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チャイノベーション 2023 中国 技術覇権の今 2023.01.16 3/3


日経ビジネスの特集記事 57

チャイノベーション 2023 中国 技術覇権の今 2023.01.16 3/3

<このページでは、『日経ビジネス』の特集記事の概要紹介と、管理人のコメントを掲載しています>

技術力はどの分野に及び、どこまで競争力を高めたのか


というのが今週号のテーマです。

チャイノベーション 2023 中国 技術覇権の今 2023.01.16 3/3


CONTENTS
PART 1 コロナ禍でも研究開発の手緩めず 知財分析で浮き彫り 中国EVの躍進の秘訣

PART 2 米中対立激化、最重要産業「半導体」の今 米規制で深刻な打撃も パワー半導体に活路

PART 3 プリンター、工作機械、医療機器…… 「製造強国」実現へ 禁じても辞さぬ執念

COLUMN 中国スタートアップ「冬の時代」の生き残り方 医療・メタバースに脚光

PART 4 ゼロコロナ崩壊で浮かび上がるチャイナリスク 「予見不可能な国」との付き合い方


第3回は、 PART 3 プリンター、工作機械、医療機器…… 「製造強国」実現へ 禁じても辞さぬ執念後半と、COLUMN 中国スタートアップ「冬の時代」の生き残り方 医療・メタバースに脚光、PART 4 ゼロコロナ崩壊で浮かび上がるチャイナリスク 「予見不可能な国」との付き合い方を取り上げます。


PART 3 プリンター、工作機械、医療機器…… 「製造強国」実現へ 禁じても辞さぬ執念 (後半)


チャイノベーション 2023 中国 技術覇権の今 2023.01.16

成長性のある新規事業に参入する方法には大きく別けて2つあります。
1つは、M&Aを仕掛けて吸収買収することです。資金力があり、短期間で成果に結びつける場合に有効です。ただし、被合併企業がM&A後、実態が芳しくなかった場合には失敗に終わる公算が大きいです。

もう1つは、業界で高い評価を受けている人物を引き抜くことです。その人物が前評判通りの人物であるならば、業界のシェアを塗り替えることが可能になります。ただし、その人物が見かけ倒しであった場合には、大きな成果をあげることはできません。

前者は企業や組織をまるごと手に入れる戦略であり、後者は個人レベルで業界のシェアを塗り替えようとする戦略です。

どちらがより成果に結びつけることができるかは、一概には言えません。

中国は医療機器に注力しているようです。

ユナイテッド・イメージング

ユナイテッド・イメージングは、中国で最も注目される医療機器メーカーだ。上場時の資金調達額は110億元(約2200億円)。22年における中国本土のIPO(新規株式公開)の資金調達ランキングでは、米上場を廃止して上海に再上場した国有通信最大手の中国移動(チャイナモバイル)や国有石油大手の中国海洋石油(CNOOC)に次ぐ3位となった。23年1月4日時点の時価総額は約1460億元(約2兆9200億円)。医療機器メーカーの巨人であるオランダのフィリップス(約1兆8000億円)を上回る。

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短期間で急成長した2つの理由

短期間で急成長を遂げたのは、2つの理由があるとみられる。
一つが、ライバルからの人材の引き抜きだ。経営トップである張氏は、上海交通大学で生物医学工学の修士号を、米大学で博士号を取得。シーメンスメディカルソリューションズ(現シーメンス・ヘルシニアーズ)の米国法人などを経た後、ユナイテッド・イメージングに参画している。

(中略)

もう一つは政府が複合機同様、医療機器でも国産品優遇政策を推進していること。14年から中国医学装備協会が国家衛健委員会の依頼を受ける形で、毎年1回「中国優秀国産医療設備選定カタログ」を選定・更新。中央政府が21年5月、医療などに使う調達で国産品の優先調達を求める内部通知を出し国産優遇が進んだ。ユナイテッド・イメージングはこの流れに乗り、有力病院などへの納入を拡大したもよう。

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こうした中国の動きに対し、日本企業も重い腰を上げ始めたということです。

ここにきて日本勢が重い腰を上げ始めた。キヤノンメディカルは中国で医療機器を現地生産する準備を進めている。早ければ23年夏には、大連市の工場で生産を開始する計画だ。

「中国での国産化は長期間検討していたが、コロナ禍で遅れた部分はある。かつては中国のCT市場で10%を超えるシェアを持っていたが、シェアを取り戻したい」とキヤノンメディカルの鉞氏は意気込む。技術流出を抑えながら国産化を軌道に乗せられるかという難題が重くのしかかることになる。

