レモン座(ショートショート)
夜の爽やかな、ほんの少しカンキツの気配を帯びた空気。
ジョギングしながら、肺に流れ込んでくるそれを楽しむ。息をリズミカルに繰り返して、空を見上げる。
夜空の星。果物の果汁が滴るような色。
きらきらと輝くそれを眺めていると、四つのひし形に並んだ星が目に入った。
何となくそれがレモンの形にみえて、口の中がすっぱくなった。もちろん、"思い出しすっぱい"なのだけれど。
夜空の上で実るレモンは一体どんな味がするだろう。
その香りはきっと、今吸い込んでいる空気そのままだろう。空の上で熟れたレモンが爆発して、四方に広がる。流れ星のように地面へ降り注いで、ぱあっと花開く。
レモンが爆発、なんて、どこかで聞いたことがあるような話。
あのシンプルで分かりやすい黄色。レモンがレモンたり得る要因のひとつのような黄色。
それに夜空の複雑さが混ざり合って、果肉がほのかに水色がかっていたら素敵だ。
そんなレモンがあれば、レモンスカッシュでも作って飲んでみたい。
グラスや氷の中すら水色に染まっている景色が目に浮かぶ。
一口飲むときっと、喉を駆ける炭酸と、夜の冷気と、レモンの酸味がうまく混ざり合うだろう、と思った。
……走り終わったらレモンスカッシュが飲みたいなあ。
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