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小説・強制天職エージェント㉔

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「あっ、すみません。仕事は辞めるつもりはありません。こないだ、水島さんにぶちまけた時までは、本当に嫌で辞めてしまいたいと思ったんです。でも、秘書の仕事はしんどいですけど、楽しいんです」
八重子は水島の様子に気づいていないらしく、そのまま続けた。

「自分のこれまでやってきた知識もスキルも生かせるし、幅広い業務にも関われる。社長の自由さに振り回されることもあるけど、だからこそ可能性も感じているんです。もしかしたら、普通の秘書業務より、もっとおもしろいことができるんじゃないかって」
一気にしゃべると、カクテルを一口くいっと飲んだ。水島は、気が抜けて聞いているのか分からない状態だったのだが。八重子は、ふう、と息を吐くと、水島を振り返った。

「もう少しやってみたいんです。そう思えたのは、水島さんのおかげです」

「え?」

「今まで、私、あまり人に仕事の悩みを言ったことなんてなかったんです。弱みを見せるのが、どうしてもできなくて。でも、水島さんがずっと見ていてくれて、親身になってくれて……。あくまでも仕事、というのは分かっていたんですけど、それでも心強かったです。あの日、みっともない姿を見せてしまって、帰ってから情けないやら恥ずかしいやらで、もう死にたいくらいでした。でも、同じくらいうれしかったんです。一晩明けたら、自分でもびっくりするほどすっきりしてました。水島さんのおかげだったんだ、って気づきました」
八重子ははにかみながら言った。

「そう……。そういえば、事務職の女の子たちとの関係は?」

「彼女たちに思うことは、前からあまり変わらないですけど。加奈さんのおせっかいも大変だったし。でも、そこまで気にすることはないかな、と思うようになりました。やっぱり、仕事に集中できるようになったからでしょうか。無理して合わせるのも止めて、たまには1人でランチに行こうかな、なんて」

「なら、いいけど」
自分から聞いておいて、水島は上の空だった。

「それで、仕事は辞めないんですけど……。はい、よろしくお願いします」

「よろしく、とは……」
言葉の意味が分からず、さっきまでの八重子の台詞を辿りながら聞き返した。

「おつきあい、です」

「えっ」
どん底からのどんでん返しに、理解するまでに少し時間を要した。
「そっか……。ありがとう」
水島は静かに喜びをかみしめた。

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