【第31話】「出る」と噂の火葬場。そこで現れたモノの姿、そして意外な正体とは…!?【下駄華緒の弔い人奇譚】
―第31話―
とある場所に「出る」という噂の火葬場がありました。
とはいえ、僕は全然そういう類のものが見えないタイプですし、しかも、もし自分が霊になったとしたらわざわざ火葬場に行くかなぁ?僕だったら死んだ場所とか家に行くなぁ、という素朴な疑問もありで、特になにも気にもしてなかったのですが、この話を聞いた時はなんとなく心に引っかかるものがありました。
ある葬儀屋さんが、その「出る」と噂の火葬場にやってきた時です。
その火葬場には式場が併設されていて遺族さんの対応も終わり、ひと段落ついたところでその葬儀屋さんはお昼ご飯を食べようとしたそうです。
ですが、火葬場の周りには飲食店がなく、散々探した結果お弁当屋さんを見つけたのでお弁当を買ったのですが、次は食べる場所がなく、仕方がないなぁと火葬場に戻って人目のつかない場所でお弁当を広げて食べていたそうです。その場所は火葬場の施設内の扉のない物置部屋で、ここなら他の遺族さんも来ないし火葬場職員も頻繁には来ないだろうと思い選んだそうです。
お弁当を半分くらい食べたところで同時に買ったお茶を一口飲んでいると、部屋を出て右側の方から足音が聞こえてきました。
「あ……誰か来る……」
もし火葬場職員に見られたら怒られるんじゃないかと緊張しつつ、しかしこの物置部屋には隠れられるようなスペースは一切なく固まったまま足音の様子を窺っていたそうです。
すると、作業着を着た火葬場職員が部屋を横切って歩いて行ったそうです。こちらには気づかずに真っ直ぐ横切って行ったので「よかった…」と思い急いでお弁当を平らげて部屋を出ようとするとまた、次は部屋を出て左側から足音が近づいて来たそうです。
「あ、戻って来たな」と思いまた部屋で待っていると足音がピタッと止んで、なにも音がしなくなったそうです。
「あれ?おかしいな」と思い、しかしながらいつまでもここにいるわけにもいかないので仕方なく部屋を出ると、葬儀屋さんはギョッとしました。
先ほど足音が聞こえた左側は通路ではなく行き止まりでした。
ということは、さっきの作業着の火葬場職員はどこに? 左側から聞こえた足音はここで止まった……ということは……
――ここにいる!!! そう思った葬儀屋さんは一目散にその場から離れ、火葬場の外の駐車場までやってきました。
この日は快晴、外は天気が良くそれだけで救われた気持ちになりました。
すると、近くに火葬場職員がいたので「ちょっと!ちょっと!」と声をかけ「あの…あそこの物置部屋って…」と話し始めると、それを遮るかのように、
「ああ、みました? 作業着着てたでしょ?」と火葬場職員が当然のように話し返してきたそうです。
そんなことがあって「俺は幽霊を信じるよ」と、その葬儀屋さんが当時別の火葬場職員だった僕に話してくれました。もし本当に幽霊だとしたら、死んでもなお職場で働いているのかと思うと、とっても真面目な方だったんだなぁと思いました。
著者紹介
2018年、バンド「ぼくたちのいるところ。」のベーシストとしてユニバーサルミュージックよりデビュー。前職の火葬場職員、葬儀屋の経験を生かし怪談師としても全国を駆け回る。怪談最恐戦2019怪談最恐位。2020年末に初の単著を上梓予定!!