Vol.39 その子の中で起きていること

 わたくしの考えは、たとえばいわゆる系統学習と経験学習という対立について申しますと、はっきり経験学習のほうにあります。なぜそうかと言いますとですね、いま申しましたように、人間の考えが発展をしほんとうに働いていく姿は、つねに試行錯誤的な性格をもつと考えるからなんです。ブルドーザーかなにかできれいに地ならししてしまったところをですね、さっさっと歩いて行くのはきわめて論理的であるようにみえるわけです。しかし、そういうたんたんとしたところを歩くというのは、これは学校のなかでこそ、すなわちつくられた特別のところでこそ可能になるかもしれませんけれども、実際にわれわれが生きている社会で知識を働かせていくという場合には、そう都合よくはまいりません。手をかえ品をかえですね、ああでもないこうでもないというふうに道具をあれこれ選びかえながら解決を目ざすというのが当然なんです。そんな面倒はいやだと言ったってそれはしようがない。それがわれわれの生きるということなんですから。そういたしますと、そのような試行錯誤的な、ちょっとさわってみてですね、堅いとか軟かいとか安全そうだとか危険がありそうだとか、いろいろためしながら進んでいくというのが、やっぱり思考というものの本質的な性格だといわなければならない。

上田薫(1975),過程に生きる立場 P61

 来週から「大造じいさんとガン」に入ります。なので今、まずは自分自身がこの物語を読み深めています。

 自分が小学生のときに、はじめてこの作品と出会いました。小学生のときは「ガンのかっこよさ」が物語の魅力でした。最後の最後まで戦い続ける「ガン」に惹きつけられたからこそ、この「大造じいさんとガン」という物語をずっと忘れなかったのだと思います。

 教師になり、さまざまなことを考えながら読むとまた違った感じ方がありました。ですが、小学生の自分が、はじめてこの物語を読んだ自分が感じた「物語の魅力」も大切にしていきたいです。

 子どもたちもきっとさまざまなところに惹きつけられると思います。それだけこの物語には「物語の力」があると思います。子どもたち一人ひとりの読み深める過程を追いかけていくために、今、その子の中でなにが起きているのかを捉えるために、もっと自分自身がこの物語を読み深めておく必要があるなと思いました。

 あとは、子どもの読み深める過程にどう指導事項を絡めるか。内容と構造の把握はどうするのか。まだまだ考える必要がありそうです。

 ただ、『物語の魅力を実感していく』という過程の中で、教師としてなにかを「押さえる」とか「教え込む」とかをしてしまうと、正解さがしのようなものになってしまったり、当てはめようとする姿勢を生み出してしまうことになったりしてしまいそうです。子どもたちが魅力を実感していく過程にどうかかわるか、支える必要があるものはなにか、ともっと試行錯誤していきます。

 やっぱりその人間の体質をよく見て、この子どもは残念だけれどもこれは教えられない、というものがあってしかるべきだ。わたくしはその点どうもやっぱりまだあんまり進歩しているといえない医学にさえ、教育はずっと遅れをとっていると思うのです。医学のほうはその人間をよく調べて、それに応じてしか処置をしないんですけれども、教育のほうはだいたいにおいて、万病にきく薬ってなものをしきりにやってるわけですね。残念ながらどうも原始的だと思うんです。

上田薫(1975),過程に生きる立場 P91

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