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崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 2023.04.17


⭐️お知らせ
今まで「日経ビジネスの特集記事」を3回に分けて投稿してきました。
2023.04.10 号から1回のみの投稿とします。

その理由は4つあります。
① 投稿記事の分量が多すぎたため消化不良になりがちであったこと。
② 日経ビジネスの発行日と投稿日とで約1年のずれが生じていること。
③ 日経ビジネス電子版をもっと活用し、過去記事や関連記事からポイントとなる個所を紹介したい思いが日に日に募ってきたこと。
④ スマホで読んでもらうことをもっと意識し、文章を短く、簡潔に書くことに重点を置きたいと考えたこと。

つまり、ダイジェスト版として投稿したいと考えたのです。

今後は、特集記事を一気読みし、要点を整理し、エッセンスを投稿するという方針に変更します。どこまでできるかは「神のみぞ知る?」。




日経ビジネスの特集記事 92

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 2023.04.17

<このページでは、『日経ビジネス』の特集記事の概要紹介と、管理人のコメントを掲載しています>

CONTENTS

PROLOGUE 万年「定員割れ」の末に

PART 1 「もう批判しない、自分でやる」理想の大学づくり始動 楽園生活に終止符 

PART 2 間に合うか「国策グローバル化」鍵は国際性と研究力 衰退傾向に歯止めを

PART 3 公立化、国家資格取得推進 背水の地方中小大学 生き残りに知恵絞る

     大学改革、私はこう考える

EPILOGUE 取り戻せアジアの雄の魂


今週の特集記事のテーマは

日本の大学の国際的地位が下がり続けている。国際性や研究力は中国などに抜かれ、差はなお拡大している。もう日本から優秀な人材を輩出できなくなるのではないか──。産業界からは不安の声が上がり、大学新設に乗り出す経済人の姿も。英語による授業の拡充や、留学生との濃密な交流など一部の大学では成果も見られる。

(『日経ビジネス』 2023.04.17 号 p. 010)


PROLOGUE 万年「定員割れ」の末に

札幌国際大学のケースは、地方の中小大学、いや全国の大学の問題点が凝縮されていると考えられる。

前学長が開いた記者会見に同席したなどとして
懲戒解雇された大月氏。
当時は札幌国際大学人文学部の教授だった
(写真=川村 勲)

札幌国際大学(札幌市)で人文学部の教授だった大月隆寛氏

「何とか大学を正常化したかったのだが、志半ばで懲戒解雇されてしまった」。札幌国際大学(札幌市)で人文学部の教授だった大月隆寛氏は、校舎を見上げながら、唇をかんだ。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人   
2023.04.17  
p. 012  


発端は留学生の大量入学ー「授業を受けられる日本語能力のレベルにない外国人留学生が相当数いる」

 発端は留学生の大量入学である。「授業を受けられる日本語能力のレベルにない外国人留学生が相当数いる」。入学直後の留学生のクラスを受け持った教員からそんな悲鳴が上がった。観光学部に入ったのに、日本語の「観光」の意味が分からない──。そんな状況だったという。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 012 


定員割れを防ぐために「偽装」したことが分かる。

留学生の受け入れー明確な合格基準点がなく、合格率は90%以上に達した

 実は、札幌国際大学では一部の学科を除いて定員割れが続いていた。定員充足率が65%だった18年、理事会は国際化を掲げ、留学生を毎年80人以上受け入れることを決めた。19年度の春学期入試では中国の複数の都市で入試を開催し、約40人が入学した。明確な合格基準点がなく、合格率は90%以上に達した。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 012
 


定員充足率のかさ上げ、国からの補助金を不正受給の懸念

 留学生を使って定員充足率をかさ上げし、国からの補助金を不正受給しているとみられる懸念があった。問題視した城後豊学長(当時)は同年夏、理事会で実態を報告した。
 理事長側は、留学生の受け入れで授業料収入と補助金が復活し、1億円以上の増収となったことは認めていた。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 012
 


日本の大学をむしばむ3つの問題

 この事件は、今、日本の大学をむしばむ3つの問題を浮き彫りにした。
 一つは大学の存在意義ともいえる教育の形骸化だ。日本語での授業を理解できない留学生を受け入れて混乱を招いた事実は、大学が学びの場であること自体を否定している。
 もう一つは、多くの大学が取り組んでいる「国際化」が、人数合わせの口実になっていると受け取られかねない状況にあることだ。札幌国際大学の場合、札幌出入国在留管理局(入管)が調査し、法令違反はなかったものの、入試制度の見直しなどを求める口頭指導を受けた。
(中略)
 ここに3つ目の問題がある。大学運営のガバナンスである。騒動の責任は城後氏側にあるとする理事会は学長の報告を「怪文書」と断じた。誠意ある対話ができた形跡はない。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 013
 


札幌地裁の判決を受け、会見に臨む大月氏(中央)。
奥に座るのが城後前学長(写真=共同通信)


日本の18歳人口は30年でほぼ半減した

●18歳人口の将来推計(出生中位・死亡中位) 
出所:文部科学省「学校基本調査」/
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」
などから日経ビジネス作成

日本の「少子化」という本質的な問題が浮き彫りになっている

 日本の18歳人口は1992年の205万人をピークに、2023年は112万人とほぼ半減。これに伴って大学入学志願者も減り始めている。

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2023.04.17 
p. 013
 



PART 1 「もう批判しない、自分でやる」理想の大学づくり始動 楽園生活に終止符

 日本経済が低迷する中、大学教育に不満を持つ経済人が次々と立ち上がった。アスキー創業者は大学設立を目指し、「プレステの父」は学部長になった。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 014
 

