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怪しき青い光のインド。

昼下がりのオフィス、外は相変わらずの猛暑だが、建物の中は冷房が効いていて快適だ。夏期休暇が終わり、いつもの仕事が始まったが、思ったよりもスムーズに過ごせている。今日は久々にランチを外でとろうと決め、エレベータに乗り込んだ。行き先は、ビルの地下にあるインドカレーの店だ。

エレベータが静かに地下へ降りていく。会社のビルの中にあるその店には、かつて頻繁に通っていたが、最近は少しご無沙汰だった。あのスパイスの香りが恋しくなってきたのだ。

ドアが開き、地下の廊下に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が心地よい。ランチタイムということもあり、少し賑やかな雰囲気が漂っている。廊下を進んで店のドアを押すと、まず目に入ったのは、以前と違う青い照明だった。

青い光が店内を包み込み、どこか不思議な雰囲気を醸し出している。かつての暖かな照明も良かったが、この青い光には、何か特別な魅力がある。まるで異世界に足を踏み入れたような、そんな感覚だ。店内は広々としていて、いつもと変わらないインテリアがそこにあるはずなのに、青い光がそれらを新鮮に映し出している。

僕はその変化を楽しみながら、カウンター席に座った。奥の厨房から、インド人のシェフが顔を覗かせ、にやりと笑う。「久しぶりだな」と言わんばかりのその笑顔に、僕も軽く会釈で応じる。彼の笑顔には、どこか謎めいた何かがあるが、それがこの店の魅力の一部でもあると感じた。

「いつものダブルチキンカレーをお願いします」と、僕は自然と口にした。しばらくぶりだが、頼むものはいつもと変わらない。タンドリーチキンが乗ったカレーは、僕の中で定番中の定番だ。

店内の薄暗い青い光の中で、僕は待ちながら周囲を観察する。壁には古いポスターやタペストリーがかかっており、テーブルにはスパイスの瓶が並んでいる。青い光がそれらを幻想的に照らし、まるで別の世界にいるような気分だ。だが、その非日常的な雰囲気を、僕はむしろ楽しんでいた。

カレーが運ばれてくると、湯気とともにスパイスの香りが漂ってきた。いつも通りの香りと、どっしりとしたタンドリーチキンが目の前にある。それを口に運ぶと、舌の上でスパイスが踊り、旨味がじわりと広がる。この瞬間を待っていたんだと、僕は満足感に浸った。

食後、冷たいアイスチャイを注文し、ストローでかき混ぜながら、ふと考えた。そういえば、最近、恋というものから遠ざかっているな、と。だが、それはそれでいいのかもしれない。この青い光に包まれた店内で過ごすひとときが、今は何よりも心地よかったからだ。

最後に一口アイスチャイを飲み干し、僕は立ち上がった。店を出ると、再び現実の世界が広がっていた。だが、心の中にはまだ、あの青い光の残像が微かに残っていた。少しの余韻を楽しみながら、僕はオフィスへと戻っていった。

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