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医療における各省庁の思惑(2024年度保険改定の裏側)

初めに

 2024年度の診療報酬改定については、本体は0.88%のプラス改定といわれながら、物価上昇率を考えればがっかりしている施設管理者が多いと思います。そこにはさまざまな事情があるわけで、どんな場合においても自分たちの要求がすべて通るわけではないのは世の常です。ただ、その事情というものは理解しておく必要があるのではないかと思っています。
 今回は、医療に主にかかわっている四つの省庁(財務省、経済産業省、文部科学省、そしてもちろん厚生労働省)についてお話をします。それぞれについて、ヘルスケアに関わっている背景を書いてみたいと思います。

財務省

 いわずとしれた予算配分の大親分です。現在の医療費は40兆円をこえて、国の負担が非常におおきくなったと言われています。ただ、その半分が健康保険組合から支払われ、そして患者負担分がありますので、直接的な国庫負担は10兆円をすこし超えるくらいといわれています。
(注:国民医療費を財源別に見ると、公費は16兆4,715億円(構成割合38.9%)、そのうち国庫は10兆8,699億円(同25.7%)、地方は5兆6,016億円(同13.2%)となっています。そして保険料は、20兆6,746億円(同48.8%)、そのうち事業主は8兆7,299億円(同20.6%)、被保険者は11兆9,447億円(同28.2%)となっています。また、その他は5兆2,183億円(同12.3%)、そのうち患者負担は4兆9,161億円(同11.6%)となっています。日本病院協会HP https://www.ajha.or.jp/guide/1.html より転載)
 とはいえ、今回のコロナ禍に限って言えば25兆円をこえる公費が医療関連につぎ込まれました。そのおかげで日本は非常に少ない死亡者数でコロナとの戦いを終えることができました。実際、その間、多くの医療機関は経営に関する問題を気にすることなく新型コロナへの対応を進めることができました。しかし、そんな中で、高額医療機器の更新をふんだんにおこなった施設があったり、何億稼ぎましたとか公言する開業医がでたりしたのは、かなり財務省の癇に障ったようです。結局それが2024年の厳しい診療報酬改定への予算配分の布石になってしまったように考えています。

経済産業省

 経済産業省は国民一人当たり30万円を超えるようになってしまった医療費に非常に危機感を抱いています。医療自体は国民の財産を大きく消費する負のインフラですが、それを産業としてとらえることができないかと考えているのが経済産業省です。
 国内においては、厚生労働省の管轄から外れているヘルスケアを産業としてとらえビジネスチャンスを創出しようとしています。同時にさまざまなヘルスケアシステムを海外に輸出する手助けもしています。ただ、最近は、再生医療や患者申出医療制度など、厚生労働省の管轄している医療の分野への民間保険の参入を画策し、最終的には公的保険で賄われる従来の保険医療と民間保険で補填される高度医療からなる二階建ての医療システムの構築を画策しているように思います。
 保険改定には表立って関わっていませんが、保険診療での収入が厳しくなれば、自費診療をいかにして取り入れていくかが収益改善の鍵になりそうですので、そこに経済産業省は関与するつもりかもしれません。

文部科学省

 国立大学病院などを管轄する文部科学省は、その経営にまで口を出す権限があります。2023年度の国立大学病院長会議については何度も報道がありましたが、経営改善について毎回厳しい話が文部科学省からなされています。国立大学病院はコロナ禍における補助金がなくなった2023年から急速に収益が悪化しているのですが、文部科学省は補助金などでその赤字を補填する気(余裕もですが)は全くないようです。
 2023年度に少し気になったのは、国立大学病院長会議において、文部科学省が医薬品や医療機器の共同購入を進めるようにハッパをかけたことがわかっていることです。共同購入は卸からの納入価をできる限り下げるように交渉することですが、そのしわ寄せは中小の医療施設の納入価にいくことになります。一般病院としては非常に困った話とも言えます。

厚生労働省

 医療の総元締めといえば、当然厚生労働省となります。厚生労働省はどちらかというと医療側に立って、日本の保険医療を調整してくれているように感じています。ただ、その予算配分は財務省により行われるわけで、仕方ないのですが、診療報酬改定などではできないことが当然出てしまいます。医療側と面と向かって交渉する省庁としてはしんどい部分もあるでしょう。
 ちなみに厳しいルールの策定が十八番なのですが、それが各所で逆にモラルハザードの原因となっているかもしれないと最近感じています。

最後に

 ということで、これらの省庁が国民の医療に主に関与していることとなります。医療においては、現在の増加する高齢者への医療と、そしてその後にくる本当の人口減少時代のことを考えながら様々な対応をしなくてはいけません。政府はそういった事情を踏まえながら、国民の自然な行動変容が進むように政策を立案しているように感じています。我々医療従事者は目の前の患者さんのことに対応するのが精一杯な毎日ですが、我々自身も先を見据えた考えというのも重要と思っています。


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