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『東京ノ頽廃地区』巻頭言

自然は貴族主義的であり、封建制やカースト制以上に貴族主義的なのだ。〔……〕自分より上位にあるなにものにも我慢のならぬ下層無頼の徒が他のあらゆる貴族社会を顚覆するのに成功したとしても、この自然の貴族制には手をつけることができぬはずだ。

──アルトゥール・ショーペンハウアー「大学の哲学について」

1396万の人口(2021年推計)を擁する東京都。

日本の事実上の首都として機能しているこの都市には、諸外国に見られるようなスラム街こそないものの、下層民が集住する地域というのは儼然として存在する。その界隈をつぶさに観察してみると、細民をして細民たらしめる要素が浮かび上がってくるものだ。この『東京ノ頽廃地区』は、そうした下層社会の実情を白日の下に晒すべく、東京各地にある貧民街や娼窟、犯罪多発地帯といった荒廃地区を筆者が実際に見聞してまとめたものである。

貧困というテーマには、所謂「リベラル」のインテリ崩れたちが倦むことなく唱える、歯の浮くような言説がつきものである。彼らは言う──労働者階級は富裕層による搾取の犠牲者だ、政治家は生活保護受給者を穀潰し呼ばわりして目の敵にしている、自己責任論を押しつけるな、……云々。

細民街育ちの筆者から言わせれば、このようなお決まりの主張に対する答えは次のごとくである──下層民に属する者たちは、おしなべて人間としての品性に度しがたいほどの欠陥があり、彼らの暮らす環境はその品性に全く相応しいものである、と。好むと好まざるとにかかわらず、読者はここで公にされる記事を通じて、上の筆者の見解が決して偏狭な頑信ではなく、疑いようのない事実であることを見出だすであろう。

そして、慾望に生きる者と理性に生きる者との間に横たわる、越えがたい溝をも目の当たりにするに違いない。

2021年4月 東京
玉城武生

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