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イート・ア・ピーチ/オールマン・ブラザーズ・バンド (‘72)のミステイク

Eat a Peach / The Allman Brothers Band (‘72)
言わずと知れた名盤中の名盤、オールマン・ブラザーズ・バンドのイート・ア・ピーチ (‘72)のアルバムだが、ずっと気になっている点があり、今回はそれを検証してみようと思う。

本作は’71年10月に他界したデュアン・オールマンの最後のアルバムであり、彼が他界してからの音源や、ドノヴァンの「霧のマウンテン」をモチーフした長尺曲「マウンテン・ジャム」がアナログ盤(2枚組)ではB面、D面に分割されて収録されているなど、一見すれば雑多な印象もあるが、それぞれの演奏は素晴らしく、初期オールマンズの集大成とも言えるアルバムである。

以前、見開きジャケットの「桃源郷」のイラストについて記事にさせていただいたが、今回はC面の1曲目、「ワン・ウェイ・アウト〜One Way Out」についてお話をさせていただこう。

「ワン・ウェイ・アウト」はサニー・ボーイ・ウィリアムスンⅡやエルモア・ジェイムスらによってレコーディングされているが、初期オールマンズの特徴の一つとして、ブルースの解体と再構築を一つの目標にしていたとされるように、この曲も彼らの解釈による独自の曲として成立している。

さて、その気になっている点とは、曲がスタートしてグレッグ・オールマンの歌が2クール、1:57付近からディッキー・ベッツのギターソロ、2:52付近からツインドラムの掛け合いが始まる。そして3:00あたりからディッキーとデュアンによるギターのコール&レスポンスになるが、3:18時点/2回目のデュアンのターンで、ベースのベリー・オークリーが1拍早くフィルインしてしまっている。

これを確認する方法として、リズムのバスドラ(1拍目)とスネア(3拍目)を右手と左手でカウントすれば、該当箇所で両手のカウントが逆転してしまう。これにより、ベリーが早くフィルインしてしまっているのがわかる。

ところが、ジェイモーとブッチ・トラックスの2人のドラマーが、逆転してしまったリズムを本来のリズムに戻すのが3:21時点である。わずか3秒、スネアを1つ余分に叩くだけで修正している。しかし、この時点ではデュアンのソロのフレーズとリズムに妙なズレを感じる。それが3:19の時点でデュアンのフレーズとリズムの乖離が解消され、3:22ではベースと2人のドラムが繰り出すリズムとのユニゾンのテーマリフでソロを終える。

そして3:36時点でデュアンのスライドギターの最後のトーンが切れる瞬間の静音状態にオールマンズの「緩急自在」のダイナミクスがある。

YouTubeのオールマンズのオフィシャル音源をどうぞ。時間は1秒程度のズレがあることをご了承いただきたい。

同曲を近い日の演奏で再確認すると、「イート・ア・ピーチ」のバージョンにあった妙な「ギクシャク感」はない。’71年8月26日、ニューヨークのA&Rスタジオでの音源をサンプルにしたが、3:08付近でギターの掛け合いの後、ベースのフィルインになるが、問題なくドラムのリズムとマッチしている。

この問題は、もう20年以上も気になっていたが、2人のドラマーが逆転したリズムを如何にして瞬時に解消させたかが疑問であった。これは推測であるが、2人のドラマーの役割分担が功を奏したのではないかと考える。主にブッチがメインのリズムキープをし、ジェイモーが装飾的なフレーズでオールマンズ独特の「うねり感」を出している。故に、リズムキープする側のブッチがリズムを戻せば、ジェイモーはそれに追随する形でリズムに乗ってくるという状態ではないだろうか。もちろん、それをステージ上で瞬時におこなえるスキルやテクニックはもちろんであるが、常に周りの状況を認識できているのが驚きである。

オールマンズ(特に初期)の演奏は、深く聴けば聴くほど惹かれていく。ファーストアルバムの1曲目、「もう欲しくない〜Don’t Want You No More」然り、ラッドロー・ガレージの「ディンプルズ〜Dimples」然り、ブルースというモチーフが、いつしか彼らのオリジナル曲になっているのを実感できる。キャリアの長いバンドであるが、バンドが持つ「マジック」をここまで最大限に引き出したのはデュアン・オールマンであろう。

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