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カフェでくつろぐ謎の家族

日常でみかけた些細な疑問を書き留める連載③

同シリーズはこちら
①1人推理遊び~小さなまちに馴染む小さな違和感~ 

②初々しい高齢カップル

⑤お茶をぶっかける女



わたしはカフェで読書したりネットサーフィンするのが趣味。主にチェーン店に行くのだが、この日は買い物スポットの一角にあるチェーン店のカフェに行った。スポット自体は大勢の人がにぎわう場所ではあるが、そのカフェは人の流れから外れたところにあるため、意外と空いていたりする。

わたしが行くと、50席以上ある店内にいるのは10数人ほど。ソファや壁際の1人席は人気のためほぼ埋まっていたが、わたしが座ったテーブルの小さい1人席は余裕でソーシャルディスタンスが取れるくらい、まばらだった。

先に席を取ってからレジに並ぶと1組の家族が注文をしていた。父親と母親、中高生くらいの女の子が2人。買い物でひと段落して、休憩することにしたのだろう。

4人席が空いていなかったので、ちょうどわたしの席と同じ並び、1人席が前後2列になっている所で、前に娘2人、後ろに夫婦で座ることにしたようだ。周りに人がいないので、娘や夫婦が話せばわたしまで聞こえるくらいの静けさはあった。

わたしは自分のことに集中していたのでしばらく気にしていなかったが、1時間もたつとその家族が気になり始めた。

カフェの利用客は、作業や勉強のため、友達同士のおしゃべりのため、そして買い物で一息つくため、とさまざまだ。家族連れは大抵、この最後の「買い物で一息つくため」が該当する。

実際、私が長居している間にも2,3組の家族が連れ立ってきた。特徴としては幼い子どもを連れている場合が多い。子どもを抱っこしたり乳母車を押しながら買い物をして、座りたくなる気持ちはわかる。子どもと一緒に甘いドリンクやスイーツを食べて、大抵は30分以内に席を立っていた。

しかしこの家族は違った。

2人の娘たちはずっとおしゃべりしている。そして、わたしが居座った約2時間だったろうか、あまり覚えていないが少なくとも1時間以上はいた。

内容まで聞いてはいなかったが、ノンストップで続いている。わたしは姉や妹がいないので、いくら仲が良いとはいえ、きょうだいでそんなにおしゃべりすることが理解できなかった。いや、家ならまだ分かる。でもここは買い物スポットだ。服に雑貨、アクセサリーに食べ物、見るだけでも楽しめるものが密集していて、疲れたら座れるベンチもそこら中にある。わざわざこんな場所に来て、チェーン店のカフェで話す必要性ってある?

もしかしたら姉妹じゃなく、久しぶりに会うイトコだとか、友達同士かもしれない。それでも違和感は残る。大人の友人同士がカフェで会って会話を楽しむというより、中高生が学校の帰りにしゃべっているような雰囲気だったから、カフェで腰を落ち着ける理由が見つからない。むしろ中高生なら、ショッピングがてらの方が自然な気がする。

ついでに、後ろめたい話をしていないとしても、両親にも聞こえる場所で年ごろの女の子がそんなにもしゃべるものか? というのも不思議だった。

両親は会話する訳でもなく、それぞれスマホを見ている。もしかしたら本を読んだりしていたかもしれないが、そこまで観察していなかった。仲が悪いという訳ではなさそうだ。まあ、昨日のカップルでもあるまいし、中高生くらいの娘を持つ父と母の雰囲気としては、別に変でもないだろう。

しかし20~30分の小休憩ならまだしも、2時間近くの休憩というのはどういうことだろう?

用事がないなら早く帰ればいい。ということは、映画の時間とか、何かの予約の時間、あるいは人との待ち合わせなど、とにかく暇つぶしに違いない。

カフェで2時間、時間をつぶすのは別に構わない。ただ最大の謎は「家族が買い物スポットという非日常に来て、カフェでバラバラの時間を過ごす。しかも長時間」ということ。ここはショッピングを楽しむ場所であり、時間と待ち合わせ場所さえ決めておけば、それぞれ楽しめるはず。1-3でも2-2でもバラバラでも、迷子になる歳でもなければスマホも持っているだろう。

例えば、ものすごいおしゃべり好きな家族で、買い物スポットだろうが観光スポットだろうが、”話し出したら止まらない”というのなら、かなり風変りではあるけれど納得できる。

しかし、その家族には何も感じなかった。自宅のリビングルームの光景をそのままカフェに持ってきたかのようだった。

夫の横でスマホを見る妻、妻の横でスマホを見る夫の気持ちもけっこう理解しがたいところがあった。ここにきてまでそれするの? できるものなら本人の気持ちを聞いてみたい。自分の育ってきた環境と違いすぎて、頭の中が「?」だらけなのだが、そういうもんなんでしょうか。


いやまて、こういう可能性もある。

<この家族には帰る家がない。だからカフェという場所を借りて、淡々と家族団らんを楽しんでいる>

だったらこれが幸せのひとときなのかもしれない。

もっと飛躍させた妄想だと

<この4人は赤の他人。これから遂行するミッションの時間を待っている>

とも考えられる。映画が始まりそうだ。これが事実だとしたら、4人は名優だ。演技力がハンパない。

いつだったかMI6が採用募集しているとかいうほんとかウソか分からない情報を見たことがある。もしかしたらこの4人がMI6だったのかもしれない。


最後にリアルな予想を書くと、わたしが不思議がっているだけで、この家族にとって、時間待ちであろうが何だろうが、買い物スポットのカフェに来て家のリビングかのように過ごすのは何も不思議なことではないのかもしれない。

この時間がもったいなくないの? とか自主性ないの? とか考えてしまうのはわたしのエゴなのだろう。

そういえば、学生時代に友達と沖縄旅行に行った際、わたしは一刻も早く観光地に行きたかったのに、友人に「ホテルでゆっくり過ごそう」とか「アウトレットモールに行こう」って言われた時は興ざめした。アウトレットモールって、どこでもあるしどこ行っても大差ないでしょ。

初沖縄でそりゃないだろうよと。でもそういう過ごし方を好む人もいるんだよな。今の歳になって、そういうのも優雅でいいとは思うけれど、あの若さでその境地に立っていた友人はある意味すごいのかもしれない。


わたしの常識は他人の非常識、他人の常識はわたしの非常識。まだまだ知らない世界がたくさんあるらしい。

価値観を壊されるいい機会となった。





実は「小説・かぐや様は告らせたくない ~緊張感あふれる攻防戦~」も実話だったりして。


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