とのつながりによって再編されていきます。県庁然り、連隊然り、鉄道然り、大学然り。まちのあちこちに、〈東京〉への服属の痕跡が残っています。
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あらためて四つのコースを並べてみると、うっすらと共通しているモチーフが浮かび上がる。それは、従来の都市イメージを疑う視点だ。コース(1)では「上山温泉=鶴脛の湯」イメージが、コース(2)では「酒田=裏日本」イメージが、コース(3)では「酒田=湊町」イメージが、そしてコース(4)では「三島通庸=近代化の父」イメージが、それぞれ挑戦を受ける。代わりに浮上してくるのは、より多義的でさまざまな解釈に開かれた都市の像である。かような相対化こそ、単なる都市観光とは異なり、書物を片手に街にくりだす「まちあるき」の醍醐味ではないかと思われる。
(『みちのく春秋』2017年冬号 所収)
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