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私っぽい何か


週の真ん中っぽい、水曜の朝。

目覚ましがわりにコーヒーでも飲もうかと、
グリコは、
キッチンのエスプレッソマシンの前に立った。


「ヨネツチュウ シバラクオマチ クダサイ」

エスプレッソマシンに言われたので、
グリコは待っている。

彼が心の準備をしているのを、
待っている。

「そうだよねぇ、すぐには出せないよねぇ」


すると、
マンションのインターホンが鳴ったので、
グリコはすぐに出た。


心の準備はできていなかったけれど、
すぐに出ないと、
「不在」として、扱われるから。
私はいないことになるから。

「私はここに存在しているんだけどなぁ〜」
と思いながらも、
その真意を的確に訴える相手が掴めない。

渋々、すぐに出た。

「佐川急便です、順番に配達しま〜す」

そうだよねぇ〜、順番だよねぇ。
他にも届ける人がいるんだから、
ここはマンションなんだから。

はい、待ちましょう。

グリコは、
机のラップトップを開き、
Noteを書きながら、
荷物を待つことにした。

いや、実は書いてはいない。

書いてるフリをしながら、待つことにしただけ。
言葉が自分をよぎるのを待っている。

私だって、
「ヨネツチュウ シバラク オマチクダサイ」と、

キーボード上で私を急かす、
すでに書く体勢に入っている、
10本の指たちに伝えたい。

私は、何を待っているの?

荷物だよね。

いや、
エスプレッソマシンの心の準備かなぁ、

・・・でもなくて、

言葉が頭をよぎるのを待っている。

じゃあ、
私って何?


両手は、私の一部だけれど、
「充分に私」
でもないき気がする。

じゃあ、私って・・・、
頭?


何かが頭をよぎらないと、
外部からのインプットが無いと、
この頭は、動かない。

本当は、
自分からは動いてなんかいないのよね。


エスプレッソマシンに待たされて、
インターホンに呼び出され、
宅急便に順番を決められて、

両手からは
「早く何か書け」と促されている、何か。


はい、それが私、
グリコです。

「私っぽい何か」です。


グリコは、
私っぽい器(カラダ)を使って、
宅急便の荷物を受け取り、

私っぽい器(カラダ)に
エスプレッソを注いだ。

そして、机に戻って、
空中から何かをキャッチして、

私っぽい器(カラダ)の中で、
それを、
私っぽい言葉に変換しようと、


「ヨネツチュウ シバラクオマチ クダサイ」


している。




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