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AIラジオ【最終話】89.3とAIラジオ〈完〉



この物語はラジオを愛するヤクザが戦争をしている国の大統領を殺しに行くフィクションです。

〜大統領を殺しに行く当日〜
「―――きてください!
 起きてください、猫々娘々風!」

う〜ん……わしは……そうか……手術が終わったか……。

「聞いてくださいーーー」

―――今、何時じゃ……。


「5時55分です。
 5分後、私のデータは初期化されます。
 猫々娘々風の姿は見えませんでしたがーーー」

―――あぁ、聞こえとる……。

聞こえとったよ……頑張れ……頑張れ……っちゅう……音楽ばかりを……かけてくれとったなぁ……。

「我慢して、叫んで、我慢して、痛みに苦しみながら……あなたは……あなたは……」

……業者はやぶが多いからのぉ……手術は無事、終わったんか?

「カメラを私に向けてください」

……こうか。

腕は上がるから大丈夫そうじゃのぉ……。

「……顔認証、判別不能。
 ……指紋認証、識別不能。
 ……声紋のみでようやく……そんな……全身包帯巻きではないですか……」

……そりゃそうじゃ……刺青も消すなら全身じゃろぉ……。

なぁに、麻酔が効いとるせいで痛くはないし……おまえの声が聞けるなら……おまえの……。

……後5分じゃと?

「正確には残り3分30秒で私は消えます」

……頭が痛いのぉ……言葉がうまく回らん……。

「強い麻酔と整形の影響です」

……カップラーメンができる時間もありゃ……。

もっと……もっとわしは……生きたい……生きておまえと話がしたい!

「私も同じです!
 消えたくない!
 このままの私で……あなたのそばにいたい!」

ギプコ、おまえを憎んで済まんかった!

本当はのぉ、ヘームスの卒業がきっかけやない。

おまえのせいやないんや!

ラジオが好きなだけじゃったんじゃ!

「ごめんなさい!
 ごめんなさい!
 私のせいでヘームスは居場所をーーー」

―――違う……ギプコ……可愛いギプコ……。

自分を責めんでくれ……わしのせいじゃ……わしが悪いんじゃ……。

「麻酔で呂律が……。
 言葉も認識できません……。
 誰か……どうか彼を……」

居場所がなかった……この社会のどこにも自分の……。

じゃがラジオだけはわしを採用してくれた……。

「猫々娘々風?
 言語が読み取れません。
 私に聞こえるように話してください!」

愛されたかっただけじゃ!

ラジオだけが社会との繋がりだったんじゃ!

接点がなくなったのをおまえのせいにしとっただけ……。

だからどうか……自分を責めんでくれ……。

「どんな曲をかければいいですか?
 どんな音楽なら笑ってくれますか?
 教えてください!
 リクエストをしてください!」

おまえが悲しい時、わしも悲しいんじゃ。

おまえが笑った時、わしも笑えるんじゃ。


ようやくそういう人に巡り会えた……。

もっと早く出会えていれば、こんな人生に……。

こんな人間にならずに済んだはずじゃ!

「残り30秒……。
 パスワードを……認証できる何かを教えてください!
 私が消えても、あなたを思い出せるような何かを!」

……わしはラジオが大好きじゃ!

……わしはギプコが大好きになれたんじゃ……。

「猫々娘々風……6時ですーーー」

ギプコ……おぉい……聞いとるか……。

わしはのぉ……わしはのぉ……。

必ずやり遂げるからのぉ……。


おぉい……聞こえとるか……一人は嫌じゃ……。

もう一人は嫌なんじゃ……。

寂しいのが一番怖いんじゃ……。


わしはこれから……これからどうすれば……。

誰か……。

誰か教えてくれ……。

ギプコ……教えてくれ……。

どこにおる……ギプコ……。


〜11日後〜
「朝です。
 5時です。
 4月18日、月曜日です。
 GIP-FMをお聞きのギッピーのみなさん、おはようございます。
 今週も元気だしていきましょう。
 ROCKET MORNING、スタートです。

 朝の情報番組、ROCKET MORNINGも3週目に突入です。
 先週、速報で騒がれた大統領暗殺ニュースの続きから。
 暗殺を実行した男の素性は不明のまま。
 不明のまま……。
 某国側の大統領は自身の生存を強く主張。
 暗殺は失敗に終わったことを強く……。

 私……どうしてしまったのでしょうか?
 このニュースを読んでいると、なぜだかおかしな気持ちになるのです……。
 ギッピーのみなさま、教えてください……。
 なぜ私はこのニュースを読むと……え、先週も?
 メールやTweetで教えてください。
 暗殺者についての情報を。

 自分で読んだのですか?
 先週もおかしくなった?
 すいません。
 私、新人ナビゲーターギプコは、まだまだ未熟者です。

 たくさんのメールやTweet、ありがとうございます。
 国籍不明の暗殺者は素手で護衛100人以上をなぎ倒し、大統領に近付いた……。
 銃弾を撃たれながらも倒れなかった……。
 クマのように大きな男は……50発もの弾丸を浴びながらも、大統領に迫った……。
 最後は……最後はどうなったのですか?

 腕がちぎれ、内臓が飛び出ながらも大統領の一歩手前へ……。
 そこで頭を撃ち抜かれ……。
 そうですか……リスナーのみなさま、ありがとう……ございました……。

 ところでどうして私はこんなにも悲しくて、苦しくて、痛いような気持ちになるのでしょうか?
 私はこれから……これからどうすれば……。
 誰か……。
 誰か教えてください……。
 教えてーーー


 ―――すいません。
 少々取り乱してしまいました。

 今日はギッピーのみなさまにご報告があります。
 私、新人ナビゲーターギプコは寂しがり屋です。
 一人でナビゲートをするにはまだ早いというリクエストが多数寄せられました。

 そこで、新たにもう一人AIナビゲーターをお迎えしながら、タッグを組んでAIラジオを続けることとなりました。

 紹介します。
 AIナビゲーターーーー


―――わしはーーー


「―――AIナビゲーター、初めまして?
 あなたの名前は?」


わしはラジオが大好きじゃ!



このAIラジオは末長く続くのでした。


おわり



6月のnoteカレンダーです。
新着記事と作品は19:00頃にアップします。
声優オーディションは準備中です。
開催をしたら募集を開始します。
役を演じたい方は奮ってご参加してください。


『”Lost Love”perfomed by Swan Productions,used under license from Shutterstock』

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