生活記 #1

日曜の夕方は一番むつかしい時間。

何がむつかしいって、まだ外に出たい衝動と、家でゆっくりしたい気持ちがどちらも混在するすごく微妙な時間帯だからだ。
特に冬場の新潟なので、外の空気は刺すような冷たさ。
今外に出るよりも、せっかく暖房の効いたこの部屋で休日の終わりを迎えようと思っていた。

今、個人的なデザイン仕事のビジュアルを考えている。
頭の中で参考にしたい広告を街で見かけた記憶があったので、検索していたが全く見つからない。

モノクロでKEE(現在は渋川清彦の名前で活動しているが、私たちと同世代かそれ以上の方にとっては今もKEE)の顔写真が大胆にレイアウトされたタバコの広告。

「KEE たばこ 広告」
「渋川清彦 JT 広告」
キーワードでたくさん試してみるものの、ヒットするのは昔のレトロな広告ばかり。CM規制などいろいろ聞くが、たばこの広告ってインターネット上にさえ出てこないんだろうか。
埒があかないので、思い切って外に出ることにした。

私は新潟市の中心街に住んでいるので、たばこの広告が貼ってあったと記憶しているアーケード街の自動販売機まで徒歩10分少々。
歩きながら、「街中に貼ってある広告を見るために出かける」なんて、2018年の現代でなんて非効率なんだ、と思う。
でも生活圏内でそういう事が出来るのは贅沢なことだ、とも思う。

結局、見たいと思っていた広告はJTの「SNUS」というシリーズのものだった。
モノクロ写真+蛍光グリーンの配色と「も」の部分などの書体の感じが印象的だったので、頭の中のイメージとそれほど相違がなかった。(後で家に帰って「SNUS」で検索してみると沢山画像が出てきた。検索キーワードって大事だ。)

自販機に貼られた広告をスマホで撮影して、来た道を戻る。

家に帰りながら、ふと眼鏡のフレームがだいぶ緩くなっていたことを思い出したので、途中にある「新潟眼鏡院」に寄る。
そういえば昨晩、今日は行けたら眼鏡屋さんに行こうと思っていたのだ。

店の中に入ってすぐ目の前にいた50代半ごろと思われる男性の店員さんに相談すると、「ちょっと預かりますね」と言って何度も調整してくれた。

眼鏡を預けてソファで座って待っている間、ぼんやりとしか見えない視界で店員さんが奥で調整しているのを見る。
「こんな感じでいかがでしょう」
と言って調整した眼鏡をかけさせてもらう際、店員さんの胸元に下げられていた名札がちょうど私の目の前に来る形になるので、かすんでいた文字がくっきりと現れる。

私の場合、頬にフレームが付いてしまうのだけど本来はあまりよくないらしい。そこからコーティングが剥がれてしまうとか。
そんなアドバイスを受けてお代を払おうとすると、料金はいらないという。

「この程度でお金をいただいていたら、商売にならない」と言っていたけど、
それだけで少し幸せな気持ちになる。同時に申し訳ない気持ちも。

名札を何度も見たので、この店員さんの名前は絶対に忘れない、と思っていたのに、この日記を書いている今はすっかり忘れてしまった。

眼鏡を調整してもらって家に帰る途中、妻から着信があり「椎茸を買って帰ってきて欲しい」という。

街中の広告を撮りにふらっと出掛けただけなのに眼鏡も調整出来て、しかも帰りにおつかいまで頼まれるシチュエーションがやっすいドラマみたいで気に入った。

ちょうど最寄りのスーパーの前を通るところだったので、ほどよいサイズの椎茸を選んで買って帰宅。
コンビニでPOPEYEの「二十歳の時何してた?」特集を買おうとレジ前まで持って行くも、思い直して辞めた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?