理想の大学づくりの本気度が試される時が来ました。
一部の経済人は本気で大学を改革しようと取り組んでいます。その覚悟が実を結ぶ日が訪れることを願う。

「今年の学生は、いいタイミングで入ってきたと思うの」。作家で日大理事長の林真理子氏はインタビュー中、そう切り出した。「新体制になって、教職員たちが皆『学生たちを満足させるぞ』などと、やる気に燃えている」と表情を緩ませた。

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2023.04.17 
p. 014
 


マンモス大学、日本大学で醜聞が巻き起こった。その不名誉な出来事に真摯に対処し、将来を見据えた大学の在り方に一石を投じた作家であり、日大OGで現日大理事長の林真理子氏の動向に注目が集まる。


田中元理事長の影響力一掃

(写真=左:陶山 勉、右:共同通信)


 林氏が、火中の栗を拾うかのように日大理事長に就いたのは2022年7月だ。取引先からリベートを受け取るなどして、大学を私物化した田中英寿・元理事長が招いた混乱の収拾を託された。
 林氏は理事長に就任すると、田中氏の影響が及ばない体制を築くとともに、「学生ファースト」の方針を打ち出した。やる気に燃える教職員たちと現在、学生のために教育環境の充実などに取り組む。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 014
 


権力の座に就くと、必ずと言ってよいくらいに組織を私物化する輩がいる。
自律することができない人間が上に立つとろくなことはない。

 林氏は、経済界からも強い味方を得た。日本を代表する経済人の一人であるオリックスの宮内義彦シニア・チェアマンを、日大顧問として招いたのである。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 014
 


大学は何を目的とする場所なのか?
この根本的なテーマを避けては先に進めない。

サークル活動や、社会人になるまでの短期間に遊ぶための場所でないことだけは自明である。

そう、大学は「勉強」するための場所だ。はき違えてはならない。

宮内氏は大学の現状に嘆く

「大学が“楽園”になってしまっている。日本ほど学生が勉強せずに、大学生活をエンジョイしている国は、ほかにないのではないか。日本の大学の多くが良い学生をつくるという目標を達成できておらず、必死に勉強している海外の大学生との間に、学力で大きな差が生じている」と嘆く。

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2023.04.17 
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宮内氏が“楽園”と評する大学教育の実態

 宮内氏が“楽園”と評する大学教育の実態は、東京大学の大学経営・政策研究センターが実施した調査からも見て取れる。同センターが全国各地の大学を調べたところ、1週間に11時間以上を学習に充てている大学1年生は、15%にとどまることが分かった。これは米国の大学1年生の58%を大幅に下回る水準だ。
 それにもかかわらず日本の大学では一般的に、学生の9割が無事に卒業している。大して勉強しなくてもほとんどの学生が卒業できるのなら、大学が“楽園化”してしまうのも無理はない。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 015
 


対照的な米国

 対照的なのが米国。日本の学生より熱心に勉強していても、卒業できるのは5割という大学が珍しくない。欧州の大学でも6割や7割といった水準が当たり前だ。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 015
 


私は1978年に大学を卒業したが、当時から「日本の大学は入るのは難しいが、出るのは易しい」と言われたものだ。今も実態はそう変わらないかもしれない。

⭐私は青山学院大学文学部英米文学科出身だが、当時の英米文学科は、卒業までの4年間で必修科目と選択科目の取得には制約があった。

他学部では1~2年時に必修科目の他に選択科目でも、ほとんど上限なく取得することができた。そのため3~4年時はかなり時間的な余裕があったように記憶している。

一方、英米文学科では1年時に取得できる科目の下限と同時に上限も設けられていた。つまり、落第しないための最低限の科目取得と、これ以上は科目を取得できないキャップ制があったのだ。

2年時でも同様だった。

3~4年時でも、必修科目でも選択科目でも、進級しなければ取得できない科目があった。

つまり、1~2年時にまとめて履修し、3~4年時にのんびり過ごそうなどということはできなかったのだ。⭐⭐

●日米大学1年生の1週間の学習時間 
注:文部科学省の中央教育審議会
大学分科会大学教育部会の資料から作成


日本企業にも責任がある

 もちろん、学生が勉学をないがしろにしている責任を、大学だけに押し付けるわけにはいかない。日本企業もその一端を担っている。
 日本企業は一般的に、新卒採用の選考過程で、大学で良い成績を収めたかどうかをさほど問うてこなかったからだ。好成績を取っても就職にあまり有利とならないのなら、よほど意識が高くない限り、学生たちは怠けてしまうだろう。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 015
 


なぜ企業は学生の成績を重視してこなかったのだろうか?

「我が社色」の染め上げる

 企業が採用時に大学の成績を軽視してきた背景には、新卒者には、まっさらな状態で入社してもらって、社内で教育すればよいという、日本独特の考え方がある。宮内氏は、「日本の多くの会社は、新卒者を社内で鍛えて、『我が社色』に染め上げている。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
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人事採用者が「今年の新卒者は個性がないな」などとうそぶくことがあったが、「何を言っているんだ!」と言いたい。没個性の学生ばかりを採用したのはそちらだろうと。

宮内義彦氏。1964年のオリエント・リース
(現オリックス)設立を主導し、
長く経営者を務めた。
90年代半ばから政府の民間委員として
規制改革にも携わった。
(写真=村田 和聡)


宮内氏は訴える 企業に必要な人材は「トンガリスト」

 知識集約型産業で大切となるのは多様性だ。様々な専門分野でとんがった人材が集まり、意見をぶつけ合う中から新しい価値を創造していかねばならない。今、企業に必要な人材はゼネラリストではなく、『トンガリスト』だ」と訴える。

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2023.04.17 
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日本の大学の現状に業を煮やし、自分たちで大学を改革してやろうとして、一部の経済人が立ち上がり、自ら第一線に立っている。アクションを起こしたのだ。

