「日本人のための憲法原論」小室直樹著
天才学者の憲法学講義
久しぶりに読み返してみた。読書は著者との対話というが、小室先生の講義に再び参加した気持ちになった。このような体験ができるから読書は楽しい。
本のタイトルが堅いが、旧題の「痛快!憲法学」の方が内容にふさわしい。「憲法を語るとは、すなわち人類の歴史を語ることに他なりません」と著者が述べる通り、憲法論というよりも西洋史、近代日本史の講義である。
憲法の成り立ちと民主主義は関係ないと著者は言う。国家は王政の時代から人民にとって暴力的で恐ろしい存在であった。すなわち、徴税権で財産を奪い、徴兵権で命をも奪う。ウクライナ侵攻でのロシア人徴兵のニュースを見ているとこの言葉が実感できる。生きている憲法は国家権力の暴走を食い止める「最後の鎖」なのだ。
今では当たり前の民主主義や人権という概念も近代までは人類にとって馴染みのない、むしろ受け入れがたいものだった。十六世紀にジャン・カルヴァンが提唱したキリスト教の予定説が、民主主義そして近代資本主義を生み出す。その過程と仕組みをわかりやすく解説してくれる。
表層的な議論になりがちな憲法問題の見方が変わる。
「日本人のための憲法原論」小室直樹著 集英社インターナショナル
(この記事は以前に私が業界誌に投稿した推薦図書文です)
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