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プログラミング初心者の小児科医が、もいせん3期生になってつくったものと感じたこと

自己紹介ともいせんの紹介

初代ウォークマンと同級生で、ガジェット好き

まず私の個人的な背景についてお話します。私は初代ウォークマンと同級生の大阪に住む小児科医です。

同級生なので、この初代ウォークマンを手にしたことはありません。笑
ですが中学生以降に、カセット→CD→MDと複数台のウォークマンを所持していました。その後、iPod、iPhoneへと移り変わっていきました。
その他、PCやデジカメ、スマートホーム家電から調理用家電にいたるまで、様々なものに興味がある、いわゆるガジェット好きでした。家電芸人ならぬ家電ドクターでしょうか。笑
ただそれは今っぽくいうと「ガジェット推し」の状態であり、単にいち消費者として好き、ということです。プログラミングという技術・文化というものがあるのは知っていましたが、自分がやるものではない、と特に深く考えることなく思いこんでいました。
このブログは、そんな私が2022年9月からもいせんの3期生になって、医療×テクノロジーに挑戦した体験記です。

もいせんとは


もいせんとは、ものづくり医療センターの略称です。ものづくり医療センターは、現場にいる医療者が、自身の直面する課題をテクノロジーで解決できることを目的に運営されている医療者向けプロトタイピングスクールです。そのため、すぐにエンジニアへの転職を目指すことが目的ではなく、「課題を認識し、解決する実装力」を育成することが目的です。
講義はWeb形式(主にZoom)で行われ、今回つくったLINE Botの講義もありますが、それに特化しているわけでなく、様々な技術に触れる機会を提供してくれます。また、入院中に特別講義が数回行われ、いずれも素晴らしかったです。同じ医療者でありながらテクノロジーに精通された演者の講演を聴かせていただき、とても励みになりましたし、仕事をする上でとても参考になるお話でした。
ちなみにもいせんは「医療センター」という名前で運営されていますので、3期生になることを入学ではなく入院、最終日の制作発表を終えることを卒業ではなく退院、と呼んでらっしゃいます。遊び心ありますよね。笑

ものづくり医療センターHPより

私は2期に参加した知人の制作発表(DemoDay)をみて、「ガジェット推し」から一歩先にふみ出すことを決意したのです。

いまこどもたちに食物アレルギーが増えている

かつてぜんそく、いま食物アレルギー

ここからしばらく、医療のお話をします。
はじめに申し上げましたが私は小児科医です。中でも、アレルギー疾患を専門に診療しています。私自身もこどもの頃はぜんそくで、せきこんで眠りにくい夜を過ごした経験があります。
「アレルギー」といえば、かつてはぜんそくでした。
しかしこの20年ほどの間にぜんそくの総数は少し減り、ぜんそくによって死亡するこどもはゼロになりました。
かわって増えてきたのが「食物アレルギー」です。食物アレルギーの方は、原因となる食べものを食べると、だいたい30分〜2時間程度でアレルギー症状がでます。皮膚が赤く腫れたり、せきがでて息が苦しくなったり、お腹が痛くなって吐いたり下痢したりするのです。これらの症状が同時にでて、急速に進む状態をアナフィラキシーと言います。この状態になると時に生命の危機に陥ることもあります。
食べ物という我々に日々の生活に欠かせないものによって起こるので、食物アレルギーの症状がでるのは自宅や学校など、医療機関ではない場面が多いです。そうなると、本人や家族、学校の先生方がこの状況に対応しなくてはなりません。医療者でもあわてるアナフィラキシーです。一般の方が適切に対応するのは決して簡単ではありません。
もちろん我々は患者さん本人や家族に対し、アレルギーが起きてしまったときに使うお薬をだし、定期的にアレルギーがでた場合の対応を説明します。お薬で最も効果が高いのはエピペンです。エピペンは注射薬ですが、患者さん本人またはご家族が自分で注射することができ、全てのアレルギー症状に効果があります。

エピペンのイメージ(「いらすとや」より)


しかし、もちろん患者さんも原因となる食べ物を食べないように日々注意をしていますから、しょっちゅうアレルギーがでるわけではありません。そんな中で時折、間違えて食べてしまう、またはふだんは食べられても運動後にアレルギーになってしまうことなどがあります。そこで、ずっと昔に医療機関で教えられたお薬やエピペンの使い方や使うタイミングを覚えていて、適切に対応するのはハードルが高いです。

アレルギー緊急対応を自宅や学校で適切に行うのは難しい

外来でこんな会話がくり広げられることがあります。
養育者「先日、こどもがまちがえてお菓子を食べてしまいアレルギーになったんです。」
医療者「え!どんな症状だったんですか?」
養育者「それが、××××という感じだったんです。」
医療者「(結構重い症状だな。)で、エピペンは?」
養育者「うたなかったんです。こわくって。」
医療者「(うたない方がこわいけどな。)そうですか。で、どうなったんです?」
養育者「お薬のませて、朝おきたら治っていました。」
医療者「そ、そうですか、それはよかったです。苦笑」

養育者と医療者の間にたちはだかる壁

本当は、養育者も医療者もアレルギーをもつこどもの健康を願っているはずなのに、両者の立場の違いからこの様な壁が生まれてしまうことがあります。
私はアレルギーを診療する小児科医として、この壁をテクノロジーを使って打ち破りたいと思ったのです。

アレルギー診療×テクノロジー

では、ここからは実際に私が何をどのようにつくったのかについてお話します。

アレルギー対応LINE(公開版)


早速ですが、最終的にできたのがこれです。

アレルギー対応LINE(公開版)画像

実際に試してみたい方は、こちらのQRコードをご自身のスマホで読んで、友だち追加して使ってみてください。

アレルギー対応LINE QRコード

スマホを使ってこの記事を読んでいる方は、こちらから友だち追加してください。
このLINE Botの作り方やコードは、Qiita記事「LINE Botでアレルギー児とその家族を支えたい〜プログラミング初心者の小児科医が開発してみた」を書いたので、よろしければご覧ください。このBotで使用したコードは、特定のキーワードに反応して次々に動くようになっていますので、アレルギー対応だけでなくフローチャートによって判断する場合に応用できると思います。

実はこの公開版としているLINE Botは、もいせん退院後に作成したコードでつくりました。私は、これを開発した後に社会に広めていきいたいと考えています。その上で、コピペだけで実装できるものにしたいため、退院後に修正しました。
まさにもいせん入院によって「課題を認識し、解決する実装力」がついたのかもしれません。

アレルギー対応LINE(もいせん入院中版)


私はもいせん入院前から、今回つくったBotを作ることを目的にしていました。そのため、LINE Botが講義ででてきてからはその仕組みに慣れることに力を注ぎました。最終のDemo Dayに向けて制作活動が始まってからまず、YES/NOチャートを動かすLINE Botを参考に、スプレッドシートの内容だけを変えてBotをつくりました。後に、文字だけの表示では味気ないと思い、LINE Developersを参考にメッセージタイプを変更しました。
それからLINE Botでレシートを自動解析を参考に、特定原材料(食品表示法で原材料に記載が義務付けられているアレルゲン)が含まれているかどうかを判定する機能を実装しました。食品表示をカメラで撮影したり、カメラロールから選ぶときの手間が省けるように、クイックリプライ機能も導入しました。
以下の写真でご確認ください。

クイックリプライでカメラ起動、OCRにより特定原材料の有無を判定

ただし、公開版ではこの機能を外しました。その理由は、うまく反応しないがためにアレルゲンの混入に気づかず起こる事故を防ぐためです。ただし今後、別のBotとしてあくまでお遊びで確認するツールとして公開したいと考えています。
エピペンの使用方法やその後の対応方法は、iPhoneのボイスメモで録音した音声をCanvaにいれて動画を作成し、YouTubeにアップ(限定公開)しました。これは公開版にも流用しています。

つくりたい!と思い立ってから5か月経った今の思い

2022年9月に入院して、このブログを書いている2023年2月初旬現在まで、約5か月経ちました。今の思いをまとめるとこんな感じです。

  • もいせんに入院して良かった!

  • 人生いまがいちばん若い日ってほんまやな!

  • 「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」教育方法ってすばらしい!

今の私は、もうプログラミングの何たるかがわかった!といえる状態からは程遠いですし、明日からプログラマーとして食べていける!というわけでもありません。当然ですが。笑
でも、今まで遠くから傍観していた「プログラミング」の山へ、一歩めを踏み入れることができた様に感じています。これから私がその山を少しずつ登っていくのか、しばらくしたら下山するのかはわかりません。
でもこの歳になって、こんなにワクワクした日々を過ごせるとは思っていませんでした。それだけでも十分な意味がありました。
さらに、新たな知人、友人、仲間ができました。もいせん入院中に一緒に悪戦苦闘した同期の方々はもちろんのこと、1期、2期の方々とも色々な方法で繋がりをもつことができました。
そしてなんと!退院後に、もいせんを通じた新たな医療×テクノロジーの挑戦が始まりました。その名も「もいせんこどもクリニック」です。まだ何をするのかすら決まっていない段階ですが、テクノロジーで社会に還元できるものがつくれるのではないかとワクワクしています。

以上、初代ウォークマンと同級生の小児科医のプログラミング体験記でした。このブログを読んだ皆様が、プログラミングに興味を持ったり、いくつになっても挑戦することの意義を感じてもらえたりしたらうれしいです。最後までお読みいただきありがとうございました!


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