無論、成功するかどうかは神のみぞ知るであるが、頭で考えるだけで行動しない学者たちとは一線を画する。

アスキー創業者、西和彦氏

 学生時代にアスキー出版(後のアスキー)を創業し、設立間もない米マイクロソフトで副社長や取締役を務めた西氏は、インタビューが始まるや否や、唐突に告白した。

「私、破産宣告を受けました」

 知人の会社の経営が傾き、債務を保証していた西氏は、債権者から第三者破産を申し立てられた。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 016
 


西和彦氏。1956年生まれ。
学生時代にアスキー出版を創業。
40代半ばから大学教育に携わる。
現在、祖母が設立した中高一貫の
須磨学園の学園長も務める。
(写真=稲垣 純也)


西氏が開校する「日本先端工科大学(仮称)」

 25年4月に神奈川県小田原市で「日本先端工科大学(仮称)」を開校することを目指して奔走する。 
 西氏はこれまでも約20年にわたって東京大学や東京工業大学、工学院大学、早稲田大学の教壇に立つなどして、大学教育に携わってきた。その中で、既存の大学が、必ずしも優秀な人材を育てるのに最適なシステムになっていないと思うようになった。これが大学設立を目指す原動力となっている。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 016
 


この大学の特徴とは何か?

 現在、開校を目指している日本先端工科大学では、かつての西青年のように、理系科目に能力が偏っていても、優秀なら筆記試験をパスできるようにする。
 そして筆記試験以上に重視するのが面接試験だ。
(中略)
 偉そうで、大物感が漂う従順ならざる人物──。そんな周囲から浮いたような「突出した人材」を西氏は求めている。それは西氏本人のタイプに重なる。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 016
 


大学の商品は学生

 西氏は、「誤解を恐れずに言えば、大学の商品は学生と思っている。そしてお客さんは企業だ。材料を仕入れて、教育して、企業に出荷する。学生を企業に喜ばれる人材に育て上げられるかどうかがすべてだ」と、経済人らしい発想で、開校に向けまい進する。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 017
 


プレステの父、久多良木健氏

「突出した人材」を社会に送り出そうとしている西氏に対して、ソニーの元副社長で「プレイステーション(プレステ)の父」と称される久多良木健氏は、「未来をつくれる人材」を輩出しようとしている。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 017
 


久多良木健氏。1950年生まれ。
75年にソニーに入社。
93年にソニー・コンピュータエンタテインメント(現SIE)
を設立し、ゲーム事業をけん引した。
(写真=陶山 勉)


暗記力を試すような教育方法を問題視

 久多良木氏が問題視しているのは、学生の暗記力を試すような教育方法だ。「正解が一つしかない問題をマル・バツ式で問う従来型の教育方針だけでは、子供たちの豊かな創造性は育めない。正解を暗記せずとも、ネットで調べればすぐに分かる時代だ。重要なのは、『なぜそうであるのか』を思考することにある。ゼロからイチを生み出すための想像力を養い、未来を切り開く力をトレーニングすることこそが、今必要とされる教育だ」と語る。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 017
 


暗記について30~40年前に読んだ本の中に、とても印象に残っている言葉がある。書名や著者名は覚えていない。

「暗記とは、その元となる書籍や執筆者に洗脳されることである」

正確にこう書いてあった訳ではない。このような内容であったということだ。今考えても、他人の言葉や考え方を、何の疑問も持たず鵜呑みにしてはいけないという戒めになる。

「自調自考自働」

この言葉の内、「自調自考」は渋谷教育学園の教育理念だ。文字通り、自分で調べ、自分で考えることの大切さを述べている。

だが、私はこれだけでは不十分だと考えた。行動することがもっと重要だ。自働は自動とは異なり、意思を伴わず機械的に動くのではなく、人間が介する動き=人間が働くという意味である。さらに言えば、率先して行動するだけでなく、周囲の人たちを巻き込み、行動を促すために働きかけることも意味している。

詳細については下記の記事を参照されたい。


必要になるのは未来をつくれる人材

 久多良木氏は、「初代プレステを発売してから30年近くがたった今、世界は激変している。ソニーグループも含め、既存の延長線上にとどまらない新たな時代を創造していかねばならない」と言う。そのためにも必要になるのが、未来をつくれる人材である。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
pp. 017-018
 


ニデック(旧・日本電産)の永守重信会長は、「即戦力になる人材を育成したい」

 永守学園の理事長を務めるニデック(旧・日本電産)の永守重信会長は、「即戦力になる人材を育成したい」などと、日経ビジネスをはじめとする各メディアのインタビューで繰り返し公言してきた。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 018
 


京都先端科学大学を運営する永守学園の
永守重信理事長(写真=菅野 勝男)


口も金も出す理由 既存の大学教育に物足りなさを感じている

 永守氏が京都先端科学大学を運営する永守学園の理事長に就任したのは18年である。これまで200億円の私財を学校側に投じてきた。口だけでなく、お金も出して、理想の大学づくりに突き進むのは、西氏や久多良木氏と同じように、既存の大学教育に物足りなさを感じているからだ。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 018
 


西和彦氏、西和彦氏そして永守重信氏の3人に共通するのは、日本の次代を担う若者たちを輩出したいと熱い想いだと思う。

日本が世界をリードしていくためには人材育成が不可欠だ。そのための大学教育が極めて重要だと捉えているからに違いない。


PART 2 間に合うか「国策グローバル化」鍵は国際性と研究力 衰退傾向に歯止めを

 日本の大学の影がどんどん薄くなっている。競争力ランキングは下がる一方。国際性が低く世界から取り残されると焦る政府や大学が解決に乗り出した。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 020
 


