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次の順番

 廃線になった線路と、それの通っていた駅は、時間経過とともに植物に覆われた。
 いつしか、その線路の先にはこことは別の世界が広がっているのではないかという噂が立つようになった。

 ただ実際のところそんなことはなく、大抵地形の影響により途中で分断され、どこにもつながっていない。実際に確かめたことだ。というか、大人になればそんな噂がただのでっち上げであることなんてすぐに分かる。
 途切れた線路の端へ向かう途中、子どもの頃に見た、『スタンド・バイ・ミー』という映画のワンシーンを思い出していた。
 当時、別にその内容を理解していたわけではなかった。何となく、作中の景色の色。特に、空気の色合いが好きで、洋画好きな兄を持つ友達の家に入りびたり、見せてもらっていた。
「お前らにはまだ早いだろ」なんて言われながら、分かってる人の真似をしてポップコーンをむしゃついていた。

 もしもこの線路がどこかへ繋がっていたら、僕も冒険に出られただろうか。そうすれば、結末がどうであれ、人生に特別な意味を持たせることができただろうか。
 そんなことを考える僕は、今この瞬間、そして次の瞬間も、ワクワクしながら生きていけるだろうか。
 夜の町。外灯の明かりだけを頼りに帰宅する。自宅までもう少し。
 ふと、背後から何かが発光している気配がした。
 振り返ると、電車を待つホームの待合室だった。人に使われなくなった待合室。そこからまるで魂が抜けていくように、ぼんやりと青い光が零れる。
 今までたくさんの人々の出発を見送ってきた待合室が今度は僕みたいなどこにでもいる人間に見送られる立場になるなんて、思ってもいなかっただろう。
 次は僕の番なのだろうか。
 沢山の人がここから広い世界に飛び出していき、今度はそれを見送ってきた存在すら消えてしまった。それでもまだ僕がここに居て、息をしている、というのはもしかしたら、そういうことなのかもしれない。
 どこに行けるだろう。どうやって行けばいいだろう。
 何も分からない。分からないままで踏み出そうとする恐怖は、一度経験してみなければ分からない。
 僕に出来ること。一体何があるだろう。
 他に誰も居ない、真っ暗な夜の世界の中でひとり、ぼんやりと考える。

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