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「5年後も、僕は生きています ㊱編集者との出会い

「5年後も、僕は生きています」第36話です。

㊱編集者との出会い

2018年の年末、僕は家にあるオラクルカードを引いてみました。

オラクルカードとは、きれいな絵とそれを象徴する言葉が書いてあるメッセージカーです。


無作為に一枚を選び、そこに書いてあるメッセージを受け取ります。

僕は良く切ってから、一枚、抜き出しました。

そこには…

帆を張った船に乗り、宇宙の川の流れに身を任せている女性がいました。

絵の上には、こんな文字が…

“Being In The Frow(流れのなかにいる)”


説明書には…

私は、宇宙の流れの中にいます。

あなたは人生という川の流れに逆らっていないので、すべてはあるべき場所に収まっています。

岸辺から手を放し、水の流れに身を任せましょう。

何もかも、自分で計画したり決定したりする必要はありません。

物事の自然の流れに任せていてよいのです。

そうか、そうなんだ。

これでいいんだ。

このままで、いいんだ。

僕は、宇宙から承認をもらったような気持ちになりました。

よし、来年(2019年)はただただ目の前にやってくる“流れ”に抵抗しないで、身を任せてみよう、そういう実験的な1年にしてみよう、それを1年の目標にしてみよう、そう決めました。


さて、来年、いったい何が起こるかな?

僕は先が見えないことで、ワクワクしてきました。


年が明け、2019年しなりました。

ふと気づくと、声がかなり出るようになっていました。

少しかすれいましたが、声量はガンになる前と同じくらいに戻っています。

僕はいつの間にか、さおりちゃんとの目標の2番目をクリアしていたのです。


そして2019年1月17日、僕は昨年連絡をいただいた小西さんからの紹介していただいた出版社の方に会うために、駅近にあるスターバックスに向かいました。

いったいどんな人なんだろう?

編集者…

ラフでおしゃれな業界人、みたいな感じかな?

僕は勝手にアロハシャツを着てサングラスをかけているおじさんをイメージしました。

あるいは、うっすらとおしゃれ髭を伸ばした“ちょい悪おやじ系”みたいなイメージです。

しかし、そのイメージは、見事に外れました。

僕の前に現れたその人は、濃紺のスーツにネクタイというキチッとした格好で、どちらかというと真面目で穏やかな常識人、みたいに感じでした。

「こんにちは、初めまして、刀根と申します」

「こちらこそ、今日はお時間を取っていただいて、ありがとうございます。吉尾と申します」

 その人は、丁寧でなおかつ落ち着きがある言葉と雰囲気を放っていました。おそらく、相当な修羅場をくぐってきているのでしょう。

「さっそくですが、刀根さんの原稿を読ませていただきまして…」

「ありがとうございます」

「面白いというと語弊はあるかもしれませんが、はい、とても興味深く読ませていただきました」

「まあ、あの原稿は僕的にはイマイチなのですが…」

「えっ? そうなんですか?」

「ええ、ちょっと編集者の意向が強く入っていまして、あまり満足は出来ていません」

「では、そのあたりも含めまして、お話しを伺わせていただくことは出来ますでしょうか? お話しできる範囲でかまいませんので」

吉尾さんはひと言一言、言葉を丁寧に選んでいるような話し方でした。


この人は信頼できる


僕は、直感しました。

「ええ、隠すことなど何もないので、全部お話しします」 

僕は肺ガンが見つかった経緯から、ガンが消えてしまったことまで、詳しく話をしました。

「いただいた原稿でも読ませていただきましたが、ご本人から直接お話しを伺うと、またほんとうに迫力が違いますね」

僕は前の出版社とは何も契約を結んでいないこと、何の謝礼ももらっていないことも伝えました。

「では、刀根さんのお話を出版することに対しての権利など、何も制約はなさそうですね」

「はい、そうですね」

「よかったです」

吉尾さんはそう言うと、今度はご自分のことを語り始めました。

「私は今まで、編集者としてベストセラーをいくつも出してきました。
いえ、これは自慢とかそういう事じゃなくて、どういう著者さんで、どういう本を書いていただければ、この程度売れるだろう、というような方程式みたいなものがあって、この業界が長いと、そういうことが分かってくるんですよ」

