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成年後見のはじまりとおわり


■ 父の死後、母に成年後見人をつけました。

母は認知症でしたので、相続手続きはできません。
わたしは一人っ子です。母の代理人にはなれません。

父の死を母に報せず、全部の手続きを済ませたい。
わたしはそう考えていました。

母は認知症であっても、夫の死を理解する認知力はありました。
おとうさん亡くなったよと教えれば、母は悲しむ。そして忘れる。
手続きのたびにまた教える、悲しむ、忘れる。
その繰り返しは母を苦しめるだけ。ということはわかっていました。

母の晩年をできる限りおだやかにしたい。
施設の職員の皆さんにも、介護更新のために市役所から現況聞き取りの調査員が来ても、
『父の死のことは絶対に口にしないでください』
と、念入りにお願いしていました。

このような状況でしたから、母に成年後見人をつけずに相続手続きをすることは不可能だったのです。
成年後見については、父母の生前から下調べしていたので、書類は手元にありました。

何故下調べしていたかというとですね(フッ……)数年前、生命保険会社の対応が言語道断でしたので、いざというときのためにと、裁判所から書類一式をもらってきておいたからなんですよ。
この件についてはまたいつか、なんらかのかたちで書きたいと思っています(高齢者は法的手続きと金融手続きができない問題も含めて)。

父の死の一ヶ月後、裁判所に成年後見人申し立てをしました。
その二ヶ月後、弁護士が母の成年後見人になりました。

裁判所と後見人弁護士、その他のためにと用意した書類は、合わせれば2000枚を軽く超えました。
裁判所が被後見人とその家族関係、後見の背景を知るための調査書類が、約500枚ありました。(ケースによってはこれ以上、これ以下の枚数の場合もあると思われます)
そして今回は相続のからむ事案でしたから、
裁判所に提出する後見人申し立ての書類
+後見人に渡す書類
+税理士に渡す書類
+司法書士に渡す書類
+官庁・施設・金融機関に渡す書類
+この全部について自分用控え
=数倍の枚数。
ということで、総枚数は多かったのでした。


■ 下記のような準備をします。(これで全部じゃないけれど、おおむね)

父と母のすべての預貯金の通帳、表紙から裏表紙まで記載のあるものは全ページコピー。
父が利用していた金融機関から残高証明を出してもらい、添付。
父の資産、母の資産について書類のあるものはすべてコピー。
不動産全目録(権利書不可)登記所の発行のもの。
年金、介護保険、健康保険、住民税、固定資産税、その他加入している保険契約全部コピー。
施設利用明細、一年間相当全部コピー。
市役所介護課から送られてくる介護に関する通知と明細全部コピー。
障害者手帳及び補助金の明細、支給品の内容と金額、全部コピー。
医療機関の領収書等一年間相当、全部コピー。
家計簿に準ずる記録・収入支出一年間相当、コピー。
家族関係を示す戸籍等、父が生まれてから死去するまでのすべての戸籍を原戸籍にさかのぼって取得して提出。
母の戸籍簿(諸般の事情により、家族関係がわかるもの全部ということになり、最終的には住民票・謄本全部記載・原戸籍)提出。
わたしの戸籍簿も全部提出。加えて、わたしの家族の情報も職歴・年収にいたるまで細かく記入して提出。
兄弟姉妹のあるひとは全員の戸籍を提出。
後見人をつけることに、家族全員が同意しているという証明書を提出。
戸籍などは基本原本提出。取得三ヶ月以内。
母に法的手続きをする能力がないということを証明するために、あらたに診察を受け、医師から診断書を出してもらう。
母が認定以前に後見を受けていないことを証明する書類を法務局から取り寄せて提出。
成年後見人をつける理由を書いて提出。

わたしの場合、介護しながら、自分の家庭もきりまわしながら、空き時間を使っての書類作りで、全部揃えるのに二週間くらいかかりました。

■ 相続協議〜相続

何はともあれまず相続協議をしなければいけません。被相続人(父)の死後10か月以内。というのが、法律が定めた相続の期限です。

弁護士さんは多忙だったのでしょう、相続協議は父の死後10か月以上たってから始まりました。
で、繰り返しますが、被相続人死亡後10ヶ月以上経過すると、追徴金です。
ただし、母には追徴金はかかりません。成年後見人が相続の手続きをする場合は、父の死亡時を基準にするのではなく、後見人認定日から10ヶ月以内、という仕組みになっているそうです。
母が損をしないので後見人弁護士さんの手落ちにはなりません。
でもわたしのぶんは超過扱い。もちろん自分持ちですよ。
追徴金払いましたとも。はい。

弁護士さんがどうして期限内に相続協議と手続きを開始しなかったのか、説明はなかったし、理由もわかりません。
が、こういうことを裁判所に尋ねると『裁判所の心証が悪くなる』そうなので、黙っていたほうがいいよ。と、知り合いの法曹関係者の弁でした。
というわけで、よくわからないまま、誰にも聞かず、そのままになりました。←聞いて取材しておけばよかったと後悔してる。法律における司法側の心証ってつまり。なんなんだろう?? 質問すること自体けしからんということなのか?

で、次の問題は、わたしが支払う相続税でした。
相続が実施される前に、わたしのぶんの相続税を払わねばならない。
というヤバい事態になりました。
どうしてそういうことになったのかというと、やはり、手続きが遅れて期限超過していたから。なのでした。

ところで。
当時、わたしは介護介護で七年ほど仕事をしていませんでした。つまり収入ゼロ。
加えて、親の施設費の一部だとか医療費交通費、実家の庭の不要品処分やら清掃費等々、なんだかんだとそれなりの額を十年近く、払ってきました。

年をとっても、父なりに、母なりに、お金をきちんと管理する。ということは、自立の一部とわたしは思っていました。
本人が「これはできる」と思っていることを、たとえ家族であっても、取り上げてはいけない。
父が比較的しっかりしていたころは、わたしは実家の家計のやりくりなどに手出ししませんでした。

ところが。介護が始まる少し前、父の『お金をキープしたい・使いたくない』傾向が突然強くあらわれ、必要な出費であっても、払いたがらないという状態になったのです。
後年に顕著になった物盗られ妄想、いわゆるせん妄の初期段階だったのかもしれません。

父母はじゅうぶんな額の年金を受け取っていたし、預貯金もしっかり蓄えていたから、暮らしに困るような家計状態ではなかったのだ……ということは、ずっとあとになって知ったのでした。
計算したことはないから、父と母のあれこれのために、どのくらいわたしが負担したのか正確にはわかりません。
わたしのお財布の中は、父が死亡するちょっと前あたりには、ほぼすっからかんでした。

相続税ぶんの大金はない。
前払いせよと言われましても。
でも、支払い遅れたらまた追徴金だってよ。
困ったぞ〜〜

唯一の救いが、父がわたしに遺した一件の生命保険契約でした。
わたしは筋金入りの保険嫌いですが、このときは本当に助かった。

じつは父は晩年、認知症の初期に失明の危機にさらされ、入退院を繰り返して、次第に判断力が鈍っていった時期がありました。
その時期に、金融機関に勧められるままに、預貯金、資産、年金のほぼ全額をつぎ込むような保険を、10ほども契約していたのです。
そのほとんどが、父にも母にもわたしにも、二度と手出しできない契約内容(お金を取り戻せない契約)でしたので、あとで介護費用が捻出できず、えらいこっちゃになったわけですが。

それはともかくとして、一件だけ、少額ではありましたが、わたしが請求できる契約がありました。地元の信用金庫の取り扱いの保険でした。
死亡保険金が下りる保険だったのです。
相続手続きの完了を待たずに請求して、保険金を受け取れます。
これがなかったら、サラ金に走らなければいけなかった。かもしれない。
相続税ってあなどれない額ですから。
保険金が振り込まれてくるのを待って、相続税を払いました。

■ 実際の相続へ・いくつかの手続き

銀行、信金、郵便局等へ行き、手続きして預貯金の移動、請求して受け取る、固定資産の名義変更等、実際の相続が始まります。

不動産の相続手続きは司法書士に代行してもらいました。
手数料10万円以下。
税務処理は税理士に頼みました。
こちらは手数料40万円ほど。
家屋について、のちのメンテナンス、火災保険手続きの必要性、固定資産税の支払い等をわたしがおこなうことになると考え、母とわたしとで半分ずつの相続としました。

母の資産は、母名義の預貯金に加え、父の遺産の相続分+父が母に遺した保険金+遺族年金。介護費用は心配せずに済みました。


■ 【蛇足】
手続きについて。
名前あげて申し訳ないけれど、体験したことだから、書きますね。
金融機関の手続きでもっとも複雑だったのはゆうちょさんとかんぽさんでした。
手続き繁多という点ではトップレベルだったと思います。間違いがあってはいけないから、何度もチェックを入れ、念には念を入れて確認をとるのでしょう。
信頼度では堅いと思う。じつにしっかりしてます。

(と書きましたけれどもこの記事の掲載後にかんぽによる大量不正保険契約?の事件がおおやけになりまして信頼度は失墜しました。

訂正して記載するのもなんですからこのままにしておきますが、まぁ保険と聞いたらどこのどんな保険であっても警戒と確認をしっかりしてください。と追記しておきます)

しかしゆうちょでもかんぽでも、葬儀と申し立てと介護と相続と自分の家の家事とその他のケアとでヒーハーしてる者にとっては、たとえどれほど堅牢であっても、手続き繁多はありがたくなかったです……(個人の感想です)

手続きの簡便さは地元の信用金庫が一番。
全部の手続きが一時間以内で完了。
次が銀行。これも相続手続きお願いしますと予約さえしておけば、おおむね一時間程度。

ゆうちょは何回か窓口へ行かないとできません。
手順、ざっくりと書いてみますね。

郵便局へ行き、相続手続きをしたいと窓口に申告。
手続き開始の依頼のための書類をもらう。
持ち帰って書類に記入。
郵便局へ行き、書類と戸籍謄本などを提出。
後日、相続に必要な書類が自宅に郵送されてくる。
書類に記入。印鑑証明なども用意。
書類を提出する(このときは郵送だったかもしれない。うろ覚え)。
通帳等の新規作成、入金手続き。
すこしあいだが空く。
(連絡はこないけれど、一ヶ月くらいしたら)郵便局に行き、入金を確認。
1000万を超えたぶんの金額を他行に移動する手続きなどをする。
完了
こんな感じです。


母のほうの相続手続きは全部、後見人弁護士がしました。
かんぽの保険で、請求できず、解約もできず、しかし支払いだけは毎月続いていた保険、これで晴れて請求できます。
が、請求しなかった。何故かというと、このころから母の最期のときまで、入院するような病気にかからなかったから!
まあ、それはそれで母のためにはよかったと思います。定期診療と手厚い看護を受けられる施設でしたので、安心でした。


■ 成年後見のおわりに

かくて。
月日は流れ、母が旅立ち、成年後見人を解任するときがきました。
後見業務終了後、後見人弁護士に報酬を支払いました。
母の後見人弁護士に支払った報酬額、一年半で
約200万円。

相続協議と相続手続き
母の資産を守る
このふたつの業務に対する報酬。ということになります。

他には特にこれといって、弁護士による業務は発生しなかった後見案件でした。
母は施設内にいましたし(後見人による身上監護などは不用)、
介護プラン等についてはわたしが施設と面談。
通院入院等はわたしが付き添い。
家の管理など実家に関わるすべての作業と、実家の維持にかかる支払い、その他雑務もろもろはわたしが受け持ったからです。
たまたまですが、わたしとわたしの家族がこの時期わりあいと健康だったので、後見人に依頼する業務が少なくて済み、この報酬額で収まったのだと思います。

家族がいないひとに後見人がつくと、自宅の管理、身上監護、介護プランや施設入居手続き、病院との交渉や連絡…のようなことも業務に入ってくる可能性があり、その場合は後見人に支払う報酬額は上がるかもしれない。
ということで、金額は参考程度に。

後見人弁護士の仲介で火災保険会社の営業氏〜税理士〜司法書士〜不動産業者さんへと、次々紹介してもらい、おかげで二度目の相続のときも、ずいぶんと助かりました。
業務の他にこうした面でフォローしてもらえて良かった。
本音を言うと、それぞれの仕事の皆さんに取材もしたかったんだけど(笑)さすがにそれはね。遠慮しました。


■ 資産を守るということ

あとですね。蛇足の蛇足だけど、知らない人多いと思うから、もう一度書き足しときますね。大事なことです。

亡くなられたひとの口座を
凍結しないで放置していた場合
(死亡したことを銀行等に連絡しないでいた場合)
相続するひとが認知症で
成年後見人がいない期間に
口座のお金によからぬ手出しをした第三者がいたとしても
銀行は補償をしません。

成年後見人がついている場合は、銀行がきちんと管理して、預貯金者の資産を保護し、なにかあれば補償するそうです。父のメインバンクの説明はそうでした。法律がどうなのかは知りません。

ただし、口座名義人が死亡したのちも、遺族の生活のためにその口座のお金がどうしても必要だという場合は、慌てて凍結すると死活問題です。

この件については金融に詳しいひとのアドバイスを受けて、適切に運用することをおすすめします。

とりあえず
要介護3くらいの認定をうけている、認知症の高齢者さんがいるご家庭
は、資金運営に気をつけてください。
講座の残高チェックと引き落とし内容のチェックは定期的に。
(認知症でなくても、口座のチェックは定期的に)
(自分、できてないけど)(汗)

それと、
保険の受取人、請求できる人、これもなるべく若い年代に
変更しておくことをおすすめします。
認知症であれば、請求できない、請求できなければ保険は受け取れない。
受け取らずにいれば二年か三年で、すべて失います。
覚えておいてください。

それやこれやの相続を終えて、なんかこう、三行紹介のアオリっぽく遊んでみると。

実録】
ひとり娘が体験した遺産相続&成年後見制度・その真実!
”知られざる成年後見の世界・生命保険契約の闇とは?”
—— 今あきらかになる介護後の苛烈な戦い・その全容!——
 


こんな感じでしたかね。

成年後見人制度については、これから介護をするかたに向けて、もうちょっと書く予定です。

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最後に。余計なことですが、あえて。
介護は愛だけじゃ無理。
むろん精神論だけでも保たない。
知恵と技術と戦略が大事。
お金も大事。
保険も成年後見も、難儀ではあるけれど、賢く利用して。
そして自分を守って。
頑張りすぎて燃え尽きないように。

介護が終わっても自分の人生は続く。

そのことを忘れないでください。


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