日本の最高学府の衰退が止まらない──

 日本の最高学府の衰退が止まらない──。英教育誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が2022年10月に発表した「THE世界大学ランキング2023」は、そんな厳しい現実を私たちに突きつけた。
 国際性や研究力などの5分野の評価に基づいて世界の大学を総合的に順位づけしたもので、日本勢で最高順位だった東京大学は前年の35位から39位に後退。2番手の京都大学も61位から68位に順位を下げた。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 020 


「THE世界大学ランキング2023」の日本の上位校は
(左から)東京大学、京都大学、東北大学。
だが世界での存在感は薄い(写真=3点:PIXTA)


スーパーグローバル大学創成支援事業

 文部科学省が何も手を打っていないわけではない。同省は14年度から23年度まで「スーパーグローバル大学創成支援事業」を実施している。目的は、日本の高等教育の評価を向上させ、優秀な人材を輩出する環境を整えることだ。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 020 


事業期間は2014 ~ 23年度。
採択された大学は、文部科学省から最大10年間の
支援を受けられる 
注: 文部科学省「高等教育局主要事項
-令和5年度予算(案)-」と
「スーパーグローバル大学創成支援事業」
ウェブサイトから作成


問題は、この事業が成果を挙げているとは言えないことだ。

 事業開始からまもなく10年がたとうとしている。しかし、直近のランキングを見る限り、掛け声通りの成果が上がっているとは言いがたい。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 020
 


教員に占める外国人及び外国の大学で学位を取得した専任教員等の割合

 22年度は35.1%で、13年度から7.5ポイントしか増加していない。目標としている23年度の47.4%の達成は難しい状況だ。
 海外の大学に在籍した経験が少ない日本人の教員が大多数を占めるという、内向きの体質が浮かび上がる。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 021
 

しばしば指摘されることは、大学の英語の教員が英語でコミュニケーションが取れない(英語が話せない)という実態だ。

それだけではない。「日本語でしか論文が書けないことが多い。そうした論文は、海外の研究者の目に留まらず、論文で引用されることはあまりない(p. 021)

そうであれば、

「被引用数」が少ないと、世界大学ランキングにも響いてくる。学術界への影響力が弱く、研究力が低いとみなされるからだ。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 021
 



つまり、日本の学生があまり勉強しないため学力が向上しないというだけではなく、大学教員のレベルが低いために、「世界大学ランキング」において日本の大学が下位に甘んじているというロジックだ。

そこで、米国の大学が長い間続けてきた「大学ファンド」を日本にも導入することになった。

大学ファンドとはどのようなものなのか?

10兆円規模の大学ファンド

 危機感を抱く政府は、研究力が世界最高水準に達する可能性のある国内の大学を「国際卓越研究大学」として認定し、24年度から資金面で支援することにした。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 021
 

やらないよりはやった方がよいのは言うまでもないが、付け焼刃的で成果がすぐに出てくるわけではない。

一般論だが、日本では国や自治体が行うことはスタートが遅く、しかも成果目標を掲げても目覚ましい成果を上げるという例は、私見であるが、あまりないように思う。責任の明確化がされていないことがその理由と考えられる。

10兆円規模の「大学ファンド」

 支援開始に向けて財政投融資を主な財源とした10兆円規模の「大学ファンド」をすでに立ち上げた。年間3000億円の運用益を見込んでおり、これを国際卓越研究大学に分配する。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 021
 


既述のように、大学教員のレベルが低いのであれば、底上げ策を講じるか、海外からトップレベルの教員を大学に迎い入れるということが考えられる。
そこで課題となるのが、給与水準の見直しである。
そのために活用する手段として「大学ファンド」がある。

教員の給与体系の見直し

 世界トップクラスの教員を招へいするには、給与体系の見直しも必要になってくるだろう。日本の大学は教員の給与水準がほかの先進国と比べて低いためである。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 022
 


米国と日本の教授の年収格差

 名古屋大学の杉山直総長は、「日本経済が長く停滞している間に、米国など海外の先進国の大学との間に、大きな給与格差が生じてしまった。米国などの大学では、通常のレベルの教授であっても年収が2000万円程度は珍しくない」と解説する。「卓越した能力」を持つ教授になると、3000万円を超えることもある。
 これに対し、名大を含めた日本の国立大の教授の年収は1000万円程度。海外の先進国の教授からすれば大幅に低い水準だ。しかも、日本の大学では能力に応じて年収に大きな差をつけるような仕組みもあまりない。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 022 


「卓越教授」制度

 杉山総長は、名大の独自の取り組みとして、23年度から理系の学問などで世界レベルの研究を手掛ける人材を特別待遇する「卓越教授」制度を設けた。年収は2000万円以上になるとみられる。
 最初に白羽の矢を立てたのは学内の教授だ。ノーベル物理学賞を受賞するなど、世界最高水準の研究実績を残したことを評価して、天野浩・名大教授を卓越教授に選定した。加えてオーストラリアの大学からナノテクノロジーが専門の日本人研究者を卓越教授として呼び寄せた。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 022 


「卓越教授」制度が、他の日本人教員たちのモチベーション向上に寄与するかどうかは今後、注視していく必要がありそうだ。兎にも角にも、「成果」を示さなくてはならないからだ。
日本の大学の凋落を食い止めなくてはならない。

次からは、複数の大学の取り組みを概観することにしよう。

🔴国際基督教大学(ICU)
講義集中化で濃密な議論

米欧式に1科目の授業を週に2~3回実施し、週に数科目を集中的に学ぶ

 日本では1科目を週に1回受講し、1週間に10科目以上を受講する場合が多い。授業は100人を超える講義形式も多く、学生は発言や議論をあまり求められない。一方、ICUでは、米欧式に1科目の授業を週に2~3回実施し、週に数科目を集中的に学ぶ。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 023
 


