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🇲🇲ミャンマー夜の街 @ヤンゴン2016 #3

ーー時間を少し戻そう。
30分ほど前、私はコーラを啜りながら「冷やかし」に店のソファに踏ん反り返っていた。

8人掛けくらいの円状に並ぶソファがちりばめられ、中央には猫の額ほどのダンスステージがある。
古臭いテクノに合わせて中年の中国人達がロボットダンスを披露している。

明るいダンスステージに目をやると、今度は手元のソファ付近が何も見えなくなる。
そこへ「擦れてしまった」ミャンマー女性達がスマホのライトで、自分の顔を照らしながら
「ホテル、イッショ イク?」と声をかけて私の隣に座っては消えていった。


そんなことを20人はやり過ごした頃、1人の小柄な女が現れた。
化粧をしてもその幼さは隠せない顔立ち。
だが豊満な胸がアピールポイントなのだろうか、胸元が大きくはだけている。

「オニイサン、ワタシ イッショ、ホテル」

彼女達の動きを見ていると気づくことがある。
積極的に売ってくる子はどうやら「新入り」のようだった。
この「新入り」には必ず世話人のお姉さん、つまり先輩が付いていて、
「この子はオススメよ。まだ慣れてないけど、よくしてくれるよ。」と広報係になるのだ。

私は、この小柄な子の世話人のほうが気になってしまった。
広報を全くしないのだ。
新人の後ろで終始口角を上げて微笑んでいるだけだったが、その佇まいは落ち着いていた。


「僕は、後ろの子と話したい」と告げると小柄な子は泣きそうな顔になったが、引き下がらなかった。
「ワタシ、ワカイ、カラダ、スゴイ、トッテモ、スゴイ」

「いや、後ろの子がいいんだ」私は無遠慮に指を指した。
すると指を指された世話人は自分の顔を指差し「私?」という動作をして笑い転げた。
小柄な子は頬を膨らませて拗ねている。

暗がりから出てきてソファに腰掛けた世話人はどう贔屓目に見ても他の子と容姿レベルが違った。
そしてその落ち着きは"取ろうと思えばいつでも客を取れるのよ"という自負に思えた。

私はコーラを啜り始めた。
隣の世話人はただ微笑みながら座っている。
普通の子はこの段階で"買ってくれる客"かどうかこちらを品定めするが、彼女は微笑むだけだった。
そしてその横顔はぞっとするほど妖艶だった。間が持たず私は尋ねた。

「名前は?」

「Myat。 ミャットよ。 」

ーータケシ

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