「そうなんですか、それは凄いですね」

「いえいえ、そんなんじゃありません。
で、最近、ほんとうに最近なのですが、私はこれでいいんだろうか、そういう疑問みたいなものが浮かんできたんです」

「…と、言いますと?」

「はい、この出版という世界に身を置いて、たくさんの本を世の中に出してきたけれど、ほんとにそれで良かったの? みたいな感じですね」

「それで良かったの? と言いますと?」

「はい、自分が“これ”という仕事をしていないような気がしていたんです。
“これ”が私の出した本です、“これ”が私の仕事です、みたいに自分に対して胸を張れるような仕事をしていないような気がしていたんです」

「“これ”ですか…」

「はい、確かに“売れる”本はたくさん作りました。
そして“実績”も作りました。
しかし私は、私がほんとうに“売りたい”本を作ってきただろうか? 
そんな疑問をいつも感じてしまっているんです」

「“売れる本”ではなくて“売りたい本”ですか」

「はい。売れなくてもいい、あ、すいません、もちろん、売れるに越したことはありません。
しかし、そういう数字とか実績とかそういうことではなく、私が心底“この本は、この著者さんは世に出したい”そう感じる仕事をして来ただろうか、いや、していない、そう感じていたのです」

「そうなんですか…なんか分かる気がします」

「で…、刀根さん」

「はい」


「いまお話をお伺いして思いました。私にとって、刀根さんが、そして刀根さんのガンからの生還のストーリーこそが、私の求めていたものだ、と言うことを。
刀根さん、私と一緒に本を作って頂けますでしょうか?」

それは熱い、ほんとうに熱い魂からの呼びかけのように、僕は感じました。

僕の魂も吉尾さんの呼びかけに共振して、同じように震え始めたのを感じました。

「ありがとうございます。僕もほんとうに嬉しいです。

信頼できる人と一緒に仕事をすること、同じ方向を向いて一緒に進むこと、こんなに幸せなことはありません。ぜひともよろしくお願いいたします」

僕たちは、がっちりと握手をしました。

「それではさっそく編集部の会議にかけます。
会社ではいくつかの会議がありまして、そこで承認を得ないと、書籍として制作することは出来ないのです。

ですから、まずは会議にかけさせていただきます」

「はい、分かりました」

「会議を通りましたら、その都度ご連絡を入れさせていただきます」

「ありがとうございます。それでは、僕はもう書き始めますね」

「今の原稿があるので、そんなにお急ぎにならなくても…」

「いえ、実は僕、あの原稿は使うつもりはないんです。
参考程度にはすると思いますが、全く新しく、全て書き直します。
その方がスッキリしますし、いいものになると思います」


「そういうことでしたら…分かりました。私はこれから会社に帰って、会議が通るように企画書を書くことにします。
必ず企画を通します」

吉尾さんはそう言うと、力強くうなずきました。

「はい、今後ともよろしくお願い致します」

僕たちは別れ際に、またがっちりと握手をしました。

家に帰ってから、ふと気づいてポケットの中に入っていた尾さんの名刺を見てみました。

吉尾さんの会社はSBクリエイティブ、所属は学芸編集部。そして役職はなんと、編集長でした。


編集長…

吉尾さん、編集長だったんだ…


なるほど、道理でなんか普通の人と違ってたんだ…


雰囲気とか、言葉の使い方とか…

なによりも「この人は信頼出来る」「この人と仕事がしてみたい」思わせる何かを吉尾さんは持っていました。

こういう人と、出会い、一緒に本を創ることが出来る。

これが“流れに乗っている”ということなんだ。

まだ通っていない会議がいくつもあるけど、流れに乗っているから、きっとうまくいくだろう。

僕は、僕の「生還体験を書く」という仕事を全うしよう。

よし、最高のものを書こう。

僕の中から、フツフツと熱いものが湧いてきました。

きっと最高のものが書ける、そんな期待と予感と、そして確信がやってきたのです。

㊲へ続く

第1話から読みたい方は、こちらから読むことが出来ます。

YouTube「学識サロン」さんでご紹介頂きました。
アップされてから5日で5万回以上の視聴がされています。
スゴいですね。
よろしければ見てみて下さい。


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