「国際性」のスコアが最も高いICU

 ICUは23年版「THE日本大学ランキング」の総合スコアにおける上位10校の中で「国際性」のスコアが最も高い。学生の外国人比率は14.4%(22年10月1日時点)だが、専任教員の8割以上が海外大学の学位取得者で、開講科目の約33%が外国語で行われている。日英両語を公用語とし、文理を超えた「リベラルアーツ教育」を実施しているのも特徴だ。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 023
 

リベラルアーツとは一般教養の意味であるが、文系、理系の区別なく、身に着けるべきベースとなる学問である。基礎固めがまず重要で、その次に応用(専攻)へと進むことになる。

リベラルアーツ教育により「その分野に明るくない人にも分かりやすく説明する能力が身に付く」

 入学すると学生は全員、教養学部アーツ・サイエンス学科に所属する。1~2年目は計31分野から関心のある授業を履修し、2年目の終わりまで専攻は決めない。「理系と文系の教科が混在し、様々な国籍の人がいる中で、議論を交えた授業をする。その分野に明るくない人にも分かりやすく説明する能力が身に付く」と岩切学長はメリットを説明する。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 023
 


「グローバル化は固有の文化や価値観を
超えたところにある」
と話す岩切正一郎学長
(写真=竹井 俊晴)



🔴国際教養大学(AIU)
英語必須、使えるツールに


国際教養大学(AIU) 授業をすべて英語で実施

 英語の活用を進めるだけでなく、思い切って授業をすべて英語で実施している大学もある。秋田県にある国際教養大学(AIU)だ。専任教員の外国人比率は約59%。残り約4割の日本人教員の多くも、海外で最終学位を取っている。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
p. 024
 

あくまで英語はコミュニケーションツール(手段)であって目的ではないということ。

英語を道具にして国際性や教養を磨く

 英語力の上達を目的としているというよりは、英語を道具にして国際性や教養を磨くところに狙いがある。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
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学際的な専門性を身に付ける

 モンテ・カセム理事長・学長は「学際的な専門性を身に付けることを重要視している」と話す。学際的とは、複数の学問領域をまたぐということ。「知識が専門的すぎると、『たこつぼ化』してしまう。学生には広い視野で物事を見る能力も必要だ」とカセム学長は言う。

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2023.04.17 
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国際教養大学(AIU)と国際基督教大学(ICU)は方向性という点で、一致している。リベラルアーツ教育という言葉を使うか使わないかという違いはあるが、学問領域を狭めないという点で共通点がある。


カセム理事長・学長(写真=中野 淳)


世界大学ランキングで1位の英オックスフォード大学

 一般論で言えば、学部は教養を含めた比較的幅広い知識を身に付けるところで、大学院はより専門性の高い内容を学ぶところだ。海外では、学部よりも大学院の方が、留学生が多い傾向がある。世界大学ランキングで1位の英オックスフォード大学では、学部における留学生の割合は2割で、大学院では6割強になる。「学際的な専門性」を掲げるAIUが両者のバランスをどう取るか。特徴ある大学ゆえの課題といえそうだ。

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24時間365日開館の図書館
(写真=国際教養大学(AIU)提供)



🔴立命館アジア太平洋大学(APU)
寮の2人部屋は国籍混交


日本人と外国人留学生の比率を1対1にする

 留学生の受け入れ数が多いことで知られる大学には、大分県別府市の立命館アジア太平洋大学(APU)がある。00年の開学以来、日本人と外国人留学生の比率を1対1にすることを目標に掲げている。

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2023.04.17 
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9割以上の授業が英語と日本語の両方で実施

 受け入れ国・地域も拡大している。00年は25カ国・地域だったが、22年には約4倍の102カ国・地域にまで増えた。「世界の縮図がキャンパス内にある」とライフネット生命保険創業者の出口治明学長は自負する。
 AIUなどと異なるのは、9割以上の授業が英語と日本語の両方で実施されているところだ。

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2人部屋では必ず国内の学生と留学生を組み合わせる

 APUでは、新入生は入寮が推奨されている。1人部屋と2人部屋があり、2人部屋の場合は、必ず国内の学生と留学生を組み合わせる。あえて歴史観や文化、宗教の違いに直面させることが狙いだ。

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2023.04.17 
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文化なのど違いに直面させ、考えさせる方針なのだろう。問題が発生してもまず自分たちで解決する糸口を見つけさせる狙いがあると考えられる。


APUを「世界の縮図」と表現する出口学長。
留学生を受け入れる国・地域を
さらに増やすことを目標に掲げる
(写真=山本 巌)


一見すると三者三様のユニークな大学だが、もちろん共通点がある。
それは「国際化」と「教育と大学のレベル向上」を目指している点だ。

長期的視野に立ち、試行錯誤し、一定の水準を保ちながら、「国際大学」の地位を高めていく試みはいつか実を結ぶであろう。期待している!



PART 3 公立化、国家資格取得推進 背水の地方中小大学 生き残りに知恵絞る

 速いペースで少子化が進む地方では、中小私立大の4割が赤字だ。運営を自治体が引き継ぐ「公立化」などで生き残り策を探る。

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地方私立大学の「大学公立化」

 都市部より速いペースで少子化が進む地方では今、近い将来の経営難を見越して私立大学の運営を自治体が引き継ぐ「大学公立化」が相次いでいる。23年4月には北海道旭川市が、私立だった旧旭川大学を引き継ぐ形で旭川市立大学を開学した。

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●2000年代以降、公立化した私立大学


私立大学を公立大学に変更することは都市部では考えられないことだ。
こうしたことが起きているのはどうしてなのか?

その理由の一つは次のものだ。

 きっかけは13年前。東海大学が旭川キャンパス(芸術工学部)の撤退を発表すると、「若者が地元で学べず、市外に流出してしまう」という懸念の声が市民から上がった。旭川市も危機感を抱き、経営難だった旭川大学を存続させる方法として公立化を検討し始めた。

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この変更による自治体の負担はどうなのか?

