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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 第95回





大人の流儀

 伊集院 静氏の『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院氏はこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

『大人の流儀3 別れる力』をご紹介します。

 ご存知のように、伊集院氏は小説家(直木賞作家)で、さらに作詞家でもありますが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 第95回


第4章 本物の大人はこう考える


「大人が人前で取るべき態度」から

伊集院 静の言葉 1 (282)

 新聞でジャーナリストの山本美香さんの死亡記事を見た。彼女が日本の学生に送ったメッセージを読んだ。
”世界のどこかで無辜むこの市民(罪のない市民)が命を落とし、経済的なことも含め危機にひんしている。その存在を知れば知るほど、どうしたら彼らの苦しみを軽減できるのか、何か解決策はないだろうかと考えます。紛争の現場を伝え、報道することで社会を変えることができる、私はそれを信じます”
 日本女性のたくましさ、美しさがある人に見える。四十五歳であった。この人も新しい世代の人で、これまでのジャーナリストに欠落したものが見えていたのだろう。
 日本人に関りのない戦争、という発想を持つ人は、そのまま私には関りのないことだからと平然と罪を犯している大人の男たちとまったく同じ視点である。
 さまざまなことを考えさせられる一人の女性の死である。冥福を祈りたい。

大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静 


「我慢すればおさまるのなら」から

伊集院 静の言葉 2 (283)

 今冬、大勢の人が積もった雪の事故で亡くなった。雪害と呼んでいいのか、雪道の軒下を歩いていたり、雪掻きで死傷する人は毎年、想像以上に多い。
 雪というのは、雨と同じで怖いものだ。
 私は雪崩なだれなどは映像でしか見ていないが、十年近く前の春先のポカポカ陽気の午後、仕事中にドカンと岩でも落下した音がして、玄関に出て見ると家の入口の敷タイルが何ヵ所か亀裂が入って割れていた。
「何だ? これは」
 私は空を見上げた。もう一度玄関を見て驚いた。氷が散らばっている。
__もしかして屋根の雪がこんなふうに落下したのか。
 そうであった。すでに雪は氷に近い状態になり、屋根を滑り落ちてきたのだった。
__下にいたら死んでいたのか?
 私は雪というものの違う面を見た。
 それ以降テレビで雪山などを目にすると、あれは氷壁なんだろう、と思えるようになった。
 それにしてもよく雪が降る。 

大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静 

                             


「道に倒れて泣く人がいる」から

伊集院 静の言葉 3 (284)

 政治家の顔や態度を見ていて、
__この人たちは、”年を越せないかもしれない”という経験はまずなかっただろう。
 と思ってしまう。
 幼少、青年時代が苦しい生活で、そのことは今も忘れず政治に真剣にむかっている人は稀にいるが、その人も長く政治家をやっていると、金と力が自然に自分に備わっているのだ、と勘違いする。
 その原因は世襲の議員と、あとひとつ組合で辣腕らつわんをふるっているうちに、これも金と力がついてきた輩である。
 後者はいささか苦労もあったろうからまだわかるが世襲議員はどうしようもない。
 自民党は世襲の廃止ができなかった。
 なぜか? 楽だからである。
 鳩山総理が九億円の金を母親から貰い、秘書のしたことで知らなかった、と平然と言った。
 それで国民の暮らしが、とか、苦しんでいる人たちが、とか言えるのだろうか。二、三万円の金を貰ったのと訳が違う。
掏摸すりは一度やってしまえば掏摸の顔に、掏摸の目になる”と以前、刑事から聞いたことがある。ただ掏摸は、年を越せないかもしれない、と思ったことはあろう。
 今も、そんな気持ちで年末を迎える人は多いはずだ。
 昔はもっと多かった。
 私が子供の頃は、”行き倒れ”というのもあった。喰うものがなく、とうとう衰弱して道の端でひっそりとした場所で息絶える人たちである。
「行き倒れがあったらしい……」
 大人たちの会話を耳にして、子供ごころに恐怖を覚えたものだ。そんな声を聞かなくなったのは国が裕福になったからだろう。 

大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静 


⭐出典元

『大人の流儀 3 別れる力』

2012年12月10日第1刷発行
講談社


表紙カバーに書かれている言葉です。

人は別れる。
そして本物の大人になる。


✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます


🔷「新聞でジャーナリストの山本美香さんの死亡記事を見た。彼女が日本の学生に送ったメッセージを読んだ」

私はジャーナリストの山本美香さんについて、名前は聞いたことがあると思いましたが、詳しく知りませんでした。

そこでネットで調べてみました。

山本 美香(やまもと みか、1967昭和42年〉5月26日-2012年〈平成24年〉8月20日)は、日本のジャーナリスト。ジャパンプレス所属のジャーナリストとしてイラク戦争など世界の紛争地を中心に取材し、ボーン・上田記念国際記者賞特別賞、日本記者クラブ賞特別賞などを受賞した。2012年のシリアでの取材中、銃撃により殺害された。

山本美香 Wikipediaから 


「悲しく、残念な話」と言うことは簡単ですが、非常に重い問題を突き付けられた気持ちです。

従軍記者は昔からいましたが、その誰もがいつ自分が銃弾に撃たれたり、爆撃に巻き込まれ、重傷を負ったり、命を落とすかもしれない、と覚悟しているでしょう。

紛争や戦争は当事者同士だけの問題ではありません。

報道に関わる人たちや、国境なき医師団などの民間の非営利の医療・人道援助団体に所属する医師、看護師なども命を賭して加わっています。

もちろん、彼らは自分たちが紛争や戦争を解決できるとは微塵も思っていませんが、悲惨さを目の当たりにして黙って見過ごすことができないという勇気と使命感を持った立派な人たちです。

仮に、私が同じ立場であったとしても(そんなことはあり得ませんが)、とてもできません。


シリアで死亡したジャーナリスト山本美香さん パートナーが当時を振り返る

2012.09.06 Thu posted at 16:31 JST



(3,398文字)


🔶『大人の流儀3 別れる力』について『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』の中で言及しています。

伊集院静と城山三郎
『別れる力 大人の流儀3』
私が伊集院静さんに興味を持ったのは、彼の先妻が女優の夏目雅子さんであったこともありますが、『いねむり先生』という題名の小説を読み、不思議な感覚を味わい、また『大人の流儀』という辛口のエッセーを読んだからです。 

由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い p. 212 


夏目雅子さんのプロフィール



🔶伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。



<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。
91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。
作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。


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大人の流儀 伊集院 静


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