見出し画像

公務員職権濫用罪(刑法193条)

 旧称・統一教会の報道(以下統一教会と略す)も出揃ったようなので、2022年8月28日現在司法当局が取りうる行動をまとめておこうと思う。統一教会は与野党を問わず、有力な政治家には接近して「恩を売った」ようだ。むしろ統一教会が食指を動かさなかった政治家は、見込みなしと統一教会に値踏みされたと判断したほうが良いと思う。それほど網羅的に統一教会は政界に侵食したわけだ。

 統一教会がいくら網羅的に政界に侵食したからと言って、その全てに刑事責任を問うのは難しいと思う。パーティー券の購入や政治家が統一教会の関連団体に祝電を送っても、統一教会被害対策弁護団が情報を国会議員に上げているのだから脇が甘いと言えても、それが即刑事事件になるのは難しいだろう。司法当局が東京オリンピック関連の汚職事件だけではなく統一教会についても捜査しているだろうから、捜査の終結宣言が出たタイミングで岸田総理大臣が衆議院を解散し「国会出直し選挙」をやることで、統一教会と政界の癒着(特に自民党の)に対する国民の厳しい目にけじめをつけるしかないと思う。

 私が思うに、統一教会絡みの事案で刑事事件として立件されそうなのは、下村博文さんが文部科学大臣に在任中の「統一教会名称変更事件」ではないか。先の投稿記事で信仰の自由を定めた憲法20条に触れた。ここでも再掲しておこう。憲法20条1項後段は、「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。」と定める。この法文の前半は行政訴訟で目的効果基準として津地鎮祭事件判決(最大判昭52.7.13)以来判例として積み重ねられて来たものだが、後半の「政治上の権力を行使してはならない。」については、余り議論の積み重ねがないのではないか。しかし統一教会が下村博文さんを道具として使い、名称変更という目的を実現するために政治権力を行使した、と考えると憲法の法文がピッタリはまってしまう。そこでこの憲法のくだりを含意する犯罪類型を求めて刑法の教科書を再び熟読した。

 ご存知のように、憲法の規定は表現の自由を除いて、裁判では直接用いることは出来ない。その代わり刑事事件であれ民事事件であれ、法律の条文を解釈するときに憲法の精神を踏まえて法律の条文を解釈するのだ。例えば、前は尊属殺人罪という犯罪類型があったが、法の下の平等を定めた憲法14条に反するとして、刑法典から削除された。話をもとに戻そう。

 憲法の「政治権力を行使してはならない。」を含意した犯罪類型を考えていたところ、これはと思ったのが刑法193条の公務員職権濫用罪である。条文を掲げる。

 公務員職権濫用罪(刑法193条)

公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した                                            ときは、2年以下の懲役又は禁錮に処する。

 犯罪の主体は、公務員である。統一教会は公務員ではないのでこの犯罪類型に当たらないかと思われるかもしれないが、文部科学行政の行政庁である下村博文さんを「故意ある道具」と見立て、統一教会を「関節正犯」と構成することでクリア出来る問題だと思う。「人に義務のないことを行わせ」の部分は、行政法の講学上の概念の「補助機関」である大臣の部下の公務員に対して、長年不受理扱いしてきた統一教会の改名案を一転受理させたことが立証できれば十分だろう。この犯罪類型では、「職権を濫用」したことが必要で、単なる地位利用では公務員職権濫用罪は成立しない。しかし前述した通り霊感商法等の社会問題から長年不受理扱いしてきた統一教会の申込みを、朝令暮改して一転受理したことで「職権の濫用」を評価し得るだろう。

 公務員職権濫用罪で統一教会を立件することの利点は、統一教会の法人そのものを立件出来ることにある。それに依って従来特定商取引法違反や詐欺罪では立件が難しかった法人そのものの関与を立件し、宗教法人法第81条1項の裁判所による「宗教法人の」解散命令に繋げることが出来る点にある。

 検察・警察当局が公務員職権濫用罪での立件に二の足を踏むとしたら、それはこの犯罪類型での起訴率の異常な低さ、及びそれに伴う判例の少なさによるものだと思う。政治家を立件するときは、政治家が捜査に協力的でない場合も考えて、政治家の外堀・内堀を埋めてからだという話も聞く。政治家の「司法当局による、選挙で選ばれた立法府への介入だ。」との批判を恐れるからだ。しかし、政治家も結局自分のことしか考えていないと国民が思い、大山鳴動してネズミを一匹も取れないなら、国民の政治不信・政治家不信はピークを迎えるだろう。だから司法当局には新しい判例を作るつもりで仕事に取り組んでもらいたいと思う。

 以上私見を述べさせて頂いた。読者の皆さんの忌憚のない批評をお願いしたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?