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【五木寛之 心に沁み入る不滅の言葉】 第4回

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之講演集


 五木寛之さんの『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』から心に沁み入る不滅の言葉をご紹介します。

 五木さんは戦時中から特異な体験をしています。
 「五木さんは生まれて間もなく家族と共に朝鮮半島に渡り、幼少時代を過ごしました。そこで迎えた終戦。五木さんたちは必死の思いで日本に引き揚げたそうです」(「捨てない生活も悪くない」 五木寛之さんインタビューから)


 今年9月に90歳になるそうです。今日に至るまで数多の体験と多くの人々との関わりを掛け替えのない宝物のように感じている、と思っています。

 五木さんは広く知られた超一流の作家ですが、随筆家としても、講演者としても超一流だと、私は思っています。

 一般論ですが、もの書きは話すのがあまり得意ではないという傾向があります。しかし、五木さんは当てはまらないと思います。 




「影の濃さに光を知る」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 1 (10)

 
 「光明こうみょう」ということばがあります。
 光明というのは、ただの光ではありません。そこに感動があります。そして一筋の光明に体を震わせて歓喜する、人間の感激というものがあります。
 しかし、私たちは二十四時間、人工光線をけっぱなしの温室のような場所にずっといたとすれば、そこに差しこんできた光を、感動とともに味わうことができるでしょうか。
 私たちが光の存在に心を震わせ、感動するのは、むしろ暗い世界に私たちがいて、そしてその影の存在によって、光というものに光明を感じるからです。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之




「影の濃さに光を知る」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 2 (11)

 
 希望と絶望とに分けて、絶望は良くない、希望は素晴らしいと一面的に考え、希望だけをただ追い求めるということではなく、私たちはちゃんと絶望するということがまず大事なことのような気がするのです。
 絶望するということは、あきらめるということです。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之



「影の濃さに光を知る」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 3 (12)

 
 笑うということの半面に、悲しむとか、嘆く、泣く、涙を流す、こういう大きな世界があって、そういう世界と、笑う、気持ちよくなる、喜ぶというものとは、背中合わせの一体のものではないか。たとえて言えば、リヤカーに付いている車の両輪のようなものではなかろうかと思うのです。
 私たちは、光と同時に影の世界に生きている。
 そして影の部分、暗い部分、生と死の死の部分をはっきりと、ごまかさずに見つめる。これは非常に勇気のいることなのです。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之

出典元

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』から
2015年10月15日 初版第1刷発行
実業之日本社



✒ 編集後記

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』は、講演集ということになっていますが、巻末を読むと、「2011年8月東京書籍刊『生かされる命をみつめて』『朝顔は闇の底に咲く』『歓ぶこと悲しむこと』に加筆の上、再構成、再編集したものです」と記載されています。

裏表紙を見ると、「50年近くかけて語った講演」と記されています。それだけの実績があります。

🔷 光と影は、それぞれが単独で存在するのではなく、表裏一体あるいは共存するのです。例えが適切ではないかもしれませんが、コインや紙幣の裏表と同様に光があるから影があるということです。

人びとは光の当たる方に注目し、自分もその方向に進みたいと願うことでしょう。しかし、昼間と夜があるように、昼間が24時間365日続くことはありません。夜も同様です。片方だけを選ぶことはできません。

言い換えると、事実をあるがままに受け容れることが重要であり、事実をあるがままに受け容れることは勇気のいることなのです。


🔶 五木寛之さんの言葉は、軽妙洒脱という言葉が相応しいかもしれません。軽々に断定することはできませんが。

五木さんの言葉を読むと、心に響くという言うよりも、心に沁み入る言葉の方が適切だと思いました。

しかも、不滅の言葉と言ってもよいでしょう。


著者略歴 


生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』から

1932年福岡県出身。早稲田大学露文科中退。67年、直木賞受賞。
76年、吉川英治文学賞受賞。
主な小説作品に『戒厳令の夜』『風の王国』『晴れた日には鏡をわすれて』ほか。
エッセイ、批評書に『大河の一滴』『ゆるやかな生き方』『余命』など。
02年、菊池寛賞を受賞。
10年、『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞受賞。
各文学賞選考委員も務める。






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