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中国もEV(電気自動車)に力を入れています。
EVで重要なパーツはバッテリー(蓄電池)です。
いかに1回の充電で長距離の走行を可能にできるか、軽量化が図れるか、低価格化を実現できるか、がポイントです。

バッテリーの製造において、中国が優位なのは天然の部材が豊富にあることです。

主に電極に使う正極材と負極材、電極を絶縁するセパレータ、リチウムイオンの伝導性を持つ電解液。これらリチウムイオン電池の主要4部材は、10年代半ばまでは化学産業の裾野が広い日本企業のお家芸だったが、現在は中国勢が市場を席巻する。
(中略)
主要4部材すべてで7~8割を中国勢が占めた。各部材とも前年比2倍のスピードで出荷量が急拡大。例えば、黒鉛を使う負極材は天然黒鉛が中国に偏在しており、中国勢が調達力を生かして上位を独占する。

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問題は、EV向け電池は発火リスクがあることです。

発火リスクがあるEV向け電池は、安全性が最重要視される。これまで技術力や品質で優位に立ってきた日本の素材メーカーだが、電池産業に詳しい名古屋大学客員教授の佐藤登氏は「中国勢が品質でも追いついてきた」と指摘する。「日本メーカーは高付加価値製品のビジネスを重点的に進めた結果、ボリュームゾーンを取れていない。電池価格はCATLなどが日系の半値程度。部材メーカーの協力なしでは中国の電池コスト競争力に対抗できない」(同)

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CATL=寧徳時代新能源科技 17年にパナソニックを抜いて以来、世界シェア首位を続けている。


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ただし、バッテリーは液漏れすることがあり、車輌が火災を起こす事故が起きています。現行のバッテリーは高熱を発し、何らかの原因で液漏れすると燃えやすくなっています。 正極と負極の間にある電解液が原因です。

消火できないってマジか!?? EVの火災が深刻な理由と対処方法


このため、先日トヨタ自動車が公表したように、全固体電池の実用化が急がれています。電解液の部分を固めることで発火事故がなくなります。
トヨタは2027年の実用化を目指しています。

米国のQuantumScapeというまだ小さな企業は、EV用のバッテリーを製造していますが、全固体電池を開発しました。数多くの特許を取得しています。2025年以降の実用化を目指しているということで、トヨタより早く全固体電池を世に出しそうです。

この企業にフォルクスワーゲンやビル・ゲイツ氏が出資しているそうです。

ゲイツ氏やVWも出資の米新興、全固体電池が示す驚きの性能


QuantumScapeの全固体電池



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スマホやPCに使用されている有機ELディスプレーでは韓国を猛追しているそうです。

中国ディスプレー最大手の京東方科技集団(BOE)が開発を進める、ある技術の動向に業界関係者の注目が集まっている。
技術の名は「LTPO(低温多結晶酸化物)」。ディスプレーを駆動するTFT(薄膜トランジスタ)に使われ、表示性能と低消費電力に優れた有機ELディスプレーを実現できる。

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BOEが開発した有機ELディスプレー
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アップルに有機ELディスプレーのサンプル提供

現在、アップルに対してLTPO技術を使った有機ELディスプレーのサンプルを提供しているもよう。正式に採用されれば、「歩留まり面での差はあるものの、韓国勢に技術面でほぼ追いつくことになる」と、英調査会社オムディアで中小型ディスプレーを担当する早瀬宏氏は指摘する。

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中国は、10年代から液晶などのディスプレーを成長産業と位置付けて投資を加速してきた。韓国や日本企業からの技術者の引き抜きに加えて、地方政府は工場建設時の補助金など巨額の支援を実施。BOEを筆頭に数多くのディスプレーメーカーが台頭し、液晶だけでなく有機ELへの投資を拡大していった。21年における中国企業のシェアは、テレビなどの大型液晶で5割超、有機ELで2割弱を占めている。

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ただし、ディスプレーは供給過剰になっています。生産設備への過剰投資が懸念されているそうです。価格下落は避けられない状況にあります。

「世界的にディスプレーはすでに供給過剰だ。足元での中国での投資計画は合理的に説明しづらい」と、オムディアで設備投資を担当するチャールズ・アニス氏は指摘する。別のディスプレー関係者は、「中国の地方政府にとっては技術的なハードルが高い半導体よりも製造技術が確立されているディスプレーの方が飛びつきやすいのかもしれない」とみる。

BOEが22年7~9月期に最終損益が赤字に転落するなど、中国大手各社は収益性の低さに苦しんでいる。今後、さらなる過剰投資を繰り返して需給の悪化を招けば、中国企業が共倒れになる危険もある。

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COLUMN 中国スタートアップ「冬の時代」の生き残り方 医療・メタバースに脚光

中国スタートアップの現状はどうなっているでしょうか?

