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アルコールは人類学。

 僕はお酒が好きだ。お酒を飲むことで一時的に精神が安定するというのもあるが、世界各地でどういう経緯をもってお酒が生まれ、そして楽しまれて来たのかを考えるという楽しみもある。
 例えばビール。作り方の詳細までは知らないが、中世のヨーロッパで生まれたビールは、当時はやはり今ほど水の浄化技術などはなく、生水を飲むことでおなかを下したりして健康を害していることが多かった。そこで、一度水と麦やらを熱し、発酵させたビールは生水のような食あたりもなく、なおかつ仕事中の水分補給として飲むことで、栄養も摂取できるという優れものだったのだ。ただ思うのだが、きっと現代の人間に比べて刺激物などに慣れていないであろう昔の人は、べろべろになりながら常に仕事をしていたのだろうと考えるとなお面白い。
 そして、よく「薬みたいな味」と揶揄されるジン。ジントニックなどのカクテルで楽しまれることが多いが、昔はそれこそ薬のような使われ方をしていたようだ。薬草や香草を詰め込んで作っているジンは、昔の船乗りたちが薬として飲むため船に積み込まれていたそうだが、やはりあの味は万人受けするものではなく、船乗りたちもあまり好んで飲む人はいなかったようだ。だがそれを危惧したある学者が、今でいうトニックウォーター、水の中に柑橘類のエキスや砂糖などを入れた水で割ったカクテルを考案した。これが今でいうジントニックなわけだが、当時はやはり船員の体調管理やエネルギー源として飲まれていたようで、船に乗ってる人たちがそんないっつもアルコール飲んで大丈夫なのだろうかとも思うのだが、きっと昔はそんな危険意識などはなかったのだろう。

 というかふと気になったのだが、なぜ昔のヨーロッパの人は手軽に栄養を補給するための飲み物を飲んでいるのだろうか。特に仕事中ばかり飲んでいて、これはただの呑兵衛というわけではなさそうだ。と思い今手元にある「アルコール飲料の歴史」を再度読み返してみた。当時読んだときは見逃していた、というより読んだ記憶が抜け落ちていたのだが、どうやら昔のヨーロッパでは1日のうちに12時間以上労働をするのが普通だったようだ。恐ろしい。そんな事情があれば仕事中の小まめなエネルギー補給が必要なのも納得がいく。

 「お酒の話」と聞いて、きっとウイスキーについて熱く語っている僕を想像した人も多いと思うが、知らない方のために言っておくと、僕はウイスキーという飲み物が大好きだ。家にウイスキー関連の文献や本が15冊以上あるほどには好きだし、様々な歴史を調べて楽しんでいる。だからこそウイスキーについては語りたくない。だって僕が何年もかけて得た知識が、僕以外の自称ウイスキー好きに覆されたくないからだ。今まで何を飲んだか覚えていないほどの種類のウイスキーを口にしてきたし、いつも通っていたバーに行ったら、僕のために新しいウイスキーを常に入荷していてくれるほどだった。一番情熱を注いでいた時期には、仕事の出張で全国を回っている時には、一番最初に酒屋さんを訪れては飲んだことのないウイスキーを買いあさるほどだった。僕にとって、ある意味ウイスキーは人生だと言えるだろう。
 だから今回はウイスキーには触れずにお酒の話を終わりたいと思う。

 ああ、禁酒中でお酒を飲めないときにお酒の話など語るべきではなかった。


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