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ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男(2019)

トッド・ヘインズ監督の2019年作品「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」を観た。環境汚染問題をめぐって1人の弁護士が十数年にもわたり巨大企業との闘いを繰り広げた実話を、環境保護の活動家という一面も持つマーク・ラファロ(「アベンジャーズ」のハルク)の主演・プロデュースで映画化した作品。

1998年、名門法律事務所で働く企業弁護士ロブ・ビロットの元を訪ねたのは、祖母の知人で故郷のウェストバージニア州で農場を営むちょっと無愛想な老人。「大企業を恐れて誰も助けてくれない!」と彼が訴えるのは、農場に隣接する大手化学メーカーの廃棄物によって、農場の牛190頭が病死したという事実だった。

最初は乗り気でなかったビロットだが、調査を進めるうちに大手化学メーカーが発ガン性のある有害物質の危険性を40年間も隠蔽し、動物実験に留まらず社員まで使って(本人にわからない形で)人体実験を行い、危険性が証明されているにも関わらず有害物質を大気中や川や土壌に垂れ流し続けた疑いが判明する。

あまりにも恐ろしく、現在も放置されたままの危険をなんとかしようとビロットは集団訴訟に踏み切るが、アメリカ合衆国を代表する大企業に戦いを挑むのは無謀な挑戦であった。部下や上司からの支持も失い、収入は減り、メーカーからの脅迫で精神的にも追い詰められていく。また、訴えを起こした市民も、本来は同じく被害を受けている身内のはずながらそのメーカーで働く市民から迫害を受ける。地元で最も大きくたくさんの人を雇っている企業を敵にまわすなと。

化学メーカーに開示請求した膨大な量の資料から、明らかな証拠を発見して裁判に臨んでも、あの手この手で言い逃れされ、科学的な証明にとてつもない年月がかけられているうちに被害者はどんどんガンで亡くなっていく。

恐ろしいのは、これが実際に起きた事実であること。正しいことをしようとする勇気ある人物が、この途方もない無間地獄のような闘いの中でボロボロになりながらも、なんとか正気を保って心折れずにじわじわと前に進んでいく様は、カッコよくも清々しくもなく、ただただ尊い。

さすが自らプロデュースするだけあって、マーク・ラファロの静かなる熱演が凄い。また、脇を固めるアン・ハサウェイ、ティム・ロビンス、ビル・プルマンらも見事だ。

映画全体に派手さは全くなく、暗いトーンで地味な展開が続き、限りなく重い。しかし、これは実際に起きた出来事を描く作品なので、それはそれで当然であり、圧倒的な内容にぐうの音も出ない。

企業は金儲けのためにどこまでやるのか? 国家もそれを擁護するのか? 人間が人間の豊かさのために作り出したものが人間を蝕むことになっても、命を奪うことになっても、儲けるためなら許されるのか。

本当に恐ろしく、しかも解決されない真実を突き付けられる、事実に基づく物語。必見。


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