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たぶん人は、魔法を使える

映画「かもめ食堂」を久しぶりに観た。
2006年公開の映画だから、15年ぶりくらいだろうか。
母になりたての頃と今とでは物事に対する考え方も随分と変化していて、当時は「ふうん」くらいにしか思わなかったのだけど(多分子育てに忙しくて気持ちの余裕がなかった)、今回は家事をしながらの「ながら観」だったにもかかわらず、おお〜とか、フフフとか、思わず声に出してリアクションしてしまう場面も多く、とてもよかった。

小林聡美さんの凛とした温かさ、もたいまさこさんの気品、かたぎりはいりさんの愛らしさはもちろんなのだけれど、なんていうか、淡々と紡がれていく物語が妙に心地よく、日常ではありえない設定もたくさん出てくるのだけれど、許せてしまうというか…、あまりにも映画的で、楽しいのだ。

もたいまさこさん扮するマサコさんは、フィンランドに到着するもロストバゲージに見舞われる。毎日空港に問い合わせても荷物はなかなか出てこない。そんな中ヘルシンキ市内にある「かもめ食堂」を訪れるようになる。荷物もやることも見つからず、勧められるまま森へ散策へ出かけ、きのこをたくさん採ってくるのだが、帰る途中でいつのまにかなくなってしまったという。そして物語終盤でやっと見つかった荷物を開けてみると、その中にはなくしたきのこがぎゅうぎゅうに詰まっているのだ。
日常の中に非日常を挿し込んでくる展開、とても私好みなのである。

かたや、かたぎりはいりさん扮するミドリさんが、夫が失踪してしまいやけ酒で酔いつぶれてしまうフィンランド人を目の当たりにし、「いつものんびりリラックスして、それが私のフィンランド人のイメージでした。でもやっぱり、悲しい人は悲しいんですね。」と吐露する。日本から見ていると羨ましく思える海外の人たちの暮らしぶり。現実は万国共通で、主人公のサチエさんは「どこにいたって悲しい人は悲しいし、寂しいひとは寂しいんじゃないですか?」とこたえる。

リアルな感覚もきちんと入り、淡々と、さまざまな人の想いが断片的にが散りばめられていて、今の私にはそれがとても心地よい。

有名なシーンだが、劇中、コーヒーを美味しくする「コピ・ルアック」というおまじないの言葉が出てくる。ドリップに入れたコーヒーに人差し指を向け「コピ・ルアック」と唱えお湯を注ぐ。そのコーヒーを飲んだ人たちは口々に「おいしい〜」と言うシーンがある。

試しに朝、コーヒーを淹れる時、声に出して「コピ・ルアック」と言ってみた。いつもならスマホに熱中しコーヒーの味など無関心に見える息子が、一口飲むなりこう言った。

「おいしい〜。何?今日のコーヒーおいしい〜」

嘘みたいな本当の話。15年前の映画から、そしてフィンランドから届いた魔法の呪文だ。

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