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動物に好かれているかもしれない。もしかしたら幼子にも。

冒頭の写真は2004年に撮影したもの。親類と同級生が結婚し、生まれた幼子。私を含めた3人が高校の同級生でもあり、夫婦となったふたりは美男美女のカップルで、高校の同級生同士で結婚した唯一のカップルだと思う。

そう、動物と幼子。
私は30代半ばくらいまで赤ちゃんや幼子によく泣かれた。友人や知人の赤ちゃんを抱くと必ず泣かれ、私が近付くだけでも泣かれた。私もずっと子どもが苦手で、そんな空気を感じていたのだろう。こどもは無邪気でピュアで、そして残酷だ。そのネガティブな部分に幼い頃から触れてきたせいかもしれない。わたしはずっと幼いものから距離を取ってきた。

私は物心つく頃からずっと焦っていた。急いでいた。競争に晒されていた。私自身が望むところもあったが、環境が余計にそうさせたところもあっただろう。周りの友人の当たり前が私には難しく、人より急いで動く必要があった。高校くらいからは6時間以上寝ると罪悪感に苛まれ、心身を酷使しないと満足できなかった。そんな感じだからいつも余裕がなくフラフラしていて、毎日栄養ドリンクを飲んでいた。精神はササクレて常にイライラし、「待つ」ということが苦手だった。駅の切符売り場でまごついている老人の後ろで舌打ちをする、クズのような若者だった。そんな人間に幼子が心を開くわけがなく、私の方もいくら泣かれようが気にも留めなかった。

そんな感じで30代の半ばくらいまで生きてきたが、他人と競争する意識が薄れ、代わりに自分と競争する意識になってきた。撮影仕事を得るのは他のカメラマンとの競争になるが、それよりも自分の足下を掘り下げ、自分が作るべき作品に意識を集中させるようになった。 その理由を説明すると長くなるのでまたの機会に譲るが、そんな意識の変化が私を少しずつ変え、人を待つゆとりが生まれ、徐々に幼子に泣かれなくなっていった。動物も寄ってくるようになった。おそらくピュアな心の持ち主の方がそんな変化に敏感なのだろう。私自身が自分の変化に気付くよりも早く、心清らかな者たちはその行動で私に示唆を与える。まだまだ私はせっかちで、すぐにゆとりをなくすけど、今後さらに心と身体を開いてゆこうと思う。

昨日は前方を歩く散歩中の犬2匹が、目を爛々と輝かせながら私に寄って来た。目が合った瞬間、2匹の目が喜んでいるのがわかった。私はただ歩いているだけなのに不思議だ。週に何度か繰り返し走る坂道では、登った先で猫が私を見つめていることがある。坂道を何往復もする私を平然と見つめている。

十数年前にある家庭を訪れ、その家族と飼い犬を撮影したことがある。初対面の人間には必ず吠え、威嚇の態度を取るというその犬は、何故か私にはとても寛容だった。私がカメラを構えると家族の足下に自然な所作で腰を降ろした。その後、父親と私がポジションを変わり、今度は私の足下にその犬が座り、撮影してもらった。犬は毅然とカメラを見据え、優しく気高い雰囲気を纏っていた。私が滞在する間、彼は一度も吠えなかった。そして間もなく彼は亡くなった。

これらの動物たちの態度は偶然かもしれない。たまたまなのかもしれない。明日遭遇する幼子には泣かれるかもしれない。犬に吠えられるかもしれない。もしそうだったら単なる私の勘違いである。

冒頭の写真の幼子には泣かれたのもしれない。20年前だから、すでに彼女は成人し、素敵な大人になっているだろう。大学生活を満喫しているだろう。

カメラを構えると被写体にすぐに見透かされるように、動物や幼子は我欲や邪な気持ちを瞬時に察知するのだろう。きっとそれは防衛本能だ。相手を危険な存在だと認識し、泣いて知らせ、吠え、逃げる。私個人として実感するのは、人は歳を取り、紆余曲折色々経験し、辛酸を舐め、人に救われてを繰り返していくと、徐々に身の丈を知り、邪な欲は影を潜め、足るを知るようになる。穏やかになっていく。もちろん人にもよるし、許してはいけないことにまで寛容になる必要はないだろう。

そうそう、30代半ばで私の意識が変わってきたのは、この行き過ぎた資本主義の世界でどう生きていくかを自分なりに考えたことが少なからず影響している。どう折り合いを付けていくのか。どういう仕事(写真の)をしていくのか。自分なりに考え、少しずつ自分なりの解を得て、少しずつ軌道を変え、進んできた。結論はいまだ出ていないが、自分なりの折り合いの付け方が少し解ってきた。身の丈を知り、足るを知る。それだけだ。哲学者の斎藤幸平さんが試行錯誤、悪戦苦闘しているように、その問の正解を実践するのは難しい。私も正しいとされる方向に向かっているのか正直わからない。日々考え、修正だ。一生向き合う命題だろう。

明日はどんな犬に会えるだろうか。私は以前よりもゆったりとしたシルエットの衣服を身に纏い、心も身体も開こうとしている。






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