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【回想録 由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い 第81回】

🔷 「由美子の読みかけの本」の「『ギリシャ神話』」を掲載します。🔷

 『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』
(ハードカバー 四六版 モノクロ264ページ)
2016年1月25日 発行
著者   藤巻 隆
発行所  ブイツーソリューション

 ✍『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』(第81回)✍

由美子の読みかけの本

『ギリシャ神話』

 入院前のことですが、由美子は横になって寝られず、ソファに腰掛けて寝ていることがありました。ソファ以外では私がニトリで買ってきた座椅子に腰掛けて夜間を過ごしていました。とても熟睡できなかったと思います。

 由美子が亡くなってからソファの上を整理していたら、カバーの掛かった本が見つかりました。それが『ギリシャ神話』(偕成社 訳者 高津春繁 高津久美子 一九七七年一月 一刷 二〇〇五年八月 四十刷)でした。

 どんな経緯で、いつから読み始めたのかは全く不明ですが、何らかの手がかりは見つかりそうな気がしました。

 読みかけで愛読者カードが挟まっていたページは、「アリアドネーひめとのわかれ」(一〇八ページ)でした。次の一節は由美子の過酷な運命を暗示しているように感じ、また涙が溢れてきました。アリアドネー姫の運命を、由美子の運命に重ね合わせて、そう感じたのです。

 「つかれはてた姫のために、草のなかにどこをこしらえたテーセウスは、しずかに姫の目がさめるのを待ちました。けれど姫の心身しんしんのつかれはひどく、いかりをあげるときがきても、ふかいねむりからさめなかったので、心ならずも姫を残したまま船出ふなでしてしまいました。(中略)故郷こきょうのアテーナイのみなとに近づいたとき、船にはアリアドネー姫のすがたはありませんでした。

 テーセウスはこのことをふかくかなしんでいたので、父があれほど、ぶじにもどったら白いをあげるようにとめいじたことを、すっかりわすれていました」

(一〇八~一〇九ページ)

(PP.211-212)


➳ 編集後記

第81回は「由美子の読みかけの本」の「『ギリシャ神話』」を書きました。

遺品の整理という大事な仕事が残っていました。ただ、どこから手を付けたらよいか分からず、手始めに由美子が寝起きしていたところを見ました。すると由美子が読みかけの本が見つかったのです。

その本がなぜ『ギリシャ神話』だったのか、またなぜ「アリアドネーひめとのわかれ」のページに愛読者カードを挟んでいたのか、確かめる手立ては残されていませんでした。




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