トンデモ陰謀論者の集まりって「答えを導かないから」居心地いいよねって話

昨年の年末にNetflixで「ビハインド・ザ・カーブ -地球平面説-」という映画を観てみた。

この映画、21世紀のご時世に地球が平面だと本気で信じている人達を取り扱ったドキュメンタリー映画だ。作中では地球が平面だと本気で信じている人達が次々出てくる。地球が平面だと思いこむことは個人の自由なわけだが、通行人に「地球は平面だと思うか?」「NASAは嘘つきだと思うか?」と詰問する様は普通に迷惑行為だし、スタバに押し入って尋問しようとする行為は誰が見ても暴力行為一歩手前で、“個人の自由”では片付けられない事態に陥っている。

そんな彼らが国際会議を開くのだから、もう世も末だし、その会議に10代の子どもを連れてくる親がいるのだから、映画を観ている側は「世界は大丈夫かな?」という不安感を押し付けられる。

さて、劇中に出てくる地球平面説支持者はすこぶる楽しそうだ。それはたぶん地球平面説そのものの魅力より、“集まり”に魅力があるからだろうと思われる。

作中に登場する地球平面説を支持するYouTuber達はネット配信をするのだが、配信中の話題の多くは「世の中には地球が丸いと信じてる奴が大勢いるんだよ」「そいつらはバカなだけよ」という単なる感想だけなのである。

その感想は国際会議でも披露される。「僕は昔○○だったんだけど、地球平面説に出会って、うんたらかんたら、今は幸せです」的なことを一人ひとり登壇して言うのだ。

さらに10代の若者から登壇者にある質問が投げかけられる。「天井のドームまでの高さは?」(地球平面説では地球はドームの中にあるらしい)この質問に有名YouTuberが「君はいくつ?」と聞き、「君のような若者がいて将来が楽しみだよ」的なことを言って、皆の前で若者を褒め称える。

この、褒め称えはするけど質問には答えないのがミソだ

映像なので回答部分をカットした可能性はあるが、なんにせよYouTuberがドームまでの高さをきちんと答えた可能性は低い。だってドームなんてないし、仮にあってもそこまでの高さを測ることはできないからだ。なぜなら世界を騙せたNASAがいっかいのYouTuberやただの10代に見破れるようなトリックを施しているわけがない

ただ国際会議に参加しているメンバーは答えなどわからなくて良いのだ。皆の前で褒め称えられたという優越感が得られればいいのだ。

劇中で支持者はこんなインタビューをされる。「地球の端っこまで歩いてみては?」その質問に支持者はこう答える。「実は今それを実現しようとしているんだ」と。

さっさとやればいいんじゃないの? 国際会議開けれるんだから、地球の端っこに位置する国の支持者が端まで行って真実をネット配信すれば良さそうなのに、誰もしない。なぜしないかというとどうやら地球の平面は限りなく続いているので到達するのが難しいらしい。うん、じゃあそれ平面を証明するの無理だよね。だけど、ここでも「地球の端っこまで歩くのを実現しようとしている」というビジョンに皆が大喜びする。

この地球平面説の集まりに似た雰囲気に、私は昔触れたことがある。それは「放射脳」と呼ばれる人達の集まりに参加したときだった。放射能や原子力に懐疑的なことは別にいい。福島原発事故が起きたのは事実。だが、福島原発事故を巡る一連の社会問題を論じるのにトンデモ理論を持ち出すのはダメだと思うのですよ。会議では、参加者が「実は福島原発事故のせいで今や日本全国が放射能汚染されている」と騒ぎ出したのだ。

自前でガイガーカウンターを購入した人達が福岡県で流通している野菜や肉、冷凍食品までも計測したという。「その計測結果がこれです」と数値を示され、私は驚いた。

数値はすべて基準値を下回っていた

ところが計測したその人達は「これでわかりました。政府は放射能が検出されないように隠蔽工作をしています。私達は今後も真実を追い求める必要があります」と言ってのけたのだ。私は唖然としていたが、会場の人達は大喜び。「真実を突き止めましょうね」と励ます人までいた。

数値が基準値以下なら安全なのではないか? 計測したけど「(個人的に)食べない」ならわかるが、それ自体が政府によって隠蔽されているというのはもはやトンデモ陰謀論だ。そんなことを許容したらなにも証明できなくなってしまう。その会議では真実を求めるための話はそれ以上行われず、どこで作られたかよくわからない缶詰の食品の販売が行われた。

陰謀論者の集まりはとにかく答えを導かない。学校の授業や仕事は何かしらの答えを導こうとするが、陰謀論者の集まりは自分の感想を言って大きなビジョンを掲げると他人から褒められるから居心地良さそうだよねって思う。だけど、ビジョンを掲げ続けないとそのコミュニティに居続けられないから、必ずどこかで疲弊してしまうだろうねと思うのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?