脳内マンション
秋、
麻布辺りの川沿いを歩きながら、ふと上を見上げると、
できたばかりの新築高層マンション。
建てていたのは知っていたけれど、
もう完成したのかな?
かなりの大きいので、
ちょっとだけ夜空を占有している。
月が見えないよぉ、
夜空はみんなのモノなんですけどぉ〜。
そのマンションをよ〜く見ると、
明かりの灯る部屋はごく僅か、
ほとんどが、まだ未入居の状態。
※
「どうしてェ?」と、
頭の中の子供が囁く。
「出来たばかりで、これから順次、入居するのさ」と、
頭の中の大人が諭す。
わたしの頭の中にも、
「脳内マンション」が建っていて、
住人もいれば、入居者審査もある。
審査をパスしなければ、
脳内マンションに住む事はできない。
例えば、
子供のような疑問は、即、却下され、
大人のもっともらしい説明が、審査をパスして入居。
でも、次第に同じような考えを持つ住人たちで、
脳内マンションの部屋は埋まって行く。
しばらくマンション管理組合は安定するけれど、
次第に少数の改革派を、
安定多数の住民が反対運動で潰すようになる。
高層階の住人によるマウントと言えるかも知れない。
すると改革は遅れ、
マンションは次第に老朽化してゆく。
低層階の住民たちは、
多数決による改革を断念して、
しばらく野宿になる覚悟で、
新しい引越し先を探す旅に出る。
自分の居場所を探す
「居場所難民」だ。
※
その日はマンションが、
月を隠していたからかもしれない。
妄想が始まる…。
あの川沿いのマンションは、
・noteを毎日3年間も書き続けられて、
かつ
・IQ135以上で、無条件に多様性を受け入れ、
かつ
・UFOを見たことがあって、寝室にトカゲを飼っている、
どこかの国の総理大臣や都知事みたいに、
決して傍観ではなく、共感の塊のような人だけが、
住むことが許されるマンションなのでは?
でもそんな人たちは、
そう沢山はいなさそうだから、
部屋の灯りが、少ししかないのだろう。
そうか、
あの月を隠すマンションには、
きっとロボットが住んでいるに違いない!
しかも、マンションの各部屋は、
実は丸ごとエレベーター構造になっていて、
コンピュータ制御の駐車場みたいに、
縦横無尽に移動できるんだ。
もし、ゴミを出す日を間違えたりすると、
自動的に部屋ごと下の階へ移動させられ、
庶民から羨まれる上層部での表示回数が減るんだ。
リビングルームはフルスクリーンで、
毎日ステキな映像をバックに、
今日の成績、
歩数と、スタンド、エクササイズ、の時間、
さらに、
微笑んだ時間、愛情を示した言葉の数、
が表示され、
管理人が「いいね!」と褒めてくれるんだ。
そして、ときどきポップアップで、
「あなたにオススメの隣人」が表示され、
💗マークをポチると、
移動装置が作動して、
ルービックキューブみたいに、
翌朝、お隣を入れ替えることができる仕掛けの、
スーパー・ハピネス・ラグジュアリーマンションに違いない‼️
※
ところで、
僕はどこへ住めばいいんだろう?
今夜の月は隠れていて、応えてくれない。
川沿いの停留所でバスに乗り込むと、
車内に乗客はまばらだけれど、
みんなスマホの画面に見入っている。
マンション情報でも見ているのかも知れない…。
僕は、同乗者を横目に、
バスの窓から見える、
この街の様々なマンションを眺めていた。
しばらくすると、
アナウンスが車内に流れる。
「次は、自由難民広場、このバスの終点です。
お忘れ物のないように…。」
自由、難民、広場、に忘れ物?
忘れ物…、
そうか、
僕は、住みたいところへ住めばいいんだ、
何も、街中のマンションに頭を下げて、
住ませていただく必要なんてないんだ!
この世界で住みたい所に住めばいいんだ!
でもそれは、
僕の脳内マンションしか、
ないかも知れないけれど…。
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