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『王とサーカス』/米沢穂信 を読んだ話



私は、本をあまりたくさん読む方ではありません。でも、米澤穂信さんの本は好きなものが多くて、学生時代よく読んでいました。


『さよなら妖精』の続編が出版されたと聞いて、すごく読むのを楽しみにしていました。
文庫本が出るのを待ちきれないと思って、単行本を購入しましたが、なぜか机の本棚に置いたまま、今年で7年が経過しました。笑


よし、読もうと思って読み始めると、あまりに面白くて昨日今日で一気に読んでしまいました。


以下、感想です☺️(ネタバレを含みます。)


あらすじ
新聞社を退職し、フリーの記者として活動を始めた太刀洗万智は、月刊誌の取材のためにネパールへ渡る。旅行特集の記事を書く予定だったが、取材中にネパール王宮で王族殺害事件が起こり、彼女は記事の内容を事件の報道に切り替えて、取材を進めていく。精力的に情報を集める彼女だったが、取材の途中で変死体を見つける。この人は自分のせいで死んでしまったのだろうか?なぜ自分は取材をして記事を書くのか?事件との関わりの中で、自分の人生について見つめ直していく。



米澤穂信さんの本を読み終わると、驚きと納得から、いつも小さな震えを覚えます。結末へのヒントが至る所にあり、最後はそのヒントが鍵となって、事件が一気に解決していくような爽快感があります。


この本を読んで、私は戦争について報道で知ることや、戦争によって死んでしまった人の写真を見ることについて考えました。

感情を揺さぶってくるような写真を見る時、私は「なぜ知らなくてはいけないのか」「見てどうしたらいいのか」「どういう気持ちでカメラマンは写真を撮ったのか」とよく思います。

今朝もテレビで、避難のために、軍で働く父親と別れなければならなくなり、泣き叫んでいる6歳の子供の映像を見ました。
見ているだけで「やめてくれ!」と泣きたくなるようなセンセーショナルな映像でした。

そしてすぐに、この映像を撮ったカメラマンも泣いていたのだろうか、とか、これを見た自分にできることはなんだろうか、とか考えました。



情報を伝える媒体が発達して、嫌でも溢れんばかりの情報が入ってくる現代では、情報は集めるものではなく、選ぶものに変わったという記事を読んだことを思い出します。

報道する側だけでなく、溢れ出てくる情報から、いくつかを選び、受け取る私たちにも、何かを思い、考えなければならない責任があるような気がしています。

戦争や災害、疫病など悲しいニュースでは、最初こそ犠牲者について詳しく知らせ、私たちに悼む気持ちを起こさせますが、犠牲者が多くなってくるにつれて、単なる数字でしか報道されなくなります。
それは、ある意味当然で、仕方がないことなのかも知れません。報道できる情報の量や長さには限りがあり、より重要なことを短く伝える必要があるからです。

情報を受け取る側の私たちは、そういう報道を見て、次第にひどいニュースに「慣れて」いきます。最初こそ同情するものの、だんだんと関心が薄れ、忘れていきます。



王とサーカスは記者となった太刀洗万智の視点で描かれています。そのため、情報を伝える側の気持ちや誇り、「なぜ伝えるのか」ということを掘り下げて描写されています。また、主人公は、自分が伝えた情報で不幸になる人がいるかもしれない、というところまで考えています。そこで人生を見つめ直し、自分が記者である意味を探していくのです。



情報を受け取る側の私たちは、溢れる情報に触れるうちに、ひどいニュースでも受け流すことに慣れています。ニュースについて深く考えている人は多くないと思います。他国のことであれば、悲劇は娯楽のように消費するものになっているのかもしれません。

情報を伝える側と受け取る側では、まるで立場が違っていて、これによって、悲劇が娯楽になったり、報道が新たな悲劇を招くことにつながるという課題を常に抱えています。

王とサーカスにはそんな指摘が含まれているように感じられました。


作中の言葉で深く印象に残っている言葉があります。

我々は完成を求めている。詩であれ絵であれ教えであれ、人類の叡智を結集させた完成品を作り上げるために、それぞれが工夫し続け、智恵を絞り続けているのではないかと思うのです。


調べればなんでも知ることができる世の中で、なぜ考えるのか、なぜ考えたことを書くのか、その答えがここに詰まっていると思います。


情報を受け取る側の私は、情報を受け流さず、考えていたいと思います。本を読み、記事を読み、誰かの考えを知って、それから自分でも考えたいと思います。

自分の考えを持ち、完成させて、自分は何をするべきで、何をしないべきか、決めたいと思います。
そうやって、自分がこの時代に生きる意味を探してみたいと感じました。

珍しく真面目に書いてしまいましたが、王とサーカスは、ミステリでありながら、政治や社会構造の問題にも迫る作品です。


この本がより多くの人に読まれ、読み手が何かを感じ、考えるきっかけになることを望んでいます。


とっても面白い作品なので、まだの方はぜひ!


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