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【スロー・リーディング(遅読)とスピード・リーディング(速読)】 Vol.2

第1回 スロー・リーディング(遅読)とは何か?


第2回 質の読書と量の読書


初回は、「スロー・リーディングとは何か」、内容を深く理解するために読むのだから、ゆっくり読むことが大切である、などについてお伝えしました。

2回目は、「スロー・リーディング(遅読)」と「スピード・リーディング(速読)」の違いはどこにあるのか、を中心にお話します。

スロー・リーディング(遅読)と対比するために、スピード・リーディング(速読)という言葉を使っています。


気づいたこと3つ

スロー・リーディング(遅読)とスピード・リーディング(速読)に関する本を読み比べて、気がついたことが3つあります。

1. 対象となる本が異なる


1つ目は、スロー・リーディング(遅読)の本とスピード・リーディング(速読)の本とで、対象となる本が異なることです。

スロー・リーディング(遅読)の本には、小説や哲学書などの紹介はありますが、ビジネス書や自己啓発本、解説書、ハウツー本などの紹介はありません。

一方、スピード・リーディング(速読)の本には、ビジネス書や、自己啓発本、解説書、ハウツー本などの紹介はありますが、小説や哲学書などの紹介はありません。

つまり、スロー・リーディング(遅読)スピード・リーディング(速読)とは、対象となる本が異なるので、必然的に読み方も異なるということです。

とにかく概要を掴めばよしとする「速読」と、細部にも神経を行き渡らせ、散りばめられた伏線にも気を付けて読むべき「遅読」とは、読み方が異なるのです


2. スピード・リーディングはテクニックを身につけることに重点


2つ目は、スピード・リーディング(速読)の本は速く読むための「テクニック」を身につけることに重点を置いている、と考えられることです。

本の内容を深く理解するための方法ではなく、字面だけを速く取り込むための手法を教えているように感じます。

フォトリーディングという手法があります。

見開きページ全体をまるで写真に撮るが如く、把握する方法を教えるものです。

要は、「テクニック」です。

Read between the lines.(行間を読む)という言葉があります。

表面をなぞるのではなく、筆者が何を言いたいのか、文字の背後にある真意を読むためには、速読では不可能だと思います。考える時間が必要です。

フォトリーディングによって、見開きページ全体を塊と捉えて、果たして行間を読むということができるのでしょうか?

ただし、平野さんの考え方と、私の考え方とは、少し異なります。

平野さんは、フォトリーディングなどの速読は、確かに、速く読むためのテクニックを教えているが、それだけではなく、むしろ「自己啓発」のために
速読することが必要なのだ、と捉えています。


本書を書くにあたって、私は何冊かの「速読本」に目を通したが、それらは予期に反して、純粋に技術的な内容を紹介するというより、一種の「自己啓発」を目的としているものだった。

いずれの本も、私たちの「潜在能力」を強調し、中には、速読技術を修得
することによって、「未来を前向きにとらえる力が増し、人生が充実してくる」だとか、「新しい環境(旅先、土地、職場)への適応力が増す」などと、およそ速読とは関係のない効果まで約束しているものもある。

『本の読み方 スロー・リーディングの実践』PP.39-40 平野啓一郎 PHP新書           


私は、平野さんが指摘しているような本を読んだかどうか記憶が曖昧ですが、そのような記述があったかもしれません。

ですが、もしこのような記述があったとしたら、「ニュー・サイエンス的な」(P.40)、あるいは新興宗教的な雰囲気が感じられますね。



3. スロー・リーディングによって作者の意図や心理状態、時代背景などを考える必要がある


そして、3つ目は、スロー・リーディング(遅読)によって、作者の意図や心理状態、時代背景などを考える必要があるということです。「深堀り」して読むということです


作者の立場からすると、小説であろうと、エッセイであろうと、論文であろうと、基本的には、作品の一語一句のレヴェルから作品全体に至るまで、「こう読んでもらいたい」という「作者の意図」は必ずある

それがなければ、そもそも文章は書けないからだ。

作者の死後に公開される「創作ノート」などは、その物証だろう。

『本の読み方 スロー・リーディングの実践』P.66 平野啓一郎 PHP新書          

これは納得できることですね。

では、次の指摘にあなたはどう感じますか?