 実は、公立化しても自治体の負担はさほど多くならない。公立大の運営経費は、国から地方交付税措置の対象として支出されるからだ。この仕組みを使って学費を抑え、地方の学生に根強い「公立志向」をくすぐって、安定確保を狙った。

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一見すると、いいことづくめのように感じられるが、実際にはどうなのか?

 文部科学省の調査などによると、先行して公立化した他大学の底上げ効果は一過性であることが分かっている。
(中略)
 さらに言うまでもなく、すべての私立大学が公立化できるわけではない。兵庫県姫路市は22年、赤字経営が続く兵庫独協大学からの公立化要望を受けたが、拒否した。「公立化だけで大学の実態が向上するものではない」「自主的な運営改善に向けた取り組みが不十分」といった理由からだ。新潟県柏崎市も18年に新潟産業大学の公立化をやはり見送っている。

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当然のことだろう。バラ色の訳がない。

大学・短期大学の経営の実態

 文部科学省の集計によると、国内の大学・短期大学は1116(22年5月時点)あり、その8割は私立だ。日本私立学校振興・共済事業団の調査によれば、不利な条件にある地方の中小私立大は約4割が赤字傾向で、中小私立短大では約7割に上る。

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2022年5月時点での集計なので、その後の異動の可能性はあるが、少ないと思われる。1~2年で大きく変動するとは考えにくいからだ。

●立地別・規模別にみる私立大学の事業収支差額比率
 注:日本私立学校振興・共済事業団
「今日の私学財政(22年度版)」を基に
文部科学省が集計。
都市は政令指定都市と東京23区、
地方はそれ以外。
大規模は学生数8000人以上で、
中小規模は8000人未満


次の図表を参照されたい。
「鳥取モデル」と呼ばれるもので、産官学で連携し、”地域立” にすることだという。

産官学で連携する「鳥取モデル」

●とっとりプラットフォーム5+αの
構成団体(写真=PIXTA)


私立大学であるが鳥取県が月約6万円の奨学金を出す

「私立でも、地元のよりどころとなることで“地域立”になることはできる」。そう話すのは学校法人藤田学院(鳥取県倉吉市)の山田修平理事長である。
 鳥取県中部では1990年代から慢性的に看護師が不足。市民や経済団体から看護大学の設置を希望する声があったが、担い手がいなかった。そこで白羽の矢が立ったのが、鳥取短期大学を運営していた藤田学院だった。県や自治体の支援を受けて2015年、同じキャンパス内に鳥取看護大学を開学し、地域特性に合わせた地域・在宅医療にも対応できる看護師を育成している。

 私立大学だが、鳥取県が月約6万円の修学資金(奨学金)を出しており、学費は公立大と実質的に変わらない。卒業後に5年間、県内の医療機関などで勤務すれば、その間は返済が猶予され、一部または全額が免除される仕組みで、卒業生の県内定着率は約8割に達するという。

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山田理事長は地域が抱える課題について、
各機関が連携することの意義を説く
(写真=伊東 昌信)


こうした試みが全国的な広まりに発展するかと言えば、難しいだろう。自治体の地域特性や考え方の違いが導入を阻む要因になると考えられるからだ。


大学改革、私はこう考える

ここでは、3人の識者の意見をかいつまんで紹介するにとどめる。

学長選は廃止、内向きが生むぬるま湯
宮内 義彦氏 オリックス シニア・チェアマン

宮内 義彦[みやうち・よしひこ]氏 1935年生まれ。60年ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現・双日)入社。64年オリエント・リース(現オリックス)入社。80年社長・グループCEO(最高経営責任者)、2000年4月会長・グループCEO。14年から現職。(写真=的野 弘路)


学長を選挙で選ぶことの弊害

 私立大や公立大でも、実質的に教職員による選挙で学長を選んでいる大学が少なくない。学長を選挙で選んでいるようだと、「良い学生をつくる」という、大学の本来の目標を達成しづらくなってしまう。学長は自分を選んでくれた教職員たちの「民意」に逆らって、不人気の施策を打ち出すのが困難になるからだ。

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2023.04.17 
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学長と教員との緊張感が損なわれる

 本当なら、良い学生をつくるという目標に対して、教員たちがどの程度貢献しているかを厳しく評価し、教員同士が切磋琢磨(せっさたくま)できるよう待遇に格差をつける必要がある。
(中略)
 けれども、日本の大学ではこのような厳しい競争環境に放り込まれることに対して、多くの教員は反対するだろう。学長も、彼らによって選ばれている以上、その意向に従うことになる。

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大学教育は労働市場に従属する
苅谷 剛彦氏 英オックスフォード大学教授

苅谷 剛彦[かりや・たけひこ]氏
東京大学教育学部卒業。同大学院修士、米ノースウエスタン大学で博士号取得(社会学)。東京大学大学院教育学研究科教授を経て2008年からオックスフォード大学社会学科、および、ニッサン現代日本研究所教授。


日本の大学は教育と研究を結びつける接点が弱い

 大学の本質は、教育で「知を生産」し、さらに研究を通じて「再生産」するところにある。しかし、日本の大学は教育と研究を結びつける接点が弱い。それをうまくつなげられれば、日本の経験をどう知識として活用できるかが見えてくるのではないか。

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2023.04.17 
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大学だけ欧米流にしてもだめで、労働市場の仕組みを変えることが必要

 大学だけ欧米流にしてもだめ。本質的に一番大事なのは企業だと思う。国策の推進を背景に帝国大学ができて、明治維新以降の近代化や戦後の経済成長で私立大学が増えたように、日本の大学は労働市場に従属してきた。だからまず、企業の人事管理や評価の仕組みが時代の変化に合わせて変わり、労働市場の仕組みが変わらないといけない。

