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【歴史本の山を崩せ#015】『長篠合戦と武田勝頼』『検証 長篠合戦』平山優

《名高き合戦の虚実を描く》

日本近代史近辺の本ばかり読んでいたせいもあってか、久しぶりに読む戦国時代の本がすごく面白い。
戦国時代武田氏研究の雄・平山優さんの本です。
先入観に凝り固まってしまったイメージとしての歴史を、丹念に史料を読み込んで史実として再生していく。
コツコツとした積み重ねで歴史を描き出していく平山さんの歴史叙述は歴史学者としてとても好感が持てます。
そんな平山さんとはじめて出逢ったのが今日の2冊です。

戦国時代でも有数の地名度を誇る長篠合戦をテーマとした2冊です。
もともとは敗者の日本史シリーズの1冊として書かれたものですが、平山さんの仕事量の多さから、収まりきらなかった分を別の本として書き直されたというものになります。
前者が『長篠合戦と武田勝頼』(以下、『勝頼』とします)、後者が『検証 長篠合戦』(以下、『検証』とします)です。
このような経緯を辿っているため、可能であれば2冊とも読むことを推奨します。

『勝頼』では史料的信憑性が劣ると見做されてきた『甲陽軍鑑』や小瀬甫庵の『信長記』を特に断りなく史料的な根拠として多用しています。
正直、この点ははじめて『勝頼』を読んだときは大きな不満点でありました。
しかし、『検証』を読んで、その不満点は解消されます。
『検証』には、この両史料についてもその性質や信憑性を考慮した上で、史料としてどのように扱うかをしっかりと書かれていたからです。
本来は『勝頼』に入れるはずだったのに収まりきらなかった部分であり、2冊とも読むことを推奨する理由はこういうところにあります。

どちらか1冊を選べと言われれば『検証』の方がよいかもしれません。
構成がスタンダードな歴史学の手法をしっかりと踏まえており、これから本格的に歴史学を学ぼうとする人…例えば史学部の大学一年生など、ひとつのモデルとしてもよい本だと思います。

戦国最強と謳われた武田騎馬軍団の実態は?
信長の鉄砲三段撃ちは史実なのか?
保守的な武田が革新的な織田に敗れ去ったという歴史認識は妥当なのか?
長篠合戦の歴史的な意味は何だったのか?

後世作られたイメージが先行する戦国時代に名高き合戦の虚実を、改めて問い直します。
是非とも2冊併せてお読みあれ。

『長篠合戦と武田勝頼』
『検証 長篠合戦』
著者:平山優
出版:吉川弘文館
初版:2014年
定価:『勝頼』2600円+税
『検証』1800円+税


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