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ドーン・オブ・ザ・デッド(2004)

ザック・スナイダー監督「ドーン・オブ・ザ・デッド」を観たので、この作品に至るジョージ・A・ロメロ監督の「リビング・デッド(ゾンビ)」3部作について、今日は基礎知識を書くことにします。

日本では1979年に公開され、エレベーターの扉が開いたら青白い顔した恐ろしげなゾンビが"ドワ~ッ"となだれ込んでくるCMでお茶の間のド肝を抜いた大ヒット作「ゾンビ」。

この映画の原題が「DAWN OF THE DEAD」つまり「ドーン・オブ・ザ・デッド」で、今週公開された映画は、この「ゾンビ」の現代版リメイク作品なのです。

加えて、この「ゾンビ」は、ジョージ・A・ロメロ監督が撮った3部作の真ん中に当たる作品で、その3部作は、1968年「NIGHT OF THE LIVING DEAD」→1977年「DAWN OF THE DEAD」→1985年「DAY OF THE DEAD」という、夜(NIGHT)→夜明け(DAWN)→昼(DAY)と続く人類の滅亡を描いた一連の流れを持った作品群なのです。あ、つまり「ドーン」は「夜明け」という意味ですね。

一見グロテスクなホラー映画と"軽く"見られがちなこの3部作が世界中に多くのファンを持ち、ある種の畏怖の念を持って崇拝されているのは、やはりこの映画の中に語るべき深いテーマが込められているから。それぞれの時代、それぞれの社会状況へのアンチテーゼ。ベトナム戦争当時のアメリカ、ベトナム戦争以後の退廃的な消費社会、そして未来に夢や希望がなくなった世紀末の、ぞれぞれの"気分"が描かれているのが魅力です。

徹底的に描かれる終末世界の無常観。情け容赦なく見せつけられる人間の心の根本的な醜さ。そして、喉元に突きつけられる「本当に怖いのは、ゾンビではなく人間だ」という事実。

…という凄い映画なので、みなさんも機会があったら、ぜひこの3部作、ご覧ください。

ちなみに邦題は、それぞれ「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」「ゾンビ」「死霊のえじき」となっております。なお、DVDで発売された「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド 最終版」というは、1999年にロメロ監督が関わらないところで作られた改悪作品なのでご注意を。もひとつ、DVD「死霊のえじき 最終版」も、多くのシーンをブチブチとカットした酷いバージョンなので要注意ということで。

というわけで、本題の新作「ドーン・オブ・ザ・デッド」ですが、ぶっちゃけものすごく良かったです。

1985年製作の「DAY OF THE DEAD」以来、「ゾンビの新作が見たい見たい」「トワイライト・オブ・ザ・デッドは製作されないのか!?」とヤキモキし続けたゾンビ・フリークの溜飲を下げる見事なゾンビ"新作"になっていました。

一部で「走るゾンビはゾンビじゃない(泣)」というファンの声もありますが、ここまでオリジナルの心意気を踏襲して作ってくれたら十分じゃないかと個人的には思いました。

先に書いたように、ゾンビといえば基本的に社会不安の大きい時代にそんな社会へのアンチテーゼとして登場する傾向がありましたが、そういった意味ではエイズ、SARS、BSEといった謎の感染症が次々と現実世界を襲っている今日、「ドーン・オブ・ザ・デッド」が公開されることは、とても腑に落ちる気がします。

そして、本作でも時代の恐怖や人間の心の醜さや愛する人に銃弾を撃ち込まなければならない悲しみを(オリジナルよりずいぶん軽くなってはいますが)描いて、それなりに深みのある"映画"に仕上がっています。

この映画、確かにちょっと怖いけど、本当に怖い人間よりは全然怖くないから、ぜひご覧いただければ!

(2004年5月記)

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