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2023.04.17 
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「G型」か「L型」か、今こそ決断を
冨山 和彦氏 経営共創基盤グループ会長


冨山 和彦[とやま・かずひこ]氏
東京大学法学部卒業、スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストン・コンサルティング・グループなどを経て、2003年産業再生機構の最高執行責任者(COO)。07年経営共創基盤を設立して最高経営責任者。20年10月同グループ会長。(写真=都築 雅人)


社会で活躍できる人材を育てることも大学の役割

 アカデミックな教育を否定するつもりはない。だが、シェークスピアを深く理解するには本来、登場人物と自己を同一化できるほどの人生経験を積まなければ難しい。アカデミックな世界から出たことのない教員には分からないかもしれないが、社会で活躍できる人材を育てることも大学の役割だ。オープン教育も充実してきたので、社会へ出てからシェークスピアを学んでも遅くない。

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2023.04.17 
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L型(ローカル)とG型(グローバル)の大学と企業

 L型(ローカル)への転向は「2軍落ち」ではない。丸の内や大手町のオフィスビルを見渡せば、G型(グローバル)の企業でL型の仕事をしている人も多い。地域密着型社会の中では圧倒的に人手が足りておらず、社会課題が山積している。L型の人が活躍できるチャンスが多く、大学としても学生のハートをつかめる可能性は高いはずだ。

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2023.04.17 
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EPILOGUE 取り戻せアジアの雄の魂

 中国などアジア各地のエリートがこぞって日本に留学していた時代がかつてあった。

若き日に明治大学に留学していた周恩来(中央)。
中国共産党創設メンバーの董必武(左)や
陳独秀(右)も日本留学組だ
(写真=左:Pictures From History/
ニューズコム/共同通信イメージズ、
中央:GAMMA/アフロ、
右:akg-images/アフロ、国旗2点:PIXTA)


歴史を辿ってみよう。
かつて、アジア地域から日本への留学生が大勢来日していた時期があった。
時を経て、「日本から学ぶものはない」と風向きが変わり、欧米へ移っていった。

日本の大学はかつてアジア地域の高等教育を圧倒的にリード

 日本の大学はかつてアジア地域の高等教育を圧倒的にリードしていた。明治維新後、近代国家へ移行する過程で東京大学などが設立され、米英独から大勢の教員を招へいするなどして、当時最先端の洋学を貪欲に吸収したおかげだ。
 日本の大学は着実に実力を高め、やがてアジア各地の志士が大勢、学びに来るようになった。
(中略)
 戦後も韓国サムスン電子の創業家から、後年会長になる親子が2代にわたりそれぞれ早稲田大学と慶応義塾大学に留学するなど、日本の大学は高い地位を保った。

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2023.04.17 
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バブル経済崩壊以後 師弟の立場が逆転

 変調を来したのは、90年代前半にバブル経済が崩壊し、日本経済が停滞するようになってからだ。官民から大学に投じられる資金が伸び悩むようになり、日本の大学の研究開発費は頭打ちとなる。
(中略)
 世界大学ランキング2023では、100位以内に中国(香港を含む)の12校が入り、米国に次ぐ2位だった。一方、日本は100位以内がわずか2校。

 かつて、中国建国の志士らの「教師」であった日本の大学は、アジア地域における高等教育のリーダーとしての地位を中国に明け渡し、師弟の立場は逆転した。

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2023.04.17 
pp. 032-033


日中は2012年に逆転した

●主要国・地域の大学の研究開発費 
注:文部科学省の科学技術・
学術政策研究所の「科学技術指標2022」を
基に編集部で作成


特別待遇枠の設置

 名古屋大学が23年度から、一般の教授の約2倍以上の報酬を支払う「卓越教授」制度の運用を始めたように、日本の大学は特別待遇枠を設けなければ、世界から優秀な研究者を招へいできないという、明治時代に似た経済状況にある。教員同士の横並び意識が強くなりがちな日本の大学でも、名大のように特別待遇をタブー視せず、「世界から謙虚に学ぶ姿勢」に立ち返ることが求められている。

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2023.04.17 
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教員たちは以前ほど研究に専念できなくなった

 日本の大学を復活させるためには、教員が研究に没頭できる環境を整えるといった学内の地道な活動も欠かせないだろう。文部科学省の調査によると、教員たちは以前ほど研究に専念できなくなった。理学系の大学教員の場合、業務時間のうち研究活動に充てている割合は18年に49%となり、02年から8ポイントも減った。

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2023.04.17 
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教員たちが研究に専念できなくなったのは、「雑用」に追われるようになったからなのか?

運営費交付金が減額された

 研究時間が減った一因としては、政府が国立大学に分配する運営費交付金を00年代半ばから減額させたことが挙げられる。国立大の教員は運営費交付金に頼る代わりに、政府系機関などに自分の研究をアピールして「競争的資金」を獲得することが求められるようになった。そのための書類作りに追われ、研究時間が削られたとされる。経済が低迷し、政府が大学に割り当てられる予算が減った影響は、こんなところにも表れている。

崖っぷち大学 再生へ立ち上がる経済人 
2023.04.17 
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日経ビジネスは次のように結論を述べている。

 明治時代であれば近代国家の建設に大いに貢献したかもしれない優秀な若者が巣立ち、各界で活躍することで日本経済は盛り返し始める。そして大学に流れ込む資金が増え、さらに優秀な人材が輩出される……。そんな好循環を生み出していかねばならない。

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2023.04.17 
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バブル崩壊以後、日本は30年以上に及ぶデフレ経済になり、停滞した。このことが大学運営にも暗い影を落とし、長いトンネルから抜け出すことができなかった。