ある作家のある1つの作品の背後には、さらに途方もなく広大な言葉の世界が広がっている
という事実である。どの1つの連鎖が欠落していても、その作品は生まれてこなかったかもしれない。

言葉というものは、地球規模の非常に大きな知の球体であり、そのほんの小さな一点に光を当てたものが1冊の本という存在ではないのかと思う。

1つの作品を支えているのは、それまでの文学や哲学、宗教、歴史などの膨大な言葉の積み重ねである。

そう考えるとき、私たちは、本を「先へ」と早足で読み進めていくというのではなく、「奥へ」とより深く読み込んでいくというふうに発想を転換できるのではないだろうか?

1冊の本をじっくりと時間をかけて読めば、実は10冊分、20冊分の本をの本を読んだのと同じ手応えが得られる。これは、比喩でも何でもない。実際に、その本が生まれるには、10冊、20冊の本の存在が欠かせなかった からであり、私たちは、スロー・リーディングを通じて、それらの存在へと開かれることとなるのである。

『本の読み方 スロー・リーディングの実践』PP.66-67 平野啓一郎 PHP新書        


この一節を読んで、思い出したことがあります。
ある作家が「1作品を書くために、資料として300冊以上読んだ」というようなことが書いてありました。

その理由は、「史実に極力忠実であろうとしたからだ」というような内容であった、と思います。

どういうことが言いたかったのかと言いますと、


本当に読書を楽しむために、「量」の読書から「質」の読書へ、網羅型の読書から、選択的な読書へと発想を転換してゆかなければならない

『本の読み方 スロー・リーディングの実践』P.27 平野啓一郎 PHP新書          

ことであり、


記憶に残る読書、印象に残る読書
のためには、あえてゆっくり読む、という心がけも重要だろう

『本の読み方 スロー・リーディングの実践』P.98 平野啓一郎 PHP新書          

ということです。


質の読書と量の読書


一言でいえば、スロー・リーディング(遅読)とスピード・リーディング(速読)の違いは、質の読書と量の読書にある、ということです。

『本の読み方 スロー・リーディングの実践』は、「本の読み方」について書かれた本ですが、そこは作家ですから、「文章の書き方」についても言及しています。


ちなみに、文章がうまくなりたいと思う人は、スロー・リーディングしながら、特に好きな作家の助詞や助動詞の使い方に注意することをおすすめする。

それでリズムがガラリと変わるし、説得力も何倍にもなる。

メールのような短い文章を書くときにも、助詞や助動詞への配慮は、相手への印象をまったく違ったものにするだろう。

『本の読み方 スロー・リーディングの実践』P.61 平野啓一郎 PHP新書          


助詞や助動詞への配慮は、ブログを書く場合にも当てはまることですね。
私もこれからは、助詞や助動詞の使い方に気を配っていこうと思います。


次の言葉はとても重要なポイントを指摘していると思います。


読者が本を選ぶように、本もまた、読者を選ぶ
のである。

『本の読み方 スロー・リーディングの実践』P.74 平野啓一郎 PHP新書          
         


本が読者に挑戦するとも言い換えられましょう。

本に、
「あなたに深く理解できますか? いろいろなところに仕掛けが施してありますよ。きちんと読み解いてくださいね」
と言われているように感じる瞬間があります。

読み解けたと感じられた時、ある種の快感を味わうことができます。
達成感と言っても過言ではないでしょう。




最終回は、実際の作品で、平野さんが「作者との対話」を通じ、作品を読み解いたプロセスをご紹介します。

さらに、著名な作家による自作品の解説についても取り上げます。


お楽しみに!


⭐ 出典元

(現在ではこちらの文庫となっています。)


著者をご紹介しましょう。

平野啓一郎さんは、1975年生まれで、京都大学
在学中に雑誌「新潮」に投稿した『日蝕』(1998年)が、翌年、芥川賞を受賞しました。


この元記事は8年前にAmebaブログ『藤巻隆(ふじまき・たかし)オフィシャルブログ』で書きました(2014-12-19 17:47:31)。「スローリーディング(遅読)」というカテゴリーに入っています。
その記事を再編集しました。

平野啓一郎さんが、noteに『マチネの終わりに』を全文掲載されていたことはご存じだと思います。


ぜひ、こちらもご覧ください。




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