中国も例外ではなく、スタートアップへの投資額が減少しているそうです。

世界的に「冬の時代」を迎えつつあるスタートアップ業界。かつてアリババ集団や騰訊控股(テンセント)を生み出した中国も例外ではない。
中国の調査会社であるIT桔子によると、2022年上期におけるスタートアップへの投資件数は2729件と前年同期で15%減少したという。1件当たりの投資金額も約1億5600万元(約31億円)と2割強減っている。ウクライナ紛争に伴う地政学リスクの高まりや物価上昇を受けて世界経済が低迷し、スタートアップへ成長資金が集まりにくくなっている。

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スタートアップへの資金が集まりにくくなっている原因はこれだけではないそうです。

さらに中国特有の問題として、政府がネットやゲーム業界を中心に厳しく規制をかけていることが投資家の心理を冷やしている。

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今後はどのような予測が立てられているでしょうか?

中国のスタートアップ投資は「23年も調整局面が続く可能性がある」(みずほ銀行中国アドバイザリー部イノベーション企業支援室の山下誠洋室長)との声が多い。

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その一方で、「医療健康」領域への投資は増加しているそうです。
下の図表をご覧ください。

「先進製造」と「医療健康」2つを合算しただけで、投資領域は45%以上になります。


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中国政府から規制がかかりにくい領域

医療分野は中国政府からの規制もかかりにくい。李CEOは、「医療分野は政府も支援しており、不安に感じることはない」と話す。

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PART 4 ゼロコロナ崩壊で浮かび上がるチャイナリスク 「予見不可能な国」との付き合い方

中国は一党独裁国家ですから、鶴の一声で国内の状況を一変させることができます。国民生活のみならず、ビジネスの世界も例外ではありません。

日本や欧米諸国では考えられないダイナミックな政策転換。これこそが中国という一党独裁の強権主義のすさまじさだ。ビジネスの世界でも同様で、「鶴の一声」で壊滅的な影響を受けることもある。
例えば学習塾産業。中国当局は21年7月、語学や数学などの学習塾について、新規の開業許可を凍結し既存の塾には「非営利団体」への転換を義務付けた。アリババ集団や騰訊控股(テンセント)などIT産業への締め付けも記憶に新しい。

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チャイナリスクを抑えながら中国とどう付き合っていくべきか

先駆者たちが進めてきた3つの対応が参考になるだろう。
対応の一つは、「技術漏洩を前提に事業を展開する」ことだ。
(中略)
2つ目の対応は、「撤退条件をあらかじめ決めておく」ことだ。企業として譲れない一線を定めておくことで、泥沼化するリスクを回避できる。
(中略)
最後の対応は「複線的な体制の構築」だ。すなわち「チャイナプラスワン」戦略を本気で遂行すべきだろう。

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「チャイナプラスワン」をもう少し詳しく見てみましょう。

「中国だけでなく日本やタイ・フィリピンといった東南アジアでの能力増強を進め、中長期的な需要増加に対応するための生産体制を構築していく」と、中島社長は語る。

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*中島社長=村田製作所の中島規巨社長

習近平主席は「中国製造2025」というスローガンを掲げ、世界のトップを目指しています。実際になれるかどうかは別にして、命令一下の元、国全体に同調圧力をかけられるのは、一党独裁国家だからです。

「製造強国を建設する」。22年10月の中国共産党大会で異例の3期目入りを果たした習氏は、改めてこう宣言した。米中摩擦や景気後退が叫ばれる中でも先端技術の獲得にあくなき執念を燃やす。同12月に開催された23年の経済方針を決める中央経済工作会議では安定成長を最優先する方針が示され、企業にとっては安心材料がようやく提供された。

だが、昨今の流れを踏まえれば、甘すぎる見通しは禁物だ。政策の予見可能性は低減している、という前提に立った経営戦略が求められる。

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🔷編集後記

一部ですが、「近いうちに中国は崩壊する」と述べる人がいますが、そう簡単に崩壊するとは考えにくいです。

ただし、中国内部の実態が明らかになっていないことが多いので、「蟻の一穴」でじわりじわりと内部崩壊していき、最後は瓦解するということも考えられます。

過去に、「ソビエト帝国」の崩壊を予言した人は複数いました。同様なことが起きないとは誰にも断言できません。「一寸先は闇」とはどの時代にも当てはまる格言です。



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