次回は、

通信後進国ニッポン  「5G敗戦」から再起せよ

2023年4月24日号

を取り上げます。


🔷 編集後記

今号はキーワードは「大学改革」でした。

日本は少子高齢化が急速に進んでいます。そのため、必然的に大学進学者数は減少します。

問題は、大学と短期大学の数はどうなっているのかという点です。
次の図表をご覧ください(出典元 ナレッジステーション)。

令和5年度 大学-都道府県別大学数、学部学生数、入学者数


令和5年度 短期大学-都道府県別学校数、本科学生数、入学者数

いずれもナレッジステーションによるデータです。
全国の大学数は810校で、短期大学は303校です。トータルで1,113校ということで、予想していたよりも多いと思いました。

正直言ってこんなに必要なのかと疑問に感じました。

次の図表は都道府県別大学進学率を示したものです(出典元 東洋経済ONLINE 2024/05/21 5:10)。
最低でも46.3%以上あることに驚きました。大学進学が当たり前という事実を改めて突き付けられました。

昔の言葉に「猫も杓子も」(誰もかれも)がありますが、この言葉を思い出すきっかけになりました。

首位73%「大学進学率」の高い都道府県ランキング

ただし、東京経済は「50%未満は10県と地域格差が大きい」と指摘しています。

次の図表は男子の大学進学率と女子の大学進学率を都道府県でランキングしたものです。

男子の大学進学率


女子の大学進学率


これら3つの図表を比較してみると、興味深い事実が見つかります。
それぞれの上位5都府県を見比べると、顔ぶれが同じです。

すなわち、京都府・東京都・神奈川県・大阪府・兵庫県ですが、男女合計と男子そして女子のランキングは異なっていても、この5都府県が競い合っていることが分かります。関東と関西の一部に絞られています。
とても興味深い現象です。

さらに付け加えるならば、男子の進学率で50%未満が14県あるのに対して、女子の進学率で50%未満はわずか1県だということです。

これが何を意味するのか考えてみました。私見になりますが、女子の方が大学への進学意欲が強いのではないかということです。正しいかどうかは分かりません。

ただし、傍証になりますが、大学入学試験で合格最低ラインが男子と女子で異なり、女子のほうが男子より高く、いくつかの大学でこの事実が発覚し、世間を騒がせたことがありましたね。

ある大学は、「合格最低ラインを男子と女子で同じにすると、女子の方が学力が上位のため、入学者の数が女子の方が多くなってしまう」という現実に直面してしまったのです。

その問題の解決策として考えられたのが、男女で合格最低ラインに格差をつけるというものでした。

男女で学力に差があるのは、文系に限った話ではなく、理系においても同様であることから、「男女差別だ!」という話になってしまいました。

少し古い記事ですが、興味深い内容が書かれていました。

科学や数学の分野において男女に成績の差があるのか、160万人の高校生のデータから判明したこととは? GIGAZINE 2018年10月15日 08時00分

科学・技術・工学・数学の教育分野を指すSTEMで男女比較

 以下のグラフは赤が女性、青が男性を示しており、男女ともにピークは同じ位置ですが、グラフないの各水平ラインを比べると、男性のグラフの方が幅広になっていることがわかります。これが、女性よりも男性の方が「パフォーマンスが低い人」「パフォーマンスを高い人」がともに多いということを示しており、「女性に比べ、男性は性質の変動が大きい」という考えにつながります。

科学や数学の分野において男女に成績の差があるのか、
160万人の高校生のデータから判明したこととは?


 シミュレーションの結果、大学におけるSTEMのクラスでトップ10%に入る生徒の数は男女で等しいことが示されたとのこと。トップ20%の成績であれば著名な大学で科学の勉強をするのに十分であり、7.6%というジェンダーギャップは、「STEM分野に進む女生徒が少ない」ことの直接的な理由になっていないと研究者は述べています。


いかがでしたでしょうか?
私は、男女差はもっと縮まっていると考えています。
長年にわたり、女子には男子と同じ土俵で勝負する機会が少なかっただけとも考えられます。


日経ビジネスはビジネス週刊誌です。日経ビジネスを発行しているのは日経BP社です。日本経済新聞社の子会社です。

日経ビジネスは、日経BP社の記者が独自の取材を敢行し、記事にしています。親会社の日本経済新聞ではしがらみがあり、そこまで書けない事実でも取り上げることがしばしばあります。

私論ですが、日経ビジネスは日本経済新聞をライバル視しているのではないかとさえ思っています。

もちろん、雑誌と新聞とでは、同一のテーマでも取り扱い方が異なるという点はあるかもしれません。

新聞と比べ、雑誌では一つのテーマを深掘りし、ページを割くことが出来るという点で優位性があると考えています。


🔴情報源はできるだけ多く持つ

海外情報を入手しようとすると、英語力が必須であったり、膨大な情報がクラウドサービスを利用すれば手に入りますが、それでも非公開情報はいくらでもあります。まず信頼性の高い文献に当たってみることが必要になります。

日本の国立国会図書館のウェブサイトや米国の議会図書館のウェブサイトに当たってみるのも良いかもしれません。

もちろん、ロイターブルームバーグなどの報道機関の日本版(PCやアプリ)がありますから、これらを利活用すればある程度の情報を収集することは可能です。これらのLINEアプリもありますので、情報を収集することはできます。

あるいは『日経ビジネス』『東洋経済』『ダイヤモンド』『プレジデント』などの雑誌やウェブ版から情報収集することもできます。これらの雑誌やウェブ版の購読をお勧めします。

あとは自分で、関心のあることに絞って検索したり、ChatGPTBardに質問してみて、知見を広めるのが良いでしょう。

ロイター

ブルームバーグ

moomoo


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