見出し画像

誠(まこと)のある店主

誠(まこと)のある人には、とても惹かれる。
例えば、最近知り合っった人でいえば、近所で定食屋を営む店主だ。

長身痩躯で寡黙な男性。いつも帽子を被っている。
8席ほどの店をひとりで切り盛りし、店の外観や設えはお洒落ではなく、ダサくもない。店主の丈に合っていて、清々しい。
北海道の出身らしく、40代前半だと私はみている。

ひとりでやっている店ゆえ、店が混めば30分以上待つこともあれば、テイクアウトも1時間以上かかることもある。客は本を読んだりスマホを観たりと、それぞれのスタイルで料理を待つ。店主は黙々と、誠実に確実に、料理を仕上げていく。

私は店主の人としての様(ざま)、佇まいに”惚れて”いるので、彼の所作や表情を観ているのは楽しいし、何より学びになる。

まだ数回しか利用していないが、どの料理も美味しく、お味噌汁の具や小鉢のひとつひとつにも店主の矜持が感じられ、同時に客と料理に対する愛情を強く感じる。

少し前に私が住む集合住宅前で、倒れていた老人を介助する男性に出くわした。私も加わり、自宅の場所さえ言えない老人をどうしたものかと二人で思案した。

後で解ったことだが、その男性は定食屋の店主だった。
買い出しの帰りに倒れた老人に気付き、荷物を店先に置いたまま介助していたのだ。加わった私が所用の途中であることを知ると、あとは自分に任せるよう彼は私に言い、私は心残りのまま介助を中座した。

数時間後、定食屋には開店が遅れる旨の張り紙があり、仕込みに注力する店主の後ろ姿があった。

後日店に行き、老人のその後を訊いた。
家族の元に無事届けたそうだ。そして中座したことを彼に詫びた。

それから数度、店に行った。
昨日、カレーライスのテイクアウトを電話で依頼し、受け取りに行った。
その際に「船寄さんですね」と、初めて、そしてようやく店主に認識してもらえた。

次回店に行った際には自分は何者か、少しは話せるだろうか。
今後も彼の姿から多くを学びたいと思っている。
私も「誠」のある人間に少しでもなれるように。

そして近々、彼の名前を訊いてみたいと思う。










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?