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至高の飲みものインザバスルーム

とくべつ好きとも嫌いとも思っていなかった飲み物を、大好きになってしまった。

ノンアルコール・ビールである。

いままで「飲めない理由があるときに」「代替え品として」「仕方なく飲むもの」だと思いこんでいたけれど、この飲み物の真価を発揮する場所があった。風呂だ。入浴中にこそ、この飲み物は輝かんばかりにおいしくなり、ただの慣習のひとつであるバスタイムを、有頂天の楽しさまで持っていってくれる。

すっかりとりこになって、週の真ん中あたりに一本飲むことを、最近の楽しみにしている。

前々から、入浴中にビールが飲めたらどんなにか、楽しいだろうと思っていた。あつあつになった体に、ぎゅっと冷えたビールを流し込むのは想像するだけでうっとりしてしまう。

だけど、風呂の中での飲酒は、いっぱつで酔いが回ってのぼせる、危険な飲み方らしかった。実際、飲み会の後に酔ったまま湯船に浸かると、酷く湯あたりして脱衣場でしばらくしゃがみこんでいることもあった。なんだか恐くて踏み越えられないけれど、いまここでビールが飲めたらと、入浴のときにたびたび思っていた。

そこで、ノンアルコール飲料の見参である。

行儀は悪い。けれども、誰にも迷惑をかけないように、きちんと片付けしますからと誓って、ひえひえの缶を持ち込む。風呂の蓋の上に、ささやかなおやつとともに乗せると(みかんとか)なんだかもう、ひとりぼっちでもお祭り気分だ。

体があたたまったところで、初めて缶を開けてゴクゴク飲む。そういえば、最近は友達と、映画終わりに乾杯することはあったけれど、家でビールっぽいものを飲むのは、夏以来だった。寒くちぢこまりながら、ヒーターの前で清涼感のあるものを流し込む気になれなかった。でもほかほかの湯船の中なら、熱気を切り裂くような冷たい喉越しも歓迎できる。楽しい。

何本か飲みくらべていくうちに、当たり前だけれどメーカーによって、味が違うことが分かってきた。

角のとれた、さわやかな味わいのものもあれば、ドライな野蛮さを感じるものもあれば、実直にビールに擬態しようとがんばっているものもあって、それぞれに熱意や創意工夫を感じて、ちゃんとおいしい。

たまに趣向をかえて、カクテルっぽいものや、ハイボール風のものも飲んでみたけれど、やっぱりノンアルコール飲料はビール味がいちばん好きだ。

1日の終わりに、ぼんやりと入っていた入浴時間が華やいでうれしい。毎日飲むと、この特別な高揚に慣れてしまいそうなので、一本いっぽんを新鮮に楽しめるペースで、これからもこっそり味わいたいと思う。

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たけのこスカーフ
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