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2021年11月25日

【今日は何の日?】11月25日:ランジェリー文化の日

クリスマス前に、恋人、妻へランジェリーをプレゼントしよう!ランジェリー業のコンサルタント・加藤綾乃氏が記念日に制定。

「尾行」

 焼き鳥屋でたまたま隣り合ったおっさんと、えらく話が弾んだ。
 気づくと夜の十時を少し回ったところだ。夜はまだ長い、せっかくだから二軒目に行かないかとおっさんに声をかけると、おっさんは頭を振った。
「いやいや、せっかくだけど兄ちゃん。おいちゃんな、最近深酒はやめてるんよ。こねえだ、やなもん見てよう」
 このおっさん、つい最近飲んだくれて午前様になったことがあった。
 終電が終わる前に地元の駅にたどり着いたものの、終バスはとっくにない。そこでタクシーを拾って帰ればいいものの、〈タクシー代でもう一軒、あとは歩いて帰りゃいいさ〉と酒優先思考をしてしまうところが、飲んだくれの飲んだくれたる所以だろうか。
 二時を回って三軒目を出た後、たまたま店の前を綺麗なおねえちゃんが通りがかった。
 酔った頭がシャキッと冴えるような、なかなかの美人さんだった。
 咄嗟に〈この娘はどこの店のコだろうか?〉と思った。
 何しろ、夜中の二時を回っている。若い女の子が、ましてやカタギの女の子が一人で歩く時間帯じゃない。服装もおっさんの会社の女の子たちが着ている私服とは違う。どちらかと言えば、お水系のおねえちゃんの戦闘服のような、そういう感じだった。
 おっさんは、ふらふらと茶髪のおねえちゃんの後を付いていった。
 後ろから襲いかかってどうこうなんて気持ちはさらさらない。きっとどこかのお店の遅番の娘か、ちょっと買い出しの帰りか何かに違いない。この際付いていって四軒目を開拓しよう。せいぜいが、その程度の下心だった。
 おねえちゃんは、賑やかな通りからだんだん寂しい路地に進んでいった。
 看板を出している店は次第に少なくなり、タクシーも入ってこないような細い道をどんどん進んでいく。およそ飲み屋に向かっているとは思えない。
〈変だなあ〉とは思った。が、〈会員制の店かなあ〉とも思っていた。
 酔った頭でぼんやり考えていると、そのおねえちゃんの服の背中がうっすらと透けて見え始めた。汗をかいているでも雨が降っているでもないのだが、ジッと目を凝らすと衣服の下の下着まで透き通って見えてきた。
〈ラッキー〉
 おっさんは酔っぱらいであったので、原理や理屈などまるで頭が回らなかったそうだ。
 ただただ、〈おねえちゃんの服が透けて見えて嬉しいな♪〉と、それしかなかった。
 が、ここでようやくおいちゃんは気づいた。
〈……このおねえちゃん、茶髪じゃなかったか?〉
 ところが、今は黒髪に見える。後を付け始めたときはうなじが見えるくらいのベリーショートだった気がするのだが、今はウェーブのかかったロングヘアに見える。
〈あれぇ?〉
 酔ってるからかなあと背広の袖で瞼を擦り、少し歩みを早めて近付いて見るが、今度はおねえちゃんはブレて見える。
 いや、ブレているのではなく、二人重なっているように見える。
 服を着た茶髪でベリーショートのおねえちゃんに、服を着ていない素っ裸で黒髪ロングヘアのおねえちゃんが重なっている。
 おっさんは怖くなった。
〈……逃げよう。逃げなくちゃ!〉
 と、足を止めたその瞬間、黒髪の裸のおねえちゃんが身を捩るように振り返ると、おっさんに向かって〈飛んで〉きた。四~五メートルは離れていたはずだが、おねえちゃんは、たった一歩でおっさんに抱きつくように飛んで来たという。
「おいちゃん、その後の記憶がねえんだよ。気が付いたら朝の十時でよう。盛り場の端っこのゴミの山ん中に寝てた」
 危うく、清掃局のゴミ回収車に放り込まれる寸前だった。
「とにかくよ。ありゃあ、怖かった。夜遅くまで飲み歩くのは良くねえ。兄ちゃんも、あんまり遅くならねえうちに、とっととおうちに帰んなよ」

――「尾行」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より

☜2021年11月24日 ◆ 2021年11月26日☞

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