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それは「霧」よ

子供たちが〜 空を見上げ〜 ♪
っていう歌あったよねぇ〜。

白い塗り壁の3Fテラスから、
狭い通りの向かいにある1Fの花屋、
今日の空と同じ色の青いテントに向けて、

届かないと知りながら、
植物用の霧吹きを撒くケメコ。

夏。


両手を広げて、天井に向かって撒いた霧を、
自分でも浴びている。

「涼しくなぁ〜れ!」

グリコはキッチンでコーヒーを淹れながら、
ケメコの、
特に輪郭のない話を、
聞いているような、
聞いていないような、
でも、
リズムは合っている。


「あ〜ん、あったね〜。
ポルトガルのファドっぽい感じの歌。

コーヒー入ったよ〜、どこで飲む?
室内?それともテラス?」

「じゃあ、その中間で〜」
とケメコ。

でもさぁ〜、
どこまでが室内なんだろうね?
テラスって、室外だけど、
外とも違うよね?

霧と同じよ。
霧って、撒いても、
空中のどこかで消えるじゃない?

全ては、霧よ。
この世は全て幻かもよぉ〜。

「だよね〜」と、
コーヒーカップを、
室内からテラスにいるケメコへ、差し出すグリコ。

室内のスピーカーからは、
「ボーラーレ〜 」と言うイタリア語が、
 テラスやその外へと、霧のようにもれ出している。

※「ボラーレ(Volare)」
 「飛ぶ」「飛行する」「飛ばされる」「舞う」
 ボールなどを投げる、カードをひらひらさせる
 

グリコが差し出したコーヒーカップを、
テラスで受け取りながら、
「どこまでがコーヒーなんだろうね?」とケメコ。

豆から液体になって、
カップの輪郭を借りて、アンタのところまで移動して、
「うん、これはコーヒーだ!」と、
2人が決めた時、
それはコーヒーになるのよ。

じゃあ、その間は?

う〜ん・・・、霧よ。

2人は笑い声をあげながら、
乾いたクッキーをつまみ、
コーヒーを飲む。

室内に外の乾いた風が入ってくる。
おやつ時。

おやつってさぁ、
「八つ時」って事なんだってぇ。

「ほぉ?」
クッキーの小さな粉が口元で舞い、
風に乗って空中へ消えて行く。

ざっくり2時ごろよ。

今みたいに、
時計がなかった江戸時代の名残りみたい。


霧のような会話が、
生まれ、そして、空中に消えてゆく、
同化してゆく。

ケメコとグリコとコーヒーとテラス、
会話以前の音とニュアンスのやり取り、
リズム、音楽、風、太陽。


ウチの猫がさぁ〜、
ときどき空中を見つめて、
何かを目で追いかけている事がよくあるの、
でも、私からは何も見えないの・・・、


ふたりの
「人からがどう思われているか?」を
気にしていないやり取りは、どこまでも続く。

2人の会話も地球もグルグル回っている。
世界は粒子がグルグル回っていて、
この世に切れ目はない。

言葉がいっとき、
粒子に輪郭のようなものを与えているだけ。

霧よ。

この世は全て、幻かもよぉ〜。










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