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言葉の覚え書き

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日本語の一貫したスタイル・ガイドとして、用字、用語や文章表現に関する情報をまとめています。「ココナラ」で、文章校正サービスも提供しています。詳細はこちらから https://co… もっと読む
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2019年12月の記事一覧

一年最後の日を「大晦日(おおみそか)」というのはなぜ?

30歳を「三十路(みそじ)」というように、「みそか(三十日)」とは元々旧暦で30日のことでした。ただ、月によって日数に増減があるので、30日に限らず月の最終日を「みそか」と呼ぶようになりました。 一方、「晦日(かいじつ)」の「晦」は月の満ち欠けを表す語で、月が全く見えなくなる頃を指す言葉です。これに「みそか」の訓が当てられて、月末の日としての「晦日(みそか)」という語法が定着しました。 12月31日は晦日の集大成なので、「大晦日(おおみそか)」というわけです。 ⁂ 言

雪辱を「晴らす」? 「果たす」?

「屈辱を晴らす」からの類推なのか、「雪辱を晴らす」という言い方を見かけますが、正しくは「雪辱を果たす」です。 なぜかというと、「雪辱」は「辱(はじ)を雪(すす)ぐ」と読み下すからです。「雪恥(せっち)」とも言います。この場合の「雪」は、寒い日に降る雪のことではなく、除き去る、特に恥をすすぐという意味の動詞です。恥をすすぐことを達成するから「雪辱を果たす」なのです。 ⁂ 言葉に関する質問募集中 用語や文章のマークアップについて、日常ふと思った疑問を是非お寄せください。い

敷居が高い

「庶民には敷居の高い高級店」のように、程度が高すぎるという意味で「敷居が高い」という言い方がありますが、本来は、 しきい【敷居】が高(たか)い 相手に面目のないことがあったりするために、その人の家に行きにくくなる。また、その人に会いにくい。 (『日本国語大辞典』精選版) という意味です。「合わせる顔がない」に近い表現といったところでしょうか。 世代による認識の差もまだありますので、高級すぎるという意味を示すときは、「ためらわれる」などの別の表現に言い換えた方がいいでし

家族揃って「里帰り」ですか?

昨日で仕事納め、今日から9連休という方も多いのではないでしょうか。皆さんはこの年末年始をどのように過ごす予定でしょうか。旅行に行くという方もいれば、ご自宅でゆっくり過ごすという方もいるでしょう。それとも、ご家族揃って「里帰り」でしょうか。 でも、「里帰り」の本来の意味は、一時的に故郷に帰ることではないのです。国語辞典を引いてみると、 さと-がえり【里帰】〔名〕 ① 他家にとついだ新婦が、はじめて実家に帰ること。婚礼に伴う儀式として、ふつう、婚礼の三日または五日後に行なわれ

読めますか?──「直截」

「截」が「載」と似ているからか、チョクサイと読むのをたまに耳にしますが、チョクセツが正解です。 簡潔ではっきりとしている、という意味です。 ⁂ 言葉に関する質問募集中 用語や文章のマークアップについて、日常ふと思った疑問を是非お寄せください。いただいたご質問は、マガジン『言葉の覚え書き』の中で回答いたします。 個人情報は一切収集していませんので、ご安心ください。皆さんからのご質問をお待ちしています。

来年の「えと」は何?

さて、クリスマスも終わり、仕事納めも近づいてきて、そろそろ年越しムードに移りつつ、「来年はいよいよオリンピックイヤーだ」といって浮かれている日本人の皆さん、来年の「えと」は何か、わかりますか。 「子年(ねどし、ねずみどし)」と答えたあなた、残念でした。無論、丑でも寅でもありません。 「えと」は一般に「干支」の読みとされていますが、これは正しい訓読みとはいえません。「干支(かんし)」は読んで字のごとく、十干十二支(じっかんじゅうにし)のことを指します。 十二支(じゅうにし

クリスマスをXmasと書くのはなぜ?

