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関心領域(2023)

第76回カンヌ国際映画祭でグランプリに輝き、第96回アカデミー賞でも国際長編映画賞&音響賞のを受賞した話題作、ジョナサン・グレイザー監督の「関心領域」を観た。

広い庭には花が咲き誇り、庭のプールでは子どもたちが楽しげに遊んでいる。幸せいっぱいに笑顔で暮らす彼らの家の向こうには壁があって、壁の向こうの大きな建物からは煙があがる。時は1945年、その家族はアウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らしていた。

監督が新しい切り口で挑んだアウシュビッツ映画は、収容所の中を描かずに、壁を隔てた隣で暮らす所長の家族の平和な日常を観客に提示してみせる。ときどき壁の向こうから叫び声や銃声が聞こえるけど、それは壁の向こうの出来事であって、彼らの生活には特段影響を及ぼさない。

ちょっとした音や、ちょっとした臭いは慣れちゃえば平気で、目をつぶってやっていける。我々の生活の中でもよくあることだ。気にせずに、可能な範囲で幸せに暮らせば良いのだ。

といった感じで、この映画は徹底的に普通の平和な暮らしを定点観測のようなカメラ視点で映し続けるので、映像としても物語としても単調で、まるで面白くない。そこに映っているものの、壁ひとつ隔てた向こう側を想像し、対比して考えることで意味を見出して欲しいという意図に基づく作品だった。

映画を観終わって映画館を後にし街を歩いていると、目に入る平和に暮らす人々の姿の遥か向こうに壁があって、自分たちは壁のこちら側(映画で描かれた側)で日々過ごしているだけなのだなぁ…

と、景色の見え方が変わってしまうのだ。

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