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◆疑似経済学のすすめ◆ まいに知・あらび基・おもいつ記(2022年12月29日)

普段、日本で過ごすときはサンマルクカフェやドトールのユーザーなのですが、昨日は何となくコメダを利用してみました。せっかくのコメダなので、モーニングを楽しもうと思っていましたが、テーブルに案内され、メニューを開き、さあ注文しようと思ったときふと時計を見ると「11時8分」でした。

残念ながらモーニングは11時まで。8分程度のオーバーなら何とかなるかもと一瞬思いましたが、そういう攻めは非常に苦手ですし、自分が逆の立場だったならば杓子定規に突っぱねるタイプにも関わらず、自分の場合だけ例外扱いにしたいと思うのは卑怯なので、別のメニューを選択しました。

しかし悪い流れは連鎖するものですね。メニューを見ていて、シンプルなパンを食べたくなった私は、「山食パン」を注文しようと考えたのですが、店員さんが来たとき山食パンと伝えると、「お持ち帰りですか?」と言われてしまいました。

どうやらこのメニューはテーブルでの提供ではなかったようです。こうしてコメダ慣れしていないことが露呈してしまった恥ずかしさの中、タマゴドッグとアイスコーヒーを注文したのでした。

残念ながらテーブル注文できなかった「山食パン」ですが、帰り際、レジ前に並べられていたものを見ていて不思議に思うことがありました。それは価格です。

5枚切りと3枚切りがあり、前者は350円、後者は370円でした。なぜ5分割した方に比べて3分割の方が高いのかが気になったのです。単純に考えて、5分割しようが3分割しようが、味に違いはないはずです(1枚1枚の触感はもちろん変わりますが、ちなみに私は薄切りタイプが好きです)。それにも関わらず3分割の方が20円高いのです。

この点について、イギリスの経済学者であるアダム・スミスなどが唱えた「労働価値説」に基づくと、この5枚切りと3枚切りの価格差は上手く説明できません。労働価値説では、商品を生産する過程で投下された労働力がその商品の価値を決定します。5枚切りにしても3枚切りにしても、切られる前のパンを生産する過程で投下される労働力には違いがないはずです。

しかしパンを切るという作業においては投下労働力に決定的な違いが生まれます。3枚切りが成立させるためには2回の裁断が必要になるのに対して、5枚切りは4回の裁断が必要になります。すると、5枚切りの方が裁断のための作業が多く、投下労働力も多くなります。労働価値説に忠実に従うならば、5枚切りの方が価格は高くなるはずです。

このように価格に関する理解のズレが生じる理由は、前提としている価値学説(価値論)が誤っているからと考えるべきでしょう。価値学説(価値論)には他にも、「生産費説」や「効用価値説」というものがあります。この2つは前者が労働価値説と同じ「客観価値説」のグループで、後者は「主観価値説」のグループに属しているため、真逆の考え方なのですが、両者の考え方をそれぞれ用いると、3枚切りの方が高い価格になる要因を説明できそうです。

まず前者の「生産費」の場合、投下労働力も生産費の一つではありますが、パンの材料費に注目してみます。いかに鋭利なナイフだとしても、パンを切る際、どうしてもパン本体から削られてしまう欠片が発生します。その欠片は切る作業が多ければ多いほど、増えてしまいます。すると消費者に提供するパンは、5枚切りの方がたくさん削れてしまっているので、欠片の価値が多く減っているパンということになります。その結果、5枚切りの方が多く減った欠片の分だけ、価格にマイナスが反映され、3枚切りよりも安くなると考えることはできそうです。

切る前のパンの価値「P(P>0)」に対して、1回の裁断で削られ発生する欠片の価値を「L(L>0)」とすると、5枚切りが提供する価値は「P-5L」で、3枚切りのそれは「P-3L」となります。ここから、「P-5L < P-3L」ということが分かります。このように5枚切りが20円安い要因を導くことができます。

次に後者の「効用価値説」の場合、消費者の需要量によって、商品の価格が決まるので、消費者の多くが求めている商品の価格は高くなり、求めていないものは相対的に低くなります。この説に基づいた価格差の立証のためには、消費者アンケートが必要になりますが、5枚切りの方が20円安いという事実から、多くの消費者は3枚切りの方を買いたい・食べたいと思っているのではないかという推測ができます。

こんな感じでいかにも経済学っぽい説明をしてきましたが、これは雰囲気だけ経済学なのであって、正確な理論的裏づけがあるわけではありません。つまり「疑似経済学」なのです。ただ、紹介している価値学説そのものは実際に存在するものです。

こうしてダラダラと「疑似経済学」を展開してきましたが、メニューを撮影した写真を見返してみて、価格差の要因はもっと単純であったことが判明しました。レジ前のものは価格しか表記されていませんでしたが、メニューでは5枚切りは「1枚あたり厚さ20㎜」、3枚切りは「1枚当たり35㎜」という情報も記されていました。

ここから5枚切りのパンのサイズは「20㎜×5=100㎜」で、3枚切りのそれは「35㎜×3=105㎜」なので、後者の方が5㎜だけ大きいことが分かり、単純に提供される商品のサイズの違いだったわけです。

とても不毛な時間を過ごしてしまったようです。

#哲学    #アダムスミス
#コメダ珈琲店    #山食パン
#経済学

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