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小説・強制天職エージェント⑩

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「じゃあ、君の話を聞こうか」

「ああ。あれから、彼女のクライミング友達にも接触してみたよ。加藤唯という名前で、瀬戸さんと高校からの友人らしい。彼女が1人でクライミングに来たところを、オレも客を装って話しかけてみたんだ」

水島は調査のため、わざわざクライミングにも通っていた。

「加藤さんと瀬戸さんはかなり親しいらしく、色々とエピソードを話してくれたよ。瀬戸さんは大勢の友達と遊ぶことはせず、1人で過ごすのが好きらしい。でも人嫌いとかではなく、ただ表面的な人付き合いが好きではない、ってとこかな。趣味は料理で、なかなかの腕だってさ。加藤さんもたまに振る舞ってもらって、瀬戸さんのことを料理上手といっていた。朝早いのは、やはり料理をしているんだろうな。お前が会社で見たといっていた弁当の話も納得できる」

小早川が八重子の会社で弁当の中身まで見ていたということに刺激を受け、水島もやる気を出していた。小早川に引けを取るわけにはいかない。

「あれから出社前と帰宅後、休日の過ごし方をじっくり見ていると、洗濯や掃除もこまめにやっている様子だった。早寝早起きで家事も完璧、生活態度は模範的。見習わなきゃと思うくらい完璧だね」

 水島はそこまでいったところで顔を上げると、小早川は何かを考え込んでいるようだった。

「そうか、なるほどね……」
独り言のように小早川はつぶやいた。


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