見出し画像

「5年後も、僕は、生きています。③体調不良による不安や恐れに支配されないこと」

第3回「体調不良による不安や恐れに支配されないこと」

同じ時期(2017年7月~2ヶ月おきくらいかな)に、今度は眼科の診察を受けました。

ガン専門病院から派遣されているドクターは、暗視カメラみたいなちょっとカッコいいスコープで、ひととおり僕の左右の目の中を覗いた後、こう言いました。

「視力が落ちてますね。放射線やりましょう。放射線」

 

僕のガンは働き者で、両眼の網膜にも転移していて、一番ひどかったときは空が緑色に見え、四角いビルが台形に見えました。

まるでSFの世界みたいで、面白かったですね。

それと、目の映像機関がちょっと歪むだけで、こんなにも見える世界が変わってしまうんだ、身体ってすごいな、ものすごく精密に,緻密に出来ているんだな、と実感しました。

それもあったのか、この有名ながん専門病院から来ているドクター(癌内腫瘍のトップ)は会うたびに、

「放射線やりましょう」

僕に放射線治療を勧めてきました。

「やったほうがいいですかね」

「ウチの病院だったらやりますね、このくらいだったら普通に」

「いや、でもいま分子標的薬を飲んでいるんですけど」

「でもね、それどのくらい効くか分からないでしょ。私もそういう人、今までいっぱい見てるから。

そういう人含めて普通はやるレベルですよ、放射線」

「白内障になるけど、失明するよりいいでしょ」

「でも先生、僕は50個の癌細胞からALKが50個全部見つかったんです。だから結構効くはずなんですけど」

「ほう、適合率100%だったんだ。すごいね。

じゃあもうしばらく様子を見てみましょうか。

少しでも腫瘍が大きくなるようだったらやりますからね、放射線」

「はい、そうですね…」

そんなやりとりが数ヶ月続いたことを覚えています。

8月に入ってからのことでした。

朝、布団から起きると身体が異様に重い。まるで鉛のようでした。

なんだ、このダルさは?

まるで入院前、ガンが全身に転移していたときに感じたようなダルさでした。 

嫌な予感がしました。

早くも再発したのか? 

いや、そんなはずはない。

10日ほど前にCTを撮ったばっかりじゃないか。あのCTでは癌は消えていたんだ。そんなはことはあり得ない。

僕は、頭の中を駆け巡る不安な気持ちを必死で打ち消しました。

体力を使って疲れたのか? 

いや、どこにも行ってないし…

ネガティブな思考が右往左往しました。そして、数日たったあと、はた、と気づきました。

そうか、ステロイドを止めたからだ!

間違いない、今まで元気だったのはステロイドのおかげだったんだ。

うむむ…

この鉛のような身体の重さが本来の僕の体調だったということなのか。まだまだ全然回復してないんだ。

そうか、僕の身体は爆撃直後の市街地みたいなもので、

ガンという火は消えたけれど、街は廃墟になってボロボロなんだ。

まだまだ過信しちゃいけない。ボロボロの身体を受け入れなくてはいけないんだ。

妻の「絶対に無理しないのよ。まだまだ病人なんだから」という言葉を思い出しました。

そうだ、その通りだ。

そうです。いまなら分かります。

妻の言うことはいつも正しい(笑)。

ダルさを引きずるように起き上がり、洗面所で顔を洗うと、鏡に写った自分の顔が見えました。

そこにはだるそうな目をした、モヒカン頭の僕が写っていました。

僕の頭は放射線を受けた部分だけ髪の毛が生えてこないので、まるで北斗の拳やマッドマックスに出てくる、やられ役のザコキャラのようになっていたのです。

画像1

(変な髪型/笑)

自分の顔を見ました。

すごい髪型だな…

これじゃ、怪しすぎる…

そういえば、宅配便のお兄さんが僕が玄関から出るたびに、不審そうな、警戒するような変な顔をしていました。僕は頭を戸棚からバリカンを取り出し、短く刈り上げると、さらにひげそりでつるつるに仕上げました。

誰か来たときにかぶるため、玄関に帽子を置きました。

これからはこの体調と付き合いながらも、少しづつ回復を目指していこう。

一歩づつ、少しづつ、焦らずに。

僕はつるつる頭になったペチペチと叩きながら、自分の顔を見て、深呼吸をしました。

そうなんです。

身体の回復は、時間がかかります。

身体は物質ですから、変化するまで時間がかかるのです。

CT上でガンが消えてからも、肺の痛みや息苦しさ、関節や骨の痛みは年単位で続きました。

もしかすると、身体の細胞が痛みを記憶としてしばらく保持しているのかもしれません。

あるいは脳なのでしょうか、エネルギー的な記憶なのでしょうか、分かりません。

大切なことは、その痛みを感じるたびに

「ガンが再発したのではないだろうか」

と不安と恐れに支配されないことです。

はっきりというと、それは幻想です。 

ほとんどの場合、ただの痛みにすぎません。

その痛みに頭の中、思考を支配され、意識を集中しすぎると、ほんとうにその状態を創り出してしまう可能性があります。

僕たちはエネルギーの存在なのですからね。

意識したことを現実化するパワーを、誰でも持っているのです。

現実化するのであれば、自分にとって心地よい状況を現実化したいものです。

ですから、痛みを感じた時は、気にしないこと、

ヨシヨシとさすってあげて、

「ありがとうね」と声をかけて

バイバイすること、これが一番です。



★2021年12月新刊「さとりをひらいた犬/ほんとうの自分に出会う物語」

読んでいて、泣けてくる人が多いそうです。

僕も泣きながら書きました(笑)

3章まで無料公開しています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?