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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 Vol.57

大人の流儀

 伊集院 静さんの『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院さんはこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

 帯には「あなたのこころの奥にある勇気と覚悟に出会える。『本物の大人』になりたいあなたへ、」(『続・大人の流儀』)と書かれています。

 ご存知のように、伊集院さんは小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。



「被災地の海辺を歩く人がいる」から

伊集院 静の言葉 1 (169)

 被災しなかった人は、時間の経過とともに災害を忘れてしまう。
 だが悲嘆にくれるのを我慢し、歩き続けている人が、被災地には大勢いる。
 世の中というものは自分の痛みでなければ、いとも簡単に物事を片付ける。
 それが当然であり、世間というものだ。
“ガンバレ”では済まない、希望の見えない人たちがいる。親を失くした子供たちがいる。子供を、孫を失くした親が、祖父母がいる。
 そのことを私たちは肝に銘じておかねばならない。
 昨日、自宅に暖房が入った。
 寒い冬が北の地にこようとしている。
 夏が終わったのではなく、冬がはじまるのだ。     

大人の流儀 2 伊集院 静                               



「星~被災地から見たこの国」から

伊集院 静の言葉 2 (170)

 しんしんと仙台に雪が降り積んでいる。震災から七日目の朝である。本来ならこの雪は北の地に春の到来を告げる雪である。その雪の下で今おびただしい数の遺体が眠っている。ほんの七日前の昼下がりまで笑っていた温和な北の人々である。孫の顔を、新妻の微笑を生きる希望としていた人々にとってさぞ無念な災害であろう。無念、無惨で済まされぬ出来事が、この七日間、被災者に起き、それをただ呆然と見つめることしかできない自分に歯がゆさと憤りを感じている。  

大人の流儀 2 伊集院 静                               


「星~被災地から見たこの国」から

伊集院 静の言葉 3 (171)

 これほどの数の人々が一瞬のうちにその生を断たれてしまった災害を私たちは、あのいまわしい太平洋戦争以外に知らない。そう、あの戦争の記録として残る何十枚かの写真、残酷な爆撃、被爆をうけた広島、長崎、東京大空襲などの直後に空から写された写真と、地震の翌日に新聞の一面に載った写真はおそろしいほど似ていた。  

大人の流儀 2 伊集院 静                               


⭐ 出典元

『大人の流儀 2』(書籍の表紙は「続・大人の流儀」)
2011年12月12日第1刷発行
講談社



✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます。

🔷 「世の中というものは自分の痛みでなければ、いとも簡単に物事を片付ける。
 それが当然であり、世間というものだ。
“ガンバレ”では済まない、希望の見えない人たちがいる。親を失くした子供たちがいる。子供を、孫を失くした親が、祖父母がいる。
 そのことを私たちは肝に銘じておかねばならない」


“喉元過ぎれば熱さを忘れる”という諺がありますね。

私たちは他人事ひとごとだとすぐに忘れてしまいます。
日本人はその傾向が顕著かもしれません。

“水に流す”という諺もあります。
「今までのことは水に流しましょう」という使い方をします。

しかし、当事者にとっては忘れたくても忘れられない、悲嘆に暮れる出来事なのです。東日本大震災などの大災害に遭遇した経験のない私たちの多くは、被災者の方たちの気持ちになかなか寄り添うことができません。

近親者(妻、母、姉)を3年間に立て続けに亡くした私は、被災者の方たちの気持ちが少し理解できる気がします。驕りかも知れませんが。



🔶 東日本大震災から11年:被災地と復興の現状


⭐ 出典元: 公営財団法人ニッポンドットコム 東日本大震災から11年:被災地と復興の現状 2022.03.09



🔶 伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。

91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。

作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。



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⭐ 私のマガジン (2022.08.18現在)





















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