猫をケースに連れてラーメン食べている男ときどきテレビ見上げる

【嘘かと思った日記】


○月○日 晴れ
 大型台風の上陸前日にスーパーに寄ると、食品の棚から綺麗に品物が全部消えていた。パンもおにぎりも全て。ついでに乾電池も消えていた。反射的に「これは嘘だ」と思った。現実の状況を見て反射的に「嘘だ」と思う脳の動きは何なのだろう。現実が圧倒的すぎて、受け入れがたい時に起こる歪み、とでもいうのだろうか。どう考えても、これは現実だ。

○月○日 曇り
 歩いていると、知らない野良猫が全身で喜びを表しながら私に全力で駆け寄ってきた。え?と戸惑う私。え?と戸惑う私を見て、はたっと立ち止まる猫。無言。そして、猫は何事もなかったように顔を逸らして自然体を装って方向転換、どこかへ消えてしまった。
 猫も人間違い(ひとまちがい)をするのか。嘘かと思った。

○月○日 雨
 月曜日に職場の係長がお休みをしたので、次の日に「風邪ですか?」と聞いたら、「お味噌汁を注ごうとしてね・・・・・・手がつった!」と答えたので、嘘かと思った。
 でも周囲の人々はみんな「大丈夫ですか?」と心配をしていた。

○月○日 晴れ
 係長が原付バイク用のフルフェイスのヘルメットをかぶったまま、仕事をしていた。え?遂に何かが起こるのだろうか。私は戦慄した。そちらを見やったが、真っ暗なヘルメットに阻まれて、係長の表情は全く分からない。できれば隣に座りたくない。そのまましばらく普通に仕事をして、係長はヘルメットをかぶったまま事務室を出ていった。
 翌日聞いたが、定時に帰りたいという気持ちで頭がいっぱいになって、自分がすでにヘルメットをかぶっていることに自分ではまったく気づいていなかったらしい。嘘かと思った。


○月○日 晴れ
 最近観た映画の話になって、係長が「フォードVS フェラーリ」を観たよ、面白かったと言った。なんでそんな存在しない映画の話をするんだろう、と思いながら私は頷いていた。しばらくして、それが普通に存在する映画だということを知った。ショックを受ける。
 なんで、私はそれを存在しない映画だと思ったのだろう?

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