今日はクリスマス。 英語でChristmasと書くのはわかりますが、Xmasという表記もあります。なぜXという字があるのでしょうか。 実はこれもギリシャ語が関係しているのです。キリストはギリシャ語でΧριστός(クリストス)と書きます。ケーχは強い息を伴ったカ行の音で、ラテン文字に書き写すとchとなるのが、Christmasと綴る理由です。また、ケーχはラテン文字のエックスxに相当する文字でもあるので、Xmasという書き方が生まれたのです。 Xmasという表記自体は英

ギリシャ文字の読み方は古典式がおすすめ

「YouTube」で偶然見つけた広告です。アニメには疎いので、初見ではこのタイトルをどう読むのかわかりませんでした。 「Ψ難」はサイナンと読むらしいのですが、サイはあくまで英語風の発音であり、ギリシャ語の読み方ではありません。 ギリシャ文字の読み方は、古典ギリシャ語、現代ギリシャ語、日本語での慣用などの間で幾分差異があります。 以下、註記のないものは、プラトンの著作などに見られる、古典期のギリシャ(紀元前5―4世紀頃)で標準語となったアッティカ方言での読み方です。日本語

ゼノフォビア

外国人に対する差別が世界中で問題となっています。特に、ヨーロッパで擡頭しつつある難民・移民排斥などは「ゼノフォビア」と呼ばれます。 「ゼノフォビア(xenophobia)」とは、英語で外国人嫌悪、外国人恐怖症を意味します。ギリシャ語で「異人」を表すξένος(クセノス)と、「恐怖」を表すφόβος(ポボス)とを組み合わせた言葉です。 -phobiaは「……恐怖症」を意味する接尾辞となっていて、これを基に様々な派生語が生まれています。例えば、homophobiaは「同性愛嫌

責任をツイキュウする

「追求」「追究」「追及」とありますが、それぞれ意味が違いますので区別できるようにしておきましょう。 「追求」は文字通り「追い求める」こと。 利潤を追求する。 「追究」は、「究(きわ)める」という字が入っているように、わからないことをとことん掘り下げて考えることです。 真理を追究する。 タイトルの例では「追及」が正解。責任や欠点を徹底的に問いただすことです。「及」という字は、手が人の背中に触れる形を示したものです。 余罪を追及する。 ⁂ 言葉に関する質問募集中

ミソジニー

女性の権利意識の高まりに伴って、日本でもミソジニーという言葉が最近よく聞かれるようになりました。 「ミソジニー(misogyny)」とは、女嫌い、女性蔑視を表す英単語。ギリシャ語で「憎しみ」を表すμῖσος(ミーソス)と、「女」を表すγυνή(ギュネー)を組み合わせた言葉です。 反対に「女性愛好」はどう言うでしょうか。「好み」はギリシャ語でφίλος(ピロス)なので、「フィロジニー(philogyny)」となります。「知を愛する」を意味するphilosophy(哲学)のp

「……たり」の後ろはどこまで?

複数の動作を並べるときに、「……たり」を使うことがありますね。これは、次のように「……たり、……たり」と繰り返して使うのが基本です。 バスが止まるまで、座席から立ち上がったり、席を移動したりしないでください。 後半の「……たり」は別になくてもいいじゃないか、という声が聞こえてきそうですが、果たしてそうでしょうか。次の例文を考えてみてください。 歩いたり走ると転倒する人が増えるという理由から、立ち止まってエスカレーターを利用するよう呼びかけられている。 この文では、「…

「間違える」と「間違う」

これらは似たような意味なので、いざ使う段となると、どちらを使うべきかわからなくなってくることがあるのではないでしょうか。 まず、両者には微妙な意味の違いがあります。「間違える」は「ある2つのものについて『取り違える』こと」を、「間違う」は「ある『正しい状態』があるのにそのようになっていない」ことを表します(塩田雄大・NHK放送文化研究所主任研究員)。 文法の観点からもう少し掘り下げてみましょう。「間違える」はア行下一段活用の他動詞、「間違う」はワ行五段活用の自動詞です。

ケッキ部隊

「決起」は「同音の漢字による書きかえ」。本来の表記は「蹶起」。 「蹶」は足に力を入れて踏む、という意味です。 ⁂ 言葉に関する質問募集中 用語や文章のマークアップについて、日常ふと思った疑問を是非お寄せください。いただいたご質問は、マガジン『言葉の覚え書き』の中で回答いたします。 個人情報は一切収集していませんので、ご安心ください。皆さんからのご質問をお待ちしています。