見出し画像

ストーリー+絵+αで有り余る存在感 漫画家・田村由美さん

note募集中の #好きな漫画家 について書きます。

私の好きな漫画家は田村由美さんです。いま話題沸騰中、来年1月スタートで菅田将暉主演のドラマ「ミステリと言う勿れ」の原作者さん。情報公開もかなり早かったし、俳優陣を見るだけで力が入っているのが分かるので、ドラマは間違いなくおもしろいでしょう。でもたぶん、マンガの方がおもしろいはず。そう断言できるくらい素晴らしい漫画家さんです。

きっかけは片思いの男の子

私が初めて読んだのは「BASARA(バサラ)」。キッカケは忘れもしない、片思いだった男の子が「少女マンガだけど、これはめっちゃおもしろい」と言っていたことでした。その子のことが知りたくて、とりあえず読んでみようと思ったのですが、正直、表紙を見た時の第一印象は「本当におもしろいのかな……?」でした。

線が細くて目がものすごいキラキラしていて、ちょっと古いタッチの少女マンガぽいなあ、なんて思ったのです。今はこの絵こそ素晴らしいと思っているのですが、当時の好みとは違っていました。

でもすぐに圧倒的な世界観に魅了されました。

BASARAの世界観

舞台は現代文明が滅んだあとの日本。スマホなどあるはずもなく、技術的には電気も通っていない江戸時代くらいでしょうか。文明は退化したようにも見えますが、自然に寄り添う形で地方ごとに独自の発展を遂げており、原点回帰というか、ある意味では理想的な形ともいえます。

主役は地方の小さな集落の長の娘であり、双子の妹でもある更紗。父と兄を殺した赤の王を倒すべく立ち上がり、本人の意志に反して天下統一へと向かう大河ドラマです。

血みどろの戦いあり、友情に恋もあり。舞台は違えど、マンガだとドラゴンボールやワンピース、小説だと三国志やら司馬遼太郎などと通じるところはあるでしょう(鬼滅はよく知りません)。こういった王道ストーリーも映像やマンガ、小説で一通り触れたことはあります。

人情と残酷さが交差するドラマ

王道ストーリーももちろん好きですが、BASARAはそれらとは一味違う深みがあります。もっと人の心が描かれた大河ドラマなのです。けっこうな数の登場人物が出てくるのに、それぞれにストーリーがあって、それぞれに葛藤がある。情に流されることもあるし、騙し合いもある。

ただし、情や優しさに偏重することもなく、一方で妙に生々しい描写やリアルな残酷さもある。単純な善と悪、感動ドラマでもない。
ほかの作家さんでも葛藤は描かれますが、どうしても表面的になってしまうところもあり、よくもわるくも分かりやすい。私としては「ちょっと分かり易すぎる」と思っちゃうんですよね。そんな中、BASARAは複雑な心境も描写した上で納得させてくれる。

ロマンだけで頂は目指せない

「テッペンを目指す」ってシンプルでいてロマンもありますが、その時代に生きた人で天下統一などを成し遂げた人って、スポーツや小さい会社ならともかく、ただただ「全国制覇」だとか「一番」、あるいは「支配欲」のために命懸けて目指さないと思うんですよね。途中までそれでいけても、頂点に近づくのはいいことばかりじゃない。葛藤の中で運命に翻弄されながら、なるべくして近づいてゆく──そこに関わる人々の小さな心の揺れ動きを描けるのは、感覚の鋭い女性ならではなんじゃないでしょうか。

さりげなく地域ごとの伝統や宗教観も取り入れられているのも興味深い。少年漫画とは違う種類のエグさもあり、本当にこういう人たちの歴史があって、田村さんは近くで見てきたんじゃないかと思うくらいリアリティがあります。

カッコイイようで泥臭い。必死で目の前のことに対峙してきたら、しらないうちにここまできた──。主人公の数奇な運命とそれを取り巻く人々、数十人分の凝縮された人生を味わうことのできる作品でした。

アニメはあったみたいだけど、大河とか映画とかで実写化してくれないかなあ、絶対おもしろいはずです。

ご本人のことが気になる

あとは、自然への造詣も深く示唆に富んだセリフも多い。こういう知恵はお勉強だけでは絶対に身につきません。田村さんてどんな人なんだろう、どんな環境で育ったらこういう人ができあがるんだろう、ってめちゃくちゃ気になります。できるものならインタビューしてみたい。(ファンの割にはインタビュー記事とかほとんど読んだことがない……)

最初は好きではなかった絵も、いまではすっかりハマりました。人物ごとに見事に描き分けられているのも素晴らしいのですが、何より絵で魅せてくれる。絵でこれだけの表現ができる漫画家さんて、そんなにいないんじゃないでしょうか。田村さん作品を読んでいると、セリフの量と絵のバランス、空間づかいにカット割りとか余白とかも含めた表現がマンガなのだ、と実感します。

あと「目」がいいんですよね。あまり詳しくないですが、絵を描く際に目って重要なんですよね。光があるかないか、伏し目がちか、どこを向いているか、といったことからも人物の感情を読み取ることができます。

テクニックもあり表現の幅が広いからこそ、限られたページでも情報量が多く内容が濃いのでしょうね。

AIには絶対描けない

次作の「7SEED(セブン・シード)」はBASARAと近い世界観に感じたので長らく避けていたのですが、私が浅はかでした。こっちも面白かったです。大河っぽいものだけ描くのかと思えばジャンルが全然違う「イロメン」に「ミステリと言う勿れ」(ほかは読んだことがありません)。舞台が違っても田村ワールド炸裂。なんでこんなアイディアが沸いてくるんだろう? と本当に不思議です。

ストーリーの作り方、感情表現、絵力、どれをとってもすごい。きっと優秀な編集者さんもついてるでしょうし、おひとりの力ではないでしょうが、それでも田村さんじゃないと無理でしょう、これは。

たぶん、マンガもAIが描く時代になろうが、田村さんの作品だけは未来永劫AIには描けません(描けたらすみません)。

いまどき、魔法とか特殊能力だとかを使わずに、引き込まれる作品を作るのってマンガでなくても難しいのではないでしょうか。私にとってBASARAは、下手な小説よりよほどエンタメであり歴史小説であり純文学です。私もここまで人の心を動かせる作家になりたいものです。

いつかBASARAを再購入します

ずっと手放さなかった唯一のマンガ・BASARAを昨年、断捨離で手放したこと、めちゃくちゃ後悔しています。またいつか買いなおすかもしれません。その代わり、とりあえずミステリと言う勿れを全巻そろえました。正確には1、2巻は電子コミックだったのですが、電子じゃムリと思って3巻から紙にしました。

きっかけをくれた男の子を好きになったのは、きっと天が私にBASARAを読ませるためだったに違いありません。

これからもずっと応援してます。なんか書いてるうちに熱が入りすぎてファンレターっぽくなりました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?