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漢文の海で釣りをして【第10回】水に流せないうらみもあるからこそ、小さな心遣いにもありがとうを

「一飯の徳も必ず償い、睚眦(がんさい)の怨みも必ず報ゆ」
≪訳≫たった一杯の飯の恩義も必ずお返しするし、ちょっと睨み付けられたうらみにも必ず仕返しをする
≪出典≫『史記』范雎蔡沢列伝

この物語の主人公は范雎(はんしょ)という男。
非常に有能な人物でしたがスパイの濡れ衣を着せられて筆舌に尽くしがたい仕打ちをうけます。
拷問にかけられた上、簀巻きにされて糞尿の浮かぶ便所の中に捨てられ、汚物を浴びせられる…
見張り役に頼んで、すでに死んだことにして逃がしてもらい窮地を脱したのでした。

もともと有能な人物だった范雎は他国に逃げ込むと才覚を発揮して宰相にまでのぼりつめます。
そして自分に濡れ衣を着せた人物を追い詰めて、復讐を果たしたのでした。
『史記』には復讐劇がいくつか出てきますが、范雎の例は一番の成功例でしょう。

さて、范雎が自らのポリシーともいうべきものを語ったものが今回の一句です。
この復讐劇を見るだけだと睨まれたうらみも晴らす執念深い男とも見えますが、一方で受けた恩義に対しては自分が多大なリスクを背負うことを承知しながらも恩返しをしています。

受けた恩義は忘れてはいけない。
受けたうらみは忘れたほうがよい。

でも忘れられないうらみというものは消しがたいものです。
だからせめて、受けた恩も同じように忘れられないようにしたいものです。

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