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論文紹介 現代戦で水上艦艇は敵の地対艦ミサイルを撃破できるのか?

イギリス海軍軍人ホレーショ・ネルソンは水上艦艇の艦載砲で沿岸地域に展開した砲兵と交戦することが、どれほど危険なことであるかをよく知っていました。「砲台と戦う艦の愚かさ(A ships a fool to fight a fort)」とはネルソンの格言です。

この格言が現代の海上作戦でも通用するのか、研究者の見方はさまざまです。この記事では、沿岸地域に展開した地対艦ミサイルを撃破するため、水上艦艇と海兵隊をどのように運用すべきかを数理モデルで分析したシミュレーション研究を紹介します。

Mahon, Casey M. 2007. A littoral combat model for land-sea missile engagements. Naval Postgraduate School Monterey.

沿岸戦闘モデルのシミュレーション分析

この研究が使っているのは、ヒューズ斉射モデル(Hughes salvo model)とランチェスター方程式(Lanchesters equations)を組み合わせた独自の沿岸戦闘モデルです。ヒューズ斉射モデルとランチェスター方程式はどちらも軍隊が交戦の過程で受ける損耗を記述するモデルですが、ヒューズ斉射モデルは海戦に特化した交戦モデルです。これらを統合することによって、著者は陸上部隊と海上部隊が交戦する過程を記述するモデルにし、さまざまなシナリオで結果をシミュレートしました。

著者の分析によれば、ネルソンの時代とは異なり、現代の沿岸戦闘は精密な誘導技術を応用した巡行ミサイルの応酬という形で行われており、しかも短時間で勝敗が決します。ミサイル技術は海上部隊が遠距離から陸上部隊に対してより効果が高い打撃を加えることを可能にしました。著者は現代の巡航ミサイルを使用すれば、海上部隊であっても陸上部隊に勝利を収めることは不可能ではないと論じています。ただし、それは容易なことではありません。海上部隊は効果的に敵を先制